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全米オープン:錦織圭3回戦へ! 鍵は「適切なバランス」の探求

内田暁フリーランスライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

〇錦織圭[7](JPN)[62 46 63 75]B・クラーン(USA)● 

 

 テニスとは常に、攻撃と守備、リスクと確実性、時間と空間の適切なバランスを探すゲームだと言えるだろう。ただ、自分よりも実力が上の者と戦う時は、攻撃とリスクに天秤の針は傾きやすい。全米オープン2回戦で錦織と対戦したクラーンは、まさにそのケースだった。

 

 第1セットは地力に勝る錦織が、クラーンとの打ち合いを完全に制御した。ラリーになれば、錦織に負ける要素はあまり見当たらない。サウスポーの相手のバックを付き、無理なくポイントを重ねて6-2で奪取した。

 ただこの快調に見える第1セットで、不安材料として潜在していたのが、35%の低確率を記録したファーストサービスだ。それでも序盤はコースと球種を工夫して、ラリーに持ち込むことでセカンドサービスでもポイントを奪うことに成功。

 だが第2セットの中盤から、リスクと攻撃に大きく心の舵を切ったクラーンが、強打で錦織を圧倒し始める。リターンでも山を張り、錦織が打つより先に回り込んで、フォアで激しく叩きだした。失う物のない相手の勢いに飲まれ、第2セット終盤で逆転を許す錦織。小雨が振る悪天候のため、唯一試合が行われている屋根の閉じたルイ・アームストロング・スタジアムに次々観客が押し寄せるなか、セットカウントは1-1となった。

 第3セットに入っても、クラーンは攻撃の手を緩めない。ただリスクを負ったプレーはいずれ、決まったウイナーを精算するかのように、徐々にエラーを生んでいく。その機を逃さず、左右からダウンザラインへのウイナーを叩き込んだ錦織が、第5ゲームをブレーク。気合いの咆哮をあげる世界7位が第3セットを奪い、第4セットでも2度ブレークして5-1と大きくリードを広げた。

 

 ところが、フィニッシュラインまであと一歩に迫ったところで再び、リスクの対価はウイナーとしてクラーンに還る。勝利を半ば確信した錦織が、「集中力を欠いた」側面もあっただろう。2度のサービスゲームをいずれも最後はダブルフォルトで落とし、瞬く間にゲームカウントは5-5となった。

 

 それでもこの時、錦織の頭脳はどこかで、相手のパターンを読み切っていたところがあったようだ。

 「嫌な時間帯や場面はありましたが、長くても3ゲームか4ゲームくらい。どっかでチャンスは来ると思っていた」。

 果たして、相手の時間帯である4ゲームが経過したところで、錦織のターンが訪れる。まずは、サービスゲームを簡単にキープすると、続くゲームではネット際の攻防からパッシングショットを叩き込むなど、多彩な手札を披露し主導権を引き寄せる。最後は、相手のバックのスライスがラインを割り、流れが激しく入れ替わる2時間44分の攻防に終止符が打たれた。

 最初のマッチポイントから試合を決めるまで約30分かかった戦いには、「サービスなど、反省すべき点はいくつかある」という錦織。同時に、「アップダウンはありますが、良い時のプレーはすごく気にいっているというか、良いテニスができているなと思う」との手応えも得ることができたという。初戦は相手の棄権のため消化不良で終わり、「ちゃんと勝ち切る勝利が欲しかった」と言っていた彼にとっては、終盤のスリルも良い教訓となったはずだ。

 なお、錦織が今もっとも心掛けているのが、ネットプレーを増やしつつも、「無理に前に出ることはしたくないので、その兼ね合いや良いバランスを見つけること」だという。

 

 適切な均衡の探求は、まだ当面続いていく。 

※テニス専門誌『Smash』のFacebookより転載

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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