はやぶさ2と小惑星を知りたい!この夏読みたい惑星科学の2冊
小惑星リュウグウの表面から、岩石採取のミッションに挑んだJAXAの小惑星探査機「はやぶさ2」。今年12月6日の地球帰還と、新たな小惑星へと旅立つミッションの計画がこの7月に発表された。はやぶさ2が届けるカプセルが開封されて小惑星の物質の有無が判明したとき、そのニュースを読み解くには、どのような予備知識が必要なのだろうか。また、7月に関東上空で観測された大火球は、翌日に千葉県習志野市で一部が発見された「習志野隕石(仮称)」である可能性が高い。ではこの隕石はどのような天体から来たもので、どんな物質できているのだろうか? こうした宇宙科学のニュースを読み解くときに手元に置きたい好著が2冊、相次いで出版された。
21編の“イントロダクション”を読む楽しみ『地球・惑星・生命』
日本地球惑星科学連合編集の書籍『地球・惑星・生命』は、地球惑星科学の研究者による21編のトピックスと8編のコラムから成る。第1章「宇宙のなかの地球」では、「2 太陽系小天体探査と『はやぶさ2』」をはやぶさ2チームのプロジェクトサイエンティスト、名古屋大学の渡邊誠一郎教授が執筆している。
2018年6月のはやぶさ2による小惑星リュウグウ到着以来、次々と飛び込んでくる小惑星探査のニュースを読み解くとき、いつでもこうした前提となる解説がほしくなる。「始原天体とは?」「スノーラインとは?」「8億年前に地球に大量に降り注いだという隕石が小惑星リュウグウとつながっているとはどういうことか?」ニュースに接して湧いた疑問に答える手がかりがあれば、ニュースをもっと楽しめる。
科学論文には、イントロダクション(序論)という部分があり、研究の背景や、研究によって何を明らかにしようとしているのか、といった情報が示される。このイントロダクションのおかげで、“研究の文脈”を知ることができるのだ。
本書は、いわば地球惑星科学に関するイントロダクションを21編集めた書籍。「宇宙惑星科学」に加え、「地球生命科学」「固体地球科学」「大気水圏科学」と「地球人間圏科学」と5分野を知る手がかりが示されている。トピックスの対象も小惑星探査から惑星の大気流出、宇宙天気、恐竜研究、地震、地球温暖化、気候変動、水循環など幅広い。「アストロバイオロジー」「チバニアン」「ブラタモリ」など登場するキーワードも魅力的だ。
扱われる分野が幅広いため、全編を急いで読まなくてもよいかもしれない。気になるニュースが飛び込んできたとき、「この分野の手がかりも載っているかな?」と都度開きたい、ゆっくり味わえる本だ。
小惑星のスペクトル分類で困ったら?『宇宙岩石入門』
小惑星探査機「はやぶさ」が向かった小惑星イトカワは、岩石質のS型小惑星、小惑星リュウグウはC型、NASAが計画中の探査機「Psyche(サイキ)」が向かうのはM型……。また、7月初旬、千葉県習志野市で見つかった「習志野隕石(仮称)」は、「普通コンドライト」だという。普通コンドライトはS型小惑星が起源であることは、「はやぶさ」が持ち帰った微粒子から明らかになった。一方で、8億年前に地球に降り注いだ一連の隕石は、小惑星「オイラリア」が起源となっている可能性があり、「はやぶさ2」の目的地小惑星リュウグウと同じ母天体かもしれない……。
最新の太陽系探査には、小天体の分類や成り立ちに関わる用語が次々と出てくる。「スペクトル分類」とは何なのか。「母天体」と「始原天体」は何が違うのか。整理されていなければ混乱しそうだ。
それでいて、意外に日本ではずばり「小惑星」という本がなかなか見つからず、「太陽系天体図鑑」のような書籍の中の一章であることが多い。英語圏では、天文学の先進研究施設を持つ米アリゾナ大学による『Asteroids』という学術書があり、JAXAのはやぶさ2プロジェクトチームの発表資料にもこの書籍からの引用が載っていたりする。とはいえ英語の大著であり、もう少しコンパクトで日本語で読める小惑星に関する専門書がほしい。
『宇宙岩石入門』は、「はやぶさ」のサンプル分析にも参加した岡山大学の牧嶋昭夫教授による、宇宙の天体を構成する物質「岩石」を解説した書籍だ。宇宙、太陽系の成り立ちと小惑星の形成に至る序章から、これまでの宇宙探査で行われた岩石を手に入れる試み、「サンプルリターン」の歴史と成果について解説されている。
本書にも月や火星など大型の天体についても解説はあるのだが、圧倒的に小惑星に関する記述が厚い。中盤の第9章は待望の「小惑星の分類」の章で、スペクトル分類と軌道による分類に割かれている。まさにこれがほしかったのだ。
付箋をたくさん付けて手元に置きたい『宇宙岩石入門』。先述の『Asteroids』は現在、最新の第4版となっている。同様に長く版を重ねてほしい本だ。