国内・世界初の感染例 オズウイルス感染症とは? 現時点で分かっていること
6月23日、国立感染症研究所は国内初、そして世界初となる「オズウイルス感染症」の症例を報告しました。
オズウイルス感染症とは、どのような感染症なのでしょうか?
オズウイルスとは?
オズウイルスはオルソミクソウイルス科トゴトウイルス属に属するウイルスです。
このウイルスが見つかったのは比較的最近のことであり、2018年に愛媛県のタカサゴキララマダニというマダニからオズウイルスが見つかったことが報告されています。なお、このオズウイルスは現時点では日本以外の国では見つかっていません。
オズウイルスは、アメリカで報告されている重症のマダニ媒介感染症であるバーボンウイルスなどと近縁のウイルスであり、マウスに感染させると重症化することが分かっていました。
また、この後行われた疫学調査では、山口県、和歌山県、三重県、大分県、岐阜県、千葉県のイノシシ、サル、シカなどの動物がこのオズウイルスの抗体を持っていることが分かりました。つまり、この地域にはオズウイルスを持ったマダニが生息していることが推測されます。また、同じ研究において猟師24人のうち、山口県の猟師2人がオズウイルスの抗体が陽性であったことから、過去にオズウイルスに感染したことがある人が存在することも分かっていました。
しかし、これまではヒトからオズウイルスが検出され確定診断されたオズウイルス感染症の症例は世界でも見つかっていませんでした。
マダニの保有しているウイルスを先回りして調べる時代に
ところで、ヒトでの感染例が見つかっていないのに、なぜマダニがこのオズウイルスを持っていることが分かっていたのでしょうか?
日本国内では、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)という非常に重症度の高いマダニ媒介感染症が西日本を中心に流行していますが、この感染症が見つかったのは日本国内では2013年になってからのことです。
SFTSはフタトゲチマダニ、タカサゴキララマダニという2種類のマダニが媒介し、ヒトにSFTSウイルスを感染させていることが分かっています。
このSFTSの発見以降、ヒトでの感染例が見つかる前からマダニの持っているウイルスを先に調べるという手法が行われるようになりました。
オズウイルス以外にも、日本国内のマダニからは、Tarumizu tick virus、Muko virus、Kabuto Mountain virus、Okutama tick virus、Mukawa virusなど様々なウイルスが見つかっていました。
こうした調査により、事前にウイルスの情報を知っておくことでPCR検査で感染者を診断することができるなどのメリットがあります。
今回報告された国内初・世界初の事例も、事前の調査が診断に寄与しています。
世界初のオズウイルス感染症の症例はどのような症例か
2023年6月23日、茨城県および国立感染症研究所から、オズウイルス感染症の事例が報告されました。
この事例は海外渡航歴のない茨城県在住の70代女性で、2022年の初夏の事例とのことです。
発熱、倦怠感、食欲低下、嘔吐、関節痛があり病院を受診し、血液検査では腎臓や肝臓に臓器障害が見られています。
入院時にこの患者さんの右足の付け根に吸血した後のマダニが見つかっており、マダニ媒介感染症が疑われたものの、SFTSなどの既知のマダニ媒介感染症は否定されました。
この患者さんは、心臓に炎症が起こる「心筋炎」を起こしており、残念ながら心室細動という致死的な不整脈で亡くなられたとのことです。
この患者さんの血液や尿から、オズウイルスの断片が見つかったことから、国立感染症研究所でも追加検査が行われオズウイルス感染症と診断されています。
これまでの報告では、富山県と栃木県の動物からはオズウイルスの抗体が見つかっていなかったことから、オズウイルスは同じくタカサゴキララマダニが媒介するSFTSと同様に西日本でのみ分布しているのではないかと考えられていました。
今回、関東から症例が報告されたことは、これまでの調査結果からの推測と異なるものであり、関東でもオズウイルスに感染する可能性があることを示唆しています。
マダニ媒介感染症から身を守るためには?
今回の報告は、オズウイルス感染症の世界1例目の報告ですので、まだこの感染症の頻度、流行地域、感染した際の重症度など分からないことはたくさんあります。
しかし、おそらくマダニを介して感染することがありそうですし、日本国内にはオズウイルス感染症以外にもSFTS、日本紅斑熱、ライム病などマダニによって感染する感染症が多く存在します。
これらの感染症を防ぐためにも、特に山道などではマダニに刺されないように日頃から注意をしましょう。
特にこれからの温かい時期はマダニの活動性が高くなります。
上図のように、できるだけ露出の少ない服装をすること、そしてディートやイカリジンなどの成分を含む虫よけを使うことが重要です。
もしマダニに刺されてしまった場合は、無理に自分で引き抜くとクチバシが残り皮膚に炎症を起こすことがあります。
慌てず、近くの病院を受診するようにしましょう。
参考: