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宇宙論を揺るがす大問題!存在し得ない「反ヘリウム」の生成プロセスとは?

どうも!宇宙ヤバイch中の人のキャベチです。

今回は「反ヘリウム原子核の起源の謎と新説」というテーマで動画をお送りします。

人類はこれまでに、宇宙線の中に巨大な反物質の粒子である「反ヘリウム原子核」をいくつか検出しています。

そんな反ヘリウム原子核は謎に包まれた存在であり、その起源を標準的な宇宙モデルの範囲で説明するのは容易ではなく、これまでにもいくつか興味深い仮説が提唱されており、2024年6月にも新説が提唱されました。

本記事では反ヘリウム原子核の起源の謎と新説について解説していきます。

●AMS-02と反粒子

ISSに設置されたアルファ磁気分光器(Alpha Magnetic Spectrometer, AMS-02)と呼ばれる粒子検出器は、宇宙からやってくる高エネルギーの粒子「宇宙線」を直接検出し、分析しています。

宇宙線のほとんどは電荷を持っており、検出器へ衝突直前に磁気を浴びせることで軌道が曲がります。

その軌道の曲がり方を調べることで、宇宙線の種類やエネルギーを知ることができるのです。

宇宙線の中には、非常に割合は低いですが、「反粒子」が含まれています。

反粒子は、ある特定の粒子と電荷などの性質が反対である粒子のことで、例えば「電子」の反粒子として、+の電荷を持った「陽電子」があります。

陽電子をはじめとした反粒子の起源を調べることで、様々な超高エネルギー現象の謎や、この宇宙にほとんど通常の物質しか存在せず、反物質が見られない謎などが解明できると期待されています。

○存在し得ない反粒子を検出

そんな中、過去12年間で2000億以上の宇宙線を検出したAMS-02のデータの中で、想定外の粒子が検出された可能性があり、話題を呼んでいます。

その粒子とは、2つの反陽子と1つの反中性子が合わさった「反ヘリウム3原子核」と、2つの反陽子と2つの反中性子が合わさった「反ヘリウム4原子核」です。

このような粒子の存在を支持する信号が計10個も検出されたようです。

この信号が本当に反ヘリウムであるかどうかについては広く議論が進められている段階にありますが、以下は信号が実際に反ヘリウムのものであると仮定した上で話を進めていきます。

●反ヘリウム生成プロセスの謎

反ヘリウムは非常に特殊な条件下でしか生成されず、その生成プロセスについて様々な仮説が立てられています。

○ダークマターの対消滅説

まず「ダークマターの対消滅説」があります。

ダークマターの正体は不明ですが、自分自身が反粒子である未知の素粒子がその正体である可能性があります。

この場合、ダークマター粒子同士が衝突すると対消滅を起こし、非常に高いエネルギーと、高エネルギー環境から粒子と反粒子のペアを対生成する可能性があります。

ダークマターが対消滅する過程で、反陽子や反中性子といった反物質の粒子が生成されることがあります。

これらが適切な条件下で結合し、反ヘリウム3や反ヘリウム4といった反物質の原子核が形成される可能性があるとされています。

しかしこの仮説には問題点があり、それは反ヘリウムの生成には運動エネルギーが低い反粒子同士が、小さい相対速度で衝突し、結合する必要があることです。

ダークマターの対消滅から生じる粒子は一般的に高速高エネルギーであり、低エネルギー状態での生成は難しいと考えられています。

またこのモデルにおける反ヘリウムの生成確率が非常に低いことがわかっており、AMS-02の観測結果を説明するには、大量のダークマターを必要とし、理論的に厳しい現状です。

○反物質優位の特殊領域が存在する仮説

2019年1月、アメリカのジョンズ・ホプキンズ大学などの研究チームは、宇宙のどこかに「反物質優位の特殊領域」が存在し、そこで反ヘリウムが生成されているという仮説を提唱しました。

このような領域は、初期宇宙における原子核生成の偏りから、より現代に近い宇宙にも局地的に存在する可能性があるとのことです。

一般的に、宇宙はどこでも反粒子ではない通常の粒子から成る物質が支配していると考えられており、反粒子が存在しても通常の物質と対消滅を起こすため、巨大な反粒子の塊は生成されにくいです。

しかし反物質優位の特殊領域が存在するなら、反粒子がいくつも結合した比較的巨大な反粒子といえる「反ヘリウム」もそこで生成可能です。

また反ヘリウムが生成されるには、運動エネルギーが低い反粒子同士が、小さい相対速度で衝突する必要がありましたが、反物質優位の領域にはそのような低エネルギーの反粒子が存在する可能性もあります。

この領域には反物質の巨大な塊が存在し、仮説上の天体である、反物質で形成された恒星「反物質星」も存在するかもしれません。

しかしこのモデルの課題として、この領域で生成される反ヘリウムは低速である一方、AMS-02が検出した反ヘリウムは高速であるため、それらが速度を得たプロセスを別に説明する必要があるという点があります。

●ファイアボール仮説

そんな中、カナダのペリメーター理論物理学研究所などの研究チームは2024年6月に公表された論文にて、反ヘリウムの生成プロセスに関する新たな仮説を提唱しました。

〇新説の概要

新説では、宇宙空間で「ファイアボール(火の玉)」のような現象が発生すると考えられています。

具体的には、暗黒物質の塊や雲が高速で銀河系内を移動し、他の物質と衝突することによって、非常に高エネルギーの環境(ファイアボール)が生成されるというものです。

このファイアボールは極めて高温・高圧の状態にあり、その中で反陽子や反中性子が生成され、その後それらが結合して反ヘリウムのような重い反物質の原子核が形成されるといいます。

〇新説のメリット

この新説には様々なメリットがあり、まず反陽子や反中性子が低温化し、反ヘリウムが生成されるプロセスを説明できます。

ファイアボールは最初高温・高密度ですが、膨張して内部の反粒子が低温化していきます。

この過程でファイアボール内の反陽子と反中性子は低エネルギー状態に至り、結合して反ヘリウムのような重い反物質の原子核が形成されるといいます。

また、生成された反ヘリウムがAMS-02で検出されたような高エネルギー状態に至るプロセスも説明可能です。

ファイアボールがさらに膨張すると今度は内部生成された反ヘリウムが加速されるといいます。

また、反ヘリウム同位体の存在比の問題を解決できます。

標準的な宇宙モデルでは、反ヘリウム3と反ヘリウム4の存在比は10000:1と予想されますが、AMS-02が検出したこれらの存在比は約2:1でした。

この存在比の予想と観測の乖離は大きな問題でした。

そんな中、このファイアボール仮説によれば、このような環境では反物質が安定して存在し、それらが結合することで反ヘリウム4のような特に重い同位体を形成できるのです。

このように新説は様々な問題を鮮やかに説明可能ですが、まだ検証が十分ではなく、議論の余地が大いにある現状です。

今後様々な研究によって反ヘリウム原子核の起源の謎が解明されることに期待がかかります。

https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.99.023016
https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.109.123028
サムネイルCredit: Christoph Hohmann (LMU München / MCQST)

「宇宙ヤバイch」というYouTubeチャンネルで、宇宙分野の最新ニュースや雑学などを発信しているYouTuberです。好きな天体は海王星です。

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