中国商務部対北朝鮮制裁リストを発表
4月5日、中国政府の商務部は北朝鮮に対する輸出入禁止に関するリストを公布した。すべて国連安保理決議に従って核やミサイル開発に関係する品目を禁止し、人道民生のための物品は除外するとある。その線引きは?
◆商務部公告2016年第11号
4月5日、中国政府の中央行政省庁の一つである商務部は北朝鮮に対する輸出入品目に関する詳細なリストを公布した。所管は商務部の海関(税関)総署。公告書名は「対朝鮮禁運に対する部分的鉱産物リスト公告に関する商務部公告2016年11号」である。
中国では正式には北朝鮮のことを「朝鮮」と書くが、ここでは全て「北朝鮮」と置き換えて書くこととする。北朝鮮は中国に対して、「北」こそが「朝鮮」を代表するものであるとして、「北朝鮮」という呼称を許さず、「朝鮮」と言わせていることが理由である。
そこには
――国連安保理の関連決議を執行するため、「中華人民共和国対外貿易法」に則って、北朝鮮に対する以下の生産品に関して運行を禁止する。
とある。
禁止品目は以下の4つに分類され、それぞれに対する除外品目列挙されている。
一、 北朝鮮からの石炭、鉄、鉄鉱石の輸入を禁じる。
但し、以下の二種類に関しては除外する。
1.完全に民生目的で核や弾道ミサイル開発に完全に無関係と思われる物品、および国連安保理決議第1718号(2006年)、第1874号(2009年)、第2087号(2013年)、第2094号(2013年)および第2270号(2016年)が禁止している以外のその他の非営利団体が別途収入を得る交易。これらは輸入の際に税関窓口に企業法人代表もしくは責任者が署名し公印を捺した既定の企業承諾書を提出すること。もし、信頼できる情報に基づき、これらが民生目的でなく北朝鮮の核や弾道ミサイル開発に関係していることが明らかになれば、直ちに不許可とすること。
2.北朝鮮原産でないことが確実に証明され、ただ単に朝鮮の羅津(ラジン)港を経由して輸出される石炭で、かつ国連安保理決議第1718号(2006年)、第1874号(2009年)、第2087号(2013年)、第2094号(2013年)および第2270号(2016年)に触れないその他の非営利団体が別途収入を得る交易。(筆者注:提出書類は上記1に準じるので、ここではくり返さない。)
二、北朝鮮からの金鉱、鉄鉱、バナジウム鉱、およびレアアース鉱産物の輸入を禁じる。
三、航空ガソリンやナフサ(石脳油)類を含めた航空燃料、軽油類航空燃料、軽油類ミサイル燃料などの航空燃料の北朝鮮への輸出を禁じる。
但し、以下の二つを除外する。
1.国連安保理制裁委員会がすでに特別に批准した北朝鮮に対する基本的人道主義のニーズに応じた航空燃料。但し、この特別措置が、それ以外の運送目的に使われていないかどうかを監視する。
2.北朝鮮と国外を往復する民用航空機に使う航空燃料。
四、運航禁止とした品目の詳細なリストは附則書類1にある。
(筆者注:附則書類1には以上の禁止品目に関する詳細なリストが、所管の税関と商品番号とともに25項目ほど列挙してある。)
◆線引きは可能なのか?
上記公告は、発布と同時に執行すると謳ってあるが、しかし禁止品目と各除外品目の間の線引きは、実際上、可能なのだろうか?
米とか小麦などの食料品は、区別できるが、それとて人道的に庶民に渡るか否かも疑問だ。ましていわんや、一や三などの線引きが可能とは思いにくい。民間航空機などの運行とか、人命救助のための救急ヘリコプターなどの航空燃料が、軍用目的に転用されていないかは、どのようにして区別するのだろうか?
個人的な話で申し訳ないが、筆者はかつて(1947年~48年)、中国共産党軍によって食糧封鎖され、その中で餓死により家族を失い、包囲網から脱出する途中で餓死体の上で野宿した経験を持つ。そのために一時的に記憶喪失になったこともある。
したがって、その中国(中国共産党)が「人道的見地からの配慮」と強調することに、複雑な違和感を覚えるのである。非人道的な方法で数十万の無辜の民(中国人)を餓死させておきながら、今もなおその事実を認めず、犠牲者を含めて真相を語る者は「犯罪人」として拘束しているのが中国だ。その中国が「人道的見地から」という言葉を発したときに、戦慄を想起させる疑念と思い出したくない記憶への恐怖を覚えながら、中国の真相を追及しようという気持ちが抑えがたく湧いてくるのである。その執念がなかったら、このような執筆活動は続けていないので、個人的動機を挟むことをお許し願いたい。
◆ロシアの制裁遵守に関心を示す中国
中国はいま、たしかに厳しい姿勢で北朝鮮制裁に臨んでおり、むしろロシアが厳重に実行してくれるか否かを警戒している。
特にワシントンで開催されたばかりの核セキュリティサミットにロシアが欠席したことに注目し、米露対立に強い関心を示している。中央テレビ局CCTVでも、それをテーマとした特別番組が数多く組まれている。
中国は1960年代からソ連が崩壊する1991年末まで、激しい中ソ対立を経験しており、その時の中ソ対立を利用して北朝鮮はずるがしこく立ち回ったことがある。
ソ連が崩壊してロシアになったとはいえ、中国のこの警戒心は、消えていないように筆者の目には映る。
この中露関係も、北朝鮮を取り巻く国際環境の中で、注目に値する焦点の一つだと思う。