指名戦がミスマッチ? 現役最強カネロ・アルバレスが格下ボクサーと戦う事情
2月27日 フロリダ州マイアミ
ハードロック・スタジアム
WBAスーパー、WBC世界スーパーミドル級タイトル戦
王者
サウル・アルバレス(メキシコ/30歳/54勝(36KO)1敗2分)
対
挑戦者
アブディ・イルディリム(トルコ/29歳/21勝(12KO)2敗)
2021年に行う4戦の第1戦?
「1戦ごとに考えていくが、できれば今年は4戦戦いたい。(ただ、)今、決まっているのはこの試合だけ。自分の仕事に集中しているよ」
25日に行われた会見でそう述べていた通り、カネロは2021年中に4試合行う希望を持っているのだという。
27日にWBC指名戦をこなしたあと、5月にWBO王者ビリー・ジョー・サンダース(イギリス)との統一戦。その後、9月にIBF王者ケイレブ・プラント(アメリカ)との統一戦か、宿敵ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)との決着戦を行い、12月は再び今週末のようなショウケースファイトになるのだろう(今年4戦目の開催地候補には東京も含まれている)。
パンデミックのおかげで2020年は1戦のみに終わり、全盛期をこれ以上無駄にしたくないという思いは強いに違いない。DAZNとの長期契約が一旦無効になり、自由を得た代わりに、1戦ごとの報酬はやや割安(昨年12月のカラム・スミス(イギリス)戦のファイトマネーは約2500万ドル&ゲート収入、イルディリム戦は同1500万ドルとされる)となっただけに、よりハイペースで戦って損失分を取り戻したいという気持ちもあるのかもしれない。
ともあれ、トップファイターは1年2戦が基本となった現代において、現役最高の商品価値を誇る選手がこれほど頻繁にリングに上がることは業界全体にとってポジシティブなことに違いない。もちろん今後の試合内容、結果によってプランはいつでも変わるが、その意欲自体はリスペクトされてしかるべき。3、4戦もこなすのであれば、そのうちの1、2戦は格下と目される対戦相手だったとしてもファンは目くじらを立てるべきではあるまい。
カネロ絶対優位の指名戦
今週末に相まみえるイルディリムも“格下”と称されて然るべき選手であることは、すでに盛んに語られている。それでもWBCの指名挑戦者であり、目標に掲げるスーパーミドル級の4団体統一を成し遂げるには戦わなければならない相手だ。
トルコ出身のイルディリムは世界トップレベルと目されてきたボクサーではなく、2017年には現WBA世界ミドル級暫定王者のクリス・ユーバンク・ジュニア(イギリス)に3回KO負け。2019年にはアンソニー・ディレル(アメリカ)とのWBC王座決定戦でも1-2ながら負傷判定負けを喫している。
その後は1戦もこなしていないにもかかわらず、なぜWBCの指名挑戦者になったのかは理解に苦しむ。思い切って放つ左ボディ以外に目立った武器はなく、正直、心身が充実した今のカネロに勝機があるとは考え難い。身長こそイルディリムが上回っているが、カネロが長身選手を苦にしないことは前戦のスミス戦で証明した通りだ。
「すべての選手をリスペクトしている。今、目の前にいるチャレンジャーに関してもそれは同じだ。彼が多くのツールを備えていることはわかっている。これまで通り、仕事をこなし、歴史を作るというメンタリティで臨む」
最終会見でそう述べていたカネロは、もともと用意周到なタイプだけに“ミスマッチ”と称される一戦でも油断はあるまい。コーナーには先週、オスカル・バルデス(メキシコ)の劇的な勝利に貢献した絶好調のエディ・レイノソ・トレーナーがついており、様々な意味で死角は見当たらない。
慎重な戦いぶりが特徴の1つでもあるカネロだが、力が落ちる選手が相手の際は早い段階で詰めにいく姿も見受けられる。今回の挑戦者はおそらく2018年12月に3回でストップしたロッキー・フィールディング(イギリス)と似通った実力だけに、決着は早いかもしれない。2015年5月のジェームズ・カークランド(アメリカ)戦のような破壊的KOを予想する声もあり、ファンは序盤ラウンドから目を離すべきではないのだろう。
マイアミというマーケット
最後になるが、今回の試合はフロリダ州マイアミで開催される珍しいビッグイベントであることも付け加えておきたい。
NFLのマイアミ・ドルフィンズの本拠地であるハードロック・スタジアムに、ソーシャル・ディスタンスで約15000人を動員予定。近年のカネロの本拠地となっていたラスベガスでは依然として大観衆を動員するメドが立たず、テキサス州も2月いっぱいまでは規制が残っているため、フロリダの大スタジアムにホストとしての白羽の矢がたてられることになった。
米在住者はご存知の通り、マイアミはラスベガス、ニューオリンズと並ぶアメリカ最大級のパーティタウン。スポーツイベント挙行の実績も豊富で、近年はボクシング興行が少なかったのが不思議なくらいではある。筆者がマイアミでボクシングを観るのも実に2002年2月のロイ・ジョーンズ・ジュニア(アメリカ)対グレン・ケリー(アメリカ)戦以来であり、今週末はどんな雰囲気になるかを楽しみにしている。
「マイアミで試合を開催し、この街がボクシング興行のために開けていくことが嬉しい。ドルフィンズ・スタジアムで戦えることもハッピーだし、今後も何度も戦えることを願っている」
まだプロスペクトだった2008年以来となるマイアミでの試合に臨むカネロも、今戦を前にそんな喜びのコメントも残していた。
パンデミックゆえに、しばらくボクシングに縁遠かったパーティタウンに大興行が戻ってこようとしている。カネロ対イルディリムの最終会見が行われた25日、テオフィモ・ロペス対ジョージ・カンボソス・ジュニア(オーストラリア)戦の興行権を落札したショート動画アプリTrillerもこの試合をマイアミで挙行したい意向を示している。
ここで新たな流れができていくのだろうか。そんな観点からも、今週末のイベントの成否は余計に大きな意味を持っていると言えるのだろう。