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あなたは身に覚えはありませんか? 後から出現したとんでもない人物と、土地の相続税の特例との関係

冨田建不動産鑑定士・公認会計士・税理士
(提供:alysantwanet/イメージマート)

■基本的な相続税の仕組みとは

令和3年12月に「令和2事務年度における相続税の調査等の状況」が公表されました。これは、国税庁が相続税について疑問が残る先につき調査をした結果を公表したものです。

国税庁「平成29~令和2事務年度における相続税の調査の状況について」に基づき筆者がグラフ化。なお、令和2年はコロナ禍で金額的重要性がある案件を重点調査したことも令和2年の追徴税額上昇の一因と推察される。
国税庁「平成29~令和2事務年度における相続税の調査の状況について」に基づき筆者がグラフ化。なお、令和2年はコロナ禍で金額的重要性がある案件を重点調査したことも令和2年の追徴税額上昇の一因と推察される。

国税庁「相続税の申告状況について」に基づき筆者がグラフ化。相続人(亡くなった方)一人あたりの相続税額~追徴税額を取られると平均で本来の相続税額の相当程度がペナルティーとして割り増しされる実態がわかる。
国税庁「相続税の申告状況について」に基づき筆者がグラフ化。相続人(亡くなった方)一人あたりの相続税額~追徴税額を取られると平均で本来の相続税額の相当程度がペナルティーとして割り増しされる実態がわかる。

これによると、1件あたりで追徴税額がここ10年間で最高とのことで、コロナ禍で国の支出が多くなったため相続税の徴収もますます厳格化していくと予想されます。

国税庁「相続税の申告状況について」「各事務年度における相続税の調査の状況について」に基づき筆者がグラフ化。コロナ禍で税務署による実地調査激減の一方、課税割合上昇もあり今後の課税強化も予測される。
国税庁「相続税の申告状況について」「各事務年度における相続税の調査の状況について」に基づき筆者がグラフ化。コロナ禍で税務署による実地調査激減の一方、課税割合上昇もあり今後の課税強化も予測される。

このため、相続税申告や節税対策も細心の注意が必要と思われますが、小規模宅地等の注意点を改めて整理したいと思います。

相続税は、基本的には、亡くなった人が残した課税遺産の額を求めて、一定の手順に従って税額を計算します。

その際、民法上で相続人と認められる法定相続人の数で、相続税額は変動します。相続税額が0円でない限り、法定相続人の数が多い方が「その相続に関する全員の相続税額の合計」は減りますが、相続人が多い程、通常は各相続人に帰属する遺産額はそれ以上に減るので、当たり前ですが通常は「ある相続人自体に帰属する相続税額控除後の財産」は法定相続人が少ない方が多いこととなります。

■あなたは身に覚えはありませんか?

これは、ある相続税専門の税理士の友人から聞いた話。

その税理士は、ある都内のお客様の相続税申告案件の申告業務を請け負い、申告期限まで数か月の時点で概ねの相続税申告書を作成して、あとは税務署に提出するだけ…という段階までたどり着いたはずでした。

そんなある日、金融機関からこんな電話があったそうです。

「ところで、このお子さんの扱いはどうなっているのですか?」

税理士としては、当然、ご依頼者から情報収集し、「相続人全員を把握した」上で相続税申告書を作成したはずでした。

ですので、「?」だったそうです。

何のことかと問うと、金融機関いわく「この故人(被相続人と言います)、奥さん以外との間にもお子さん、いますよ」。

そう、被相続人には認知している隠し子がいたのです。

隠し子も子どもですから、もちろん法定相続人に該当します。金融機関は、戸籍謄本を見ていたら発見したらしいのですが、家族関係がややこしかったりすると、経験豊富な税理士でも見落とすことがないとは言い切れません。

しかも、この案件の場合、他の相続人も隠し子の存在を知らず、そのために税理士も隠し子の存在を考慮せず相続税申告書を作成していたそうです。

■後から別の相続人が出現すると、相続税額はどうなるか

まず、法定相続人が一人増えるので前述の理由で相続税額が変わってきます。

それと、相続財産に不動産が含まれる場合、適切な遺言がなかったりすると、「ある相続人が相続する予定だった不動産」の相続に、出現した相続人が合意しないために相続争いとなる可能性があります。

しかも、「その相続人が相続した場合に適用になる小規模宅地等の特例」が、その相続人が相続できなかったばかりに特例の適用から外れ、さらに税額に影響する場合があります。

もっとも厄介な場合は、ある相続人がその家に住んでいる場合です。

つまり、小規模宅地などの特例の中でも使用頻度が高いと思われる「特定居住用宅地等の特例」があります。これは、「被相続人が住んでいた自宅に、残された相続人が住み続ける場合」等は「その相続人の生活を守る意味も込めて、本来の相続税の世界での評価額のわずか2割で自宅の土地を評価するなどで、税金を圧縮できる」特例です。

ところが、追加で現れた相続人が強硬に遺産配分を主張すると、最悪の場合、自宅を手放す羽目になりかねません。

結果、2割で評価してもらえる特例も手放さざるを得ないために、自宅以外の財産を相続する相続人の税額まで上昇させてしまう顛末にすらなりかねないのです。

■どう対策しておくべきか

筆者なりに考える対処法としては、以下になります。

①もしあなたが不動産を所有する場合で、亡くなった後の遺族に相続税の負担をかけたくないと思うなら、「どの不動産」を「誰が相続したら」小規模宅地等の特例を使えるかを把握しておくべき。

②あなたがご自身の亡くなった後でも相続人間にトラブルを起こしたくないと希望しており、かつ、隠し子がいる場合は、相続に際してもめないよう、弁護士等にも相談の上で適切に遺言を認めておき、相続後に禍根が起きないよう対策しておくべき。そして、その際には①の状況も加味して認めるべき。

③もしあなたの配偶者や親御さんに隠し子の匂いが否めない場合は、事前に戸籍のチェック等をするのも一案である。その一方で、小規模宅地等の特例の適用を崩さない相続ができるための対策を前もって練っておくのも一案である。

ちなみに、事もあろうにその隠し子は関西在住だったそうで、動揺する他の相続人たちの依頼で税理士は慌てて翌日、新幹線でその方に会いに行ったそうです。

その後、いろいろとあった末に、隠し子を反映した相続税申告書を提出期限内に提出し、小規模宅地等の特例を崩すこともなく何とか事なきを得たそうですが、隠し子に限らず、後から想定外の事実が判明することに何のプラスもありません

もし、身に覚えがある場合は、ご注意を。

不動産鑑定士・公認会計士・税理士

慶應義塾中等部・高校・大学卒業。大学在学中に当時の不動産鑑定士2次試験合格、卒業後に当時の公認会計士2次試験合格。大手監査法人・ 不動産鑑定業者を経て、独立。全国43都道府県で不動産鑑定業務を経験する傍ら、相続税関連や固定資産税還付請求等の不動産関連の税務業務、ネット記事等の寄稿や講演等を行う。特技は12 年学んだエレクトーンで、平成29年の公認会計士東京会音楽祭では優勝を収めた。 令和3年8月には自身二冊目の著書「不動産評価のしくみがわかる本」(同文舘出版)を上梓。 令和5年春、不動産の売却や相続等の税金について解説した「図解でわかる 土地・建物の税金と評価」(日本実業出版社)を上梓。

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