「海辺の美女の問題」が示唆する衆院総選挙での候補者の選択
選挙とは有権者一人一人に取って、候補者を選択する行為になります。この選択に数学が役に立つと言っても信じてもらえるでしょうか。有権者が複数の立候補者の実績や公約、それに人間性まで考慮して、ただ一人を選択することは、非常に難しい問題と考えられるでしょう。
立候補者すべての意見を聞いた上で、さらにそれぞれの実績や人間性を考慮して選択しなければなりません。しかし最初に接した立候補者の意見に影響されて、投票までに至る事も少なくは有りません。このような人の選択に関して、数学が重要な示唆を与えているのです。
多数の中なら最良の選択を行うための戦略が有ります。それは数学上で「海辺の美女の問題」あるいは「美人秘書選択問題」と呼ばれています。n人の美女(美男)が海辺に並んでいるとします。それを端から見て行き、一番に美人と思う人を選択します。後戻りは許されないものとします。数学的に言えば、美女(美男)の1位からn位までの順位は、その並び方としてn!通りあります。その順列が等確率で現れるとします。当たる順位の期待値を最小にする選び方を求める問題です。この解法は論文になるぐらいですから、説明するのは容易ではありません。様々な場合分け、組み合わせを考えることによって解法を導くことが可能です。この解法により求められる戦略をとれば、高い確率で4位以内の相手を選ぶことが可能になります。誰が最良の相手かもわからないにもかかわらず、4位以内の相手に巡り合えるというのは騙されたような気もしますが、これは事実なのです。
たとえば、海辺で出会うであろう美女(美男)が世の中に20人いると仮定します。20人には自分の好みの順位が付けられているのですが、その中の誰から順番に巡り会うかはまったくわかりません。このとき、
(1)まず、最初の5人はすべて見るだけで選択しない。
(2)次の5人については、その人が、それまでで最高だったら、選択する。
(3)次の3人については、それまでで最高か2位だったら選択する。
(4)次の2人については、それまでで最高か3位までだったら選択する。
(5)16番目の人が、それまでで4位以内だったら選択する。
(6)17番目の人が、それまでで5位以内だったら選択する。
(7)18番目の人が、それまでで7位以内だったら選択する。
(8)19番目の人が、それまでで10位以内だったら選択する。
(9)最後の人は、選択せざる得ない.
という方法を取ります。この選択法を取れば、平均して3位以内の人をゲットできるはずです。数年前に、この選択方法は「婚活」の最良選択法としてよく紹介されていました。
婚活を通して幾人もの人と知り合い、その中から選択することが一般的です。お付き合いをしながら、結婚まで至るかが問題なのです。ここでお付き合いをしている人と結婚するかという決心は重要な選択です。決して二股は許せません。では、婚活を始めて何人目の人と結婚するのが選択として一番正しいでしょうか。つまり、お付き合いをして決心に至らなければ、次の人とお付き合いを始めるということを進めます。どこかで、諦めて(失礼!)この人と結婚すると決めるとき、すなわちこの人が、これまで会った人、そしてこれから会うかもしれない人と比較して最良であろうと予想して結婚を決めるものとします。さらに、さかのぼって、つまり元カレ、元カノとの結婚は許されないとします。一番最初に出会った人と結婚すれば、将来もっと良い人が現れたのではと後悔します。逆に数多くの人と付き合うだけで、結婚に踏み切らなければ、最良だったかも知れない人を見過ごすことになるので、さらに後悔するかも知れません。ではできるだけ後悔しないために、何番目に付き合った人と結婚を決意すれば良いのでしょうか。この最良選択法が「海辺の美女の問題」なのです。
選挙ではこの方法は使えません。なぜならば、立候補者を一堂に会して選択することができ、投票前であるならば選択を変える事、婚活で言えばさかのぼって付き合い直すことができるからです。しかし重要な示唆を与えています。つまり、後戻りが出来ない「海辺の美女の問題」であっても、最初の数人を選択しない、つまり無条件に見逃す事です。選挙でも一人の候補者だけに注目する事なく、必ず何人かを評価しながら見逃す事が最適な選択方法である事を示唆しています。最初に注目した候補者が必ずしも最良とは限らないのですから。
【参考文献】
- 数学100の問題、数学セミナー編集部編、日本評論社、1999年8月