博多の「あまおう」や栃木の「とちおとめ」では世界で勝負できない理由
■産地ブランドだけでなく「ジャパンブランド」を育てよう
日本の産地間で繰り広げられている壮絶な農産物の産地間競争。切磋琢磨するその姿はとっても微笑ましい。だけど国をまたいで産業として戦うためには大同団結的な産地間連携によって「ジャパンブランド」を育てることが必要だ。
産地間競争はとっても微笑ましいけど、一歩国を出て俯瞰してみると少々もったいないと思うことが多い。事実、日本の農産物は世界中で評価が高く、特にASEANの親日国などでは最高級品としてのポジションを確保しているのだが…。
■世界で無名な日本のイチゴ
だけど、残念ながら超ニッチ。わかりやすいから日本のイチゴの例。シンガポールや香港の高級食品店に行くと随分幅をきかせているように見える日本の高級イチゴだが、数字でみると輸出額は年間たったの2憶4000万円。輸出量も120トン/年間。これはちょっと規模の大きい農業生産法人1社分程度。とても輸出産業とは言い難い。
具体的にシンガポールの例を見てみる。シンガポールは赤道直下。冷温性作物のイチゴを育てるのは大変難しいため、その需要のほとんどを輸入でまかなっている。日本の食文化が大好きなシンガポール。マーケットは日本のイチゴで埋め尽くされていると思いきや、輸入量に占める日本イチゴシェアはたったの0.3%(約10トン/年間)。トップは断トツでアメリカが約50%(約1500トン/年間)のシェアを取っている。2位が韓国30%。日本のイチゴは目立つ棚にならんでいるけれど、実際にシンガポール人の胃袋を占めているのはアメリカと韓国のイチゴちゃんなのだ。
■本当に日本の農業は輸出産業になれるのか?
なぜこんな状況なのか。問題の一つに産地間が連携してまとまった量を確保し、それを国ぐるみで売る体制がまだできていないことだ。シンガポールで消費される日本産イチゴの10トンなどは当社GRAの小型ハウス年間生産量1棟分に過ぎない。最低限、航空貨物コンテナ(5トン)で毎日送り出す位でなくては輸出とは言えない。
もう一つ理由を上げると、日本の農産物は高級品棚だけに並んでいればいいから、品質だけを維持して少量を送っていればいいというそもそものビジョンの問題。はっきり言って隣国の農産物の進化は凄まじいものがあり、ちょっとくらいの品質優位だけで中長期に戦うことは不可能だ。価格が高い日本の農産品が棚から追いやられる日は近いと思ったほうがいい。
産業として農業を成立させるには「点」ではなく「面」を取る覚悟で攻め込まなくてはならない。つまり単価の高いものだけをライフルで打ち込むと同時に、まとまった物量を送り込むことで、ナパーム弾のように面をざっくりと獲る戦略も必要だ。(いつもたとえが悪くて申し訳ないが)。
■さて、どうする? 「世界の中の日本の農業」。
「批判ではなく提案を」ということで、解の方向性をいくつか出してみる。
・品目別に産地間連合をつくって広域でまとまった量の輸出向け産品を確保し、「ジャパンブランド」ポートフォリオをつくろう。世界で戦うための戦略作物を選ぶ際は「市場の大きさ」×「日本産品の競争優位」の単純な2軸で選べばいい。その際には、決して輸送による果実の傷みやすさ、日持ちの悪さなど考慮しないことが大切だ。その前提は輸送技術イノベーションの邪魔になる。では誰がプレーヤーになるのか。
・バリューチェーン(生産・輸送技術・マーケティング・販売)毎に強力なプレーヤーでドリームチームをつくり、まずは1つの産品だけでいいからある1国でトップシェアを取ってみよう。
・農業生産法人は世界市場を視野に入れて経営ビジョンを立てよう。トップダウンではなく、ベース(バリューチェーンの元の方)から攻め上がるのが中長期的には一番パワフルだ。
今回はここで筆を置くが、拙作『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』でGRAの海外での取り組みを紹介しているので是非読んでみてほしい。何らかのヒントになればうれしい。
(文中の数字は農水省統計、財務省統計およびジェトロ流通構造調査リポートから)