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安保法案への威嚇――中国調査船の活発化

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

日本の排他的経済水域で中国海洋調査船の動きが活発化している。先般、日本の谷内局長が李克強首相と会談したが、中国では日本の安保法案を軍国主義復活の兆候として毎日報道している。中国の二面性を分析する。

◆右手で握手、左手にピストル

7月17日、日本の谷内国家安全保障局長が李克強首相と会談した。局長クラスの者が首相と会談するのは異例として、日本のメディアは中国が対日関係改善を模索しているという希望的観測を伝えた。

しかし中国の中央テレビ局CCTVのニュースを追いかけている筆者としては、「日本は甘いなぁ」という感想を抱いた。なぜなら、他国のニュースだというのに、CCTVは1時間ごとの全国放送ニュースで、日本の安保法案に関する報道を欠かしたことがないからだ。

特に7月7日(盧溝橋事件による日中戦争勃発の日)から9月3日(日本の投降を中華民国の蒋介石が受理した日)まで、毎日、抗日戦争の記録を特集することになっている。

この時期における日本の安保法案採決に対して、CCTVや中国の主要メディアは「日本が敗戦後の世界秩序を破壊して、平和憲法に違反する安保法案を強引に進めるということは、侵略を受けた国々の国民の神経を逆なでする挑発的行為だ」と言い続けている。

特に「なぜ安倍政権は、よりにもよって、敗戦70周年記念という節目の年に、このような平和に逆行する法案を通そうとするのか」そして「それは、あの戦後体制に対する挑戦を際立たせたいからだろう」というコメントなども乱れ飛んでいる。

そのような中での谷内局長と李克強首相との会談は、「さあ、これから中国は実際行動では強硬姿勢に出ますよ」というシグナルだと、筆者には見えていた。

案の定、会談が終わるとほぼ同時と言っても過言ではないような7月19日未明に中国の海洋調査船は中国の港を離れ、尖閣諸島付近の日本の排他的経済水域に姿を現したのである。

右手で握手しながら、左手にはピストルを持っている中国を、甘く見てはいけない。

◆『防衛白書2015』への抗議も

7月初旬に出された『防衛白書2015』に関して、7月7日に開かれた自民党国防部会では、中国が東シナ海でおこなっているガス田開発について記述が不十分だとの声が上がった。

南シナ海における岩礁埋め立ての写真も増やすべきだとの意見があり、書き直しを命じた。防衛白書が了承されないというのは異例で、中国ではこの情報に注目。「もっと中国を悪く書かないと許さないって言っている」と、ネットは安倍首相がこぶしを振り上げて演説

する写真を貼り付けながら炎上した。

大方の中国報道は、「安倍政権が安保法案を通すためには、もっと中国が攻撃してくるかもしれないという危機感が必要で、だから自民党国防部は『安倍政権が安保法案を通しやすいように』危機感を煽っている」という趣旨のものが多かった。

7月21日に再発行された『国防白書』は、中国の海洋進出がいかに高圧的であるかを批判し、今後もさらに拡大の可能性があることを明記している。

これで合格となったことに対して、中国では激しい批判が報道されている。

つまり、今般の排他的経済水域における中国調査船の再活発化は、こうした流れを受けたものなのである。

日本は中国の調査船が何をどうしようとしているのかという細かな事象よりも、こういったマクロな視点を見逃さないようにしないと、的(まと)を得た対中戦略は練れないのではないだろうか。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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