日本のスクラムジェット極超音速誘導弾は巨大なブースターを装備する予定
12月26日、防衛省は令和4年度の事前の事業評価を公開しました。その中に「極超音速誘導弾の研究」という開発予定が紹介されています。これはスクラムジェットエンジンで推進する極超音速巡航ミサイル(HCM: Hypersonic Cruise Missile)に分類される新型兵器です。
「令和4年度 事前の事業評価 評価書一覧」:防衛省
スクラムジェットエンジンは炭化水素燃料(石油系)を使用する場合、最大速力は速度マッハ8程度が限界です。そのためスクラムジェット極超音速巡航ミサイルは速度マッハ6~8で高度25~28kmを巡航する運用になります。
実際の計画とは全く関係無いイメージ絵の発射車両
「極超音速誘導弾の研究」の令和4年度・事前の事業評価(ロジックモデル)に掲載されたイメージ絵を見ると、発射機は6連装の8輪車両で既存の12式地対艦誘導弾(現行型)と同じです。すると意外にも極超音速誘導弾は普通の大きさのミサイルなのかなと思いましたが、全く違いました。どうやらこの資料の発射車両のイメージ絵は、実際の計画と関係がありません。
中距離弾道ミサイル級のブースターと共通化
実は同日に掲載された別の資料「島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)」の方に衝撃的な内容が記載されていました。
極超音速誘導弾のブースターが島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型、Block1A / Block2B)の第1段目と共通、これは直径90cm級の太いブースターを使用するという意味になります。
どういうことかというと、極超音速滑空ミサイル(HGV)に分類される島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)のロケットモーターとは、実質的に射程3000km級の中距離弾道ミサイルのロケットモーターと同じ大きさです。なおアメリカ陸軍の新型中距離ミサイルである極超音速滑空ミサイル「LRHWダークイーグル」が射程2775km以上で直径88cm(34.5インチ)です。
※極超音速滑空ミサイル(HGV)とは弾道ミサイルの弾頭部分を滑空体としたものなので、ロケットモーター部分は弾道ミサイルと同じ。
つまり極超音速誘導弾のブースターが島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)の第1段目と共通化されるということは、LRHW並みの直径90cm級のロケットモーターを装備するという意味です。
- トマホーク巡航ミサイル 直径約53cm 重量2トン
- オーニクス巡航ミサイル 直径約67cm 重量3トン
- ツィルコン巡航ミサイル 直径約67cm 重量3トン ※極超音速
- 極超音速誘導弾(日本) 直径90cm級 重量6~9トン?
※ツィルコンと極超音速誘導弾は推定値。
もう直ぐ世界で初めて実戦配備されるスクラムジェット極超音速巡航ミサイルとなる予定のロシアの「3M22ツィルコン」は試験で射程500~1000kmあたりを発揮しています。射程は発揮する巡航速度によって変化します。
そして日本の極超音速誘導弾(スクラムジェット)はブースターの大きさから推定すると、ロシアのツィルコンの2~3倍くらいの発射重量6~9トンになる可能性があります。射程は相応に長いものとなり2000~3000km級と推定され、他国の計画でも類を見ない大きさのスクラムジェット極超音速巡航ミサイルとなります。
関連記事:ミサイル空気吸入孔をエンジンごと投棄するコンセプト(2021年12月7日)
※最終突入時に空気抵抗となる邪魔な空気吸入口を投棄するスクラムジェット極超音速巡航ミサイルのロシアの特許。