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「あなたに仕事はありません」その一言が人生を動かした!元人気モデルの専業主婦、公認心理師に転身

長谷川まさ子フリーアナウンサー/芸能リポーター
情熱的なマシンガントークで答えてくれた山下エミリさん(撮影:すべて長谷川まさ子)

 最高視聴率45.3%をたたき出したTBS系ドラマ「積み木くずし~親と子の200日戦争~」(1983年)で暴走族リーダー役としてデビューし、その後は人気モデルとなった山下エミリさん。3男1女の4人の母親として15年間の専業主婦生活を送り、子育てが一段落したところでハローワークに向かうと、「あなたに仕事はありません」と言われ奮起。50代で起業を果たし、公認心理師として“お母さん育て”の本を上梓するなど、まもなく還暦を迎えるも勢いは衰え知らず。なぜ突き進めるのか、話を聞いた。

―心理学を学ぼうと思ったきっかけは何ですか?

 ずっとモデルの仕事をしていたので、結婚して子育てをしながら、そのキャリアを活かして「モデル養成講座」をやっていたのですが、その時に気づいたことがあったのです。

 モデル講座に来るような人は容姿に自信があるはずなのに、なぜかパッっとしない。モデルになる手順を示して「このとおりにやるとできるよ」と言うのに、何かと理由をつけてやらない。例えば、「家族にバレたくないから履歴書に家の電話番号は書けない」と言う。でも、携帯電話を持っているのだから、その番号を書けばいいだけのことですよね。

 なぜ書かないのかというと、自分の写真や経歴を基に断られると傷つくので、“違う理由”でダメになってほしい…という心理が無意識のうちに働くからなのです。もともと自分は無理だと思っている。だから、自分が傷つかない理由を探す。「顕在意識」では目指しているけれども、「潜在意識」では無理と思っていると、自分で自分にブレーキをかける。心の問題だと思いました。

 また子育てをしている中で、同じ年ごろの子どもに同じ問題が起こることに気がついたのです。2年生だとこんな問題、4年生だとこんな問題。何か決まった“心の方程式”みたいなものがあるのではないかと思い、「心理学を学びたい」と思いました。

―それが何歳くらいのことですか?

 35歳くらいです。でもその時は4人目の子供の妊娠も分かり、すべての仕事を辞めて専業主婦に専念しました。

 再び「心理学を学びたい」という思いが湧き上がってきたのが、第4子の娘が10歳になった頃。年齢は45歳です。大学で心理学を学び、教員免許も取得しました。Wスクールで産業カウンセラー、さらにキャリアコンサルタントという国家資格も取りました。

 そして娘が中学に入ったある日、車で自宅に戻ろうとしていて信号で停止した時に、「あれ、私もうこの時間に帰らなくていいんだ」って思ったんです。それまでは、絶対に午後2時半までには家に帰っていたんですけど、家族は朝7時に家を出て行ったら夜7時まで帰ってこない、「私、時間あるじゃん」って。

 でも、働こうと思ってハローワークに行ったら「あなたみたいな人に仕事はないですよ」って言われたんです。「15年間専業主婦してきた人でしょ。スキルを持っている人でさえ仕事ないんですよ」って。怒りが湧きました。

 それまでの15年間は、4人の子どもを育てながらボランティアもしていたし、すでにキャリアコンサルタントの国家資格も持っていました。「キャリアの心理学」では、専業主婦も大事なキャリアと捉えています。

 そこで思ったんです。私と同じように「仕事なんかないですよ」って言われる専業主婦は、みんなそこであきらめるんじゃないか。だったら私がまずは仕事を始めて、ロールモデルになって、ゆくゆくはそういう方たちに、お母さんのキャリアを活かした仕事の提供をできる場を作ろうと思ったのです。

 とはいえ、履歴書を100通出しても不採用で。資格はあっても、その仕事で働いたという“実績”がなければ、履歴書を開いてもらうことさえないという現実を知りました。

 そんな時、近所に新しく高校ができることを知ったのです。ハローワークで教員募集をしていないか尋ねたところ、すでに採用は終わっていると言われました。それなら、スクールカウンセラーの採用がないかと尋ねたのですが、そちらは募集していないと。

 そこであきらめず、履歴書を出してよいかと確認を取り、どれだけカウンセリングが重要なのかを訴えました。その結果、募集もしていなかった「スクールカウンセラー」として採用していただきました。

―なぜ募集もしていないところに履歴書を出そうと思ったのですか?

 今までは、1つの採用に対して多くの応募者がいたけど、募集していないなら私しか履歴書を出さないですよね。だから、ちゃんと見てもらえると思ったのです。これには「運を掴むための心理学の理論」があるのです。

―スクールカウンセラーとして働いてみてどうでしたか?

 通信制の高校だったのですが、驚いたのは、せっかく難関校に入ったのに不登校になり、同校に移ってきた子が多かったことです。みんなすごくいい子でした。そんな子たちが心の問題を抱えている。コロナ前だったのに、顔を見られたくないからって、マスクしてくる子もいるのです。

 親も、頑張って難関校に入れた時は「私の子育てが正しかった」と思ったはず。それなのに学校に行けなくなって、「私の子育ては何が悪かったの?」って混乱します。ただ単に子育ての方法論を知らなかっただけで、知っていたら親子で苦しむことはなかったはずなのです。これは子どものカウンセリングをしている場合じゃない。まずは「お母さんを育てなきゃ」と、大学院に入って母子の研究をしました。

 そして今は、一般社団法人を設立して、心理学の理論に基づく心理療法やワークなどを活用した「ママも子供も輝くキャリアを手に入れる!お母さん育ての講座」を主宰しています。そちらで学んだ人が講師として活動されて、私が最初に志したお母さんのキャリアを活かした仕事の提供の場も作ることができました。

―2月21日には『子どもの一生を決める「心」の育て方』を発売。誰に向けた本ですか?

 経済的にも精神的にも自立できる大人になるために、「心理学」という学問で分かっている子育て法があります。“自分のことは二の次”で頑張って子育てをしている、すべてのお母さんに知ってもらいたくて書きました。 

 子育てがうまくいかなくて悩んでいるお母さんの中には、自分を責める人も多い。かわいいはずの子どもなのに、かわいいと思えないと悩んでいる方もいます。私が主宰している講座の受講生は、実は学校の先生も多いのです。子育ての知識はあるから、生徒やそのお母さんにアドバイスはできるのに、我が子となると適切な対応ができず、がく然とするのです。

 でも、心理学に基づいた子育てのステップを踏むには、その前に、ベースとしてお母さん自身が心の発達のステップをきちんと踏んで「心」が整っていることが大事なのです。

 お母さんの心が整うと、子供は“自分で自分をあきらめない賢い子”に育ちます。賢いっていうのは、勉強ができる・成績が良いという「認知能力」だけではなく、物事の考え方や取り組む姿勢などの「非認知能力」が高いことです。「自分は何でもできる」となれば絶望しない、希望のある子に育ちます。著書では、その方法を心理学の理論でわかりやすく具体例を挙げながら解説しています。

 私自身、勉強には興味がなくて、学生時代の成績はビリでした。そんな私でも50歳で筑波大学大学院に入り、カウンセリング修士を取得し、心理職の唯一の国家資格である「公認心理師」の資格も取れました。

 これらの勉強は、知りたくて仕方のないことばかりだったので全く苦ではなかったです。それがまさに、やりたいと思ったことは頑張れる「非認知能力」なのです。お母さんには、計算ができるとか漢字が書けるといった目の前の「認知能力」よりも、「非認知能力」の重要性に気付いていただければと思いました。

―めちゃめちゃパワフル。還暦を前にそのパワーはどこから来るのですか?

 よく友人にも「エミリだからできるんだよ」と言われますが、人生100年時代ですよ。まだまだ先は長い。「非認知能力」の重要さをお話ししましたよね。自分のやりたいことなら頑張れちゃうものです。子どもだけでなく、大人も自分で自分をあきらめずにやりたいことをやればいい。

 ただ、それが分かるかどうかも潜在意識に気づくことにかかっています。そして、心理学に基づいた運を手に入れる方法もあります。私はそれを実践してきたから今があるのだと思います。

■インタビュー後記

彼女とは今から40年前、TBS緑山塾という演技の養成所の同期として出会った。その後も同窓会で会ったりはしていたが、4人お子さんがいると聞いていたので、子育ては大変だろうなと思っていたくらいのお付き合いだった。ところが、Facebookが更新されるたび彼女の動きがやけに活発になっていく。そして先日、久しぶりに会って話を聞いたところ、老後や終活のことばかり考え始めた私とは真逆に、これからやりたいことなどをマシンガントークで説明された。人生100年時代。まさにそうだ。年齢に負けない刺激をありがとう。

■プロフィール

公認心理師。一般社団法人キャリアエデュケーション協会代表理事。美賢女(R)プロデューサー。筑波大学大学院博士課程前期修了。カウンセリング修士取得。TBS系ドラマ「積み木くずし」で暴走族のリーダー役としてデビュー後、人気モデルとして活躍。3男1女の子育て中に大学・大学院で母子心理学の研究をし、スクールカウンセラーやキャリアコンサルタントを経て、2019年にキャリアエデュケーション協会を設立。心理学の理論とワークに基づいた「賢く幸せなことです子育て」を伝授している。公式Webサイト:https//cedu.jp

フリーアナウンサー/芸能リポーター

群馬県生まれ。大学在学中にTBS緑山塾で学び、TBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」で7年間アシスタントを務める。ワイドショーリポーター歴はTBS「3時にあいましょう」から30年以上、皇室から事件、芸能まで全てのジャンルをリポートしてきた。現在は芸能を専門とし、フジテレビ「ワイドナショー」、日本テレビ「情報ライブ ミヤネ屋」ほか、静岡・名古屋・大阪・福岡の番組で芸能情報を伝える。趣味は舞台鑑賞。

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