日本ツアーでは選手が「迷彩柄」「カモ柄」を着替える珍事、カモフラージュできない日米ゴルフ界の差
日本の男子ツアーの大会であるフジサンケイクラシック(9月5~8日)の3日目に、迷彩柄のシャツを着て優勝争いをしていたチャン・キムが、前半から後半への折り返しの際、大慌てで黄色いシャツに着替えるという珍事が起こった。
なぜ、わざわざシャツを着替えることになったのかと言えば、日本ツアーでは「迷彩柄」が禁止されているからだ。
折りしも、その2日後、米ツアーの下部ツアーを経て来季の米ツアー出場権を獲得したクリス・ベイカーという選手の話が米ゴルフダイジェスト誌のウエブサイトに掲載された。記事に付された写真の中のベイカーは、迷彩柄のシャツに身を包み、うれしそうに手を挙げていた。
振り返れば、2018年の全米プロを制したブルックス・ケプカは、メジャーチャンプに輝いたそのとき、迷彩柄のシャツに身を包んでいた。
日米ゴルフ界における対照的なこの事実、この現状を眺めたとき、そこに違和感を覚えるのは私だけではないはずだ。
【日本ツアーでは男女とも禁止】
日本ゴルフツアー機構(JGTO)が「迷彩柄」と大きなポケットが付いた「カーゴパンツ」を禁止したのは、2007年の石川遼のファッションにゴルフファンやテレビ視聴者から批判の声が上がったことが発端だったという。
批判の内容の多くは、迷彩柄やカーゴパンツが「ゴルフのファッションとして、ふさわしくない」というものだったそうだ。そうした意見の背後には、迷彩柄が戦争や戦地、兵士などを想起させるという意味も含まれていたのだろうと思われる。
戦争を経験した世代、戦後の混乱などを経験した世代にとっては、思い出したくないものを思い出してしまうデザインなのかもしれない。若い世代であっても、不快に感じる人はいるのかもしれない。「ストリート・ファッション」や「作業着風」はゴルフには不向きと感じる人もいるのだと思う。
そういう人々の気持ちや事情、意見を考慮し、JGTOは2007年の年末に迷彩柄やカーゴパンツを「禁止」と決め、翌2008年からすぐさま施行に踏み切った。日本の女子ツアー(LPGA)も2008年4月に迷彩柄やカーゴパンツをやはり「禁止」と定めた。その判断と動きには、なるほど、日本人らしい気遣いが溢れているのだなあと頷かされる。
【米ツアーでは規定なし】
だが、その一方で、ちょっぴり首を傾げてしまう面もある。というのも、米ゴルフ界では迷彩柄が禁止されたり、問題視されたりすることはない。だからこそ、晴れて米ツアー出場権を得た選手の迷彩柄のシャツ姿の写真が堂々とゴルフ雑誌のウエブニュースに掲げられている。
前述の通り、現在は世界ナンバー1の王座に君臨しているブルックス・ケプカは、2018年の全米プロを制したとき、迷彩柄のシャツに身を包んで戦っていた。その姿に批判が寄せられることはなく、大会を主催するPGAオブ・アメリカがケプカの服装をとがめることもなかった。
米国で国民的人気を誇るリッキー・ファウラーは、たびたび迷彩柄のシャツ姿で試合会場に登場しており、今年のマスターズ3日目は迷彩柄のシャツを着ていた。さまざまな面で厳しい規定を設けているあのマスターズ委員会も、迷彩柄を禁じてはいないことがわかる。
念のために、米PGAツアーのプレーヤー向けのハンドブックを開いてみると、いわゆる「ドレスコード」のような項目は特に設定されていないのだが、唯一、記載されていたのは「選手の見た目」という項目。そこに書かれていたのは「きちんとした格好をするべし」「現在、ゴルフファッションとして受け入れられているものを着用すべし」という記述だけ。特定のデザインに触れたり、それを禁止したりという細かな記述や規定は書かれていなかった。
そういえば、2011年の全米オープンの際、米国人の人気選手であるバッバ・ワトソンが、チャリティ目的で一般ゴルフファンからゴルフウエアのデザインを公募したことがあった。
ワトソンは応募作の中から選ばれた4種類のデザインのウエアを着て、全米オープン4日間を戦ったのだが、その中に迷彩柄のデザインがあったことを記憶している。
父親が元陸軍特殊部隊グリーンベレーの将校だったこともあり、ワトソンは愛国心が非常に強く、軍隊への感謝の気持ちを常に抱いている。そんなワトソンが「ミリタリー・デザイン」とも呼ばれる迷彩柄を好むことは、彼の家庭環境を考えれば、やや特殊ケースと言えるのかもしれない。だが、愛国心や家庭環境の話はさておき、全米オープンを主催するUSGA(全米ゴルフ協会)も迷彩柄を禁じてはいないことがわかる。
【ファッション界でも人気】
もはや迷彩柄はファッショナブルなデザインとして世の中に浸透し、広く受け入れられている。
ゴルフに限らず、スポーツにとどまらず、たとえばパリ・コレクションやNYコレクションのようなファッション最前線でも、迷彩柄は「カモフラージュ・デザイン」などと呼ばれ、世界をリードするファッション・デザインとして好まれ、受け入れられている。
その傾向は日本社会、日本市場でも見られ、日本風に「カモ柄」などと短縮形で呼ばれる迷彩柄の衣服や雑貨、アイテムが人気を博し、あちらこちらに溢れている。
一般ゴルファー向けのゴルフウエアにも迷彩柄のシャツやパンツ、小物などが多数ある。ちなみに、私自身のゴルフウエアの中にも迷彩柄のシャツやベストなどがいくつかある。
【独自性か?国際性か?】
そんな中、日本のプロゴルフ界(と一部のメンバーシップのゴルフ場)だけは「迷彩柄、禁止」という現状を、どう受け取るべきなのか。そのあたりの考え方や判断は、なんとも悩ましい。
「アメリカがこうだから」「世界がああだから」と言って、必ずしもそれらに追随する必要は、もちろんない。他国の事情や傾向に関わらず、「日本には日本なりの事情や考え方、感じ方がある」という独自性を貫く意義は、それはそれである。
しかし、強い意志に基づいて独自の規定を貫くのであれば、その規定の内容と存在を強く大きく、わかりやすく、しつこいぐらいに強調し、誤解を生まないような説明も行なうべきであろう。
キムは米国人だが、すでに日本ツアー参戦歴が5年にもなる選手ゆえ、今回の一件は、日本ツアーの一員という立場から彼を眺めれば、「日本ツアーの規定に関する勉強不足」あるいは「うっかりしてしまった」感は否めない。
だが、今年10月には日本で開催される初の米ツアー大会としてZOZO選手権が開かれる。同大会は日本ツアーとの共催でもあり、日米どちらの規定をどこまでどんなふうに通すのか、その線引きがなんとも気になる。
米ツアー選手たちが迷彩柄のウエアを着て習志野CCに登場したら、それをOKとするのか、それとも着替えさせるのか。
迷彩柄に限らず、日米ゴルフ界で異なる規定は他にもあるわけで、その違いが現実として表面化したとき、どこまで日本独自の規定を適用するのかは今後の課題になってくる。渋野日向子というメジャーチャンピオンを擁する日本のゴルフ界の在り方が、これからは今まで以上に世界から問われるはずである。2020年の東京五輪対策としても、いろんな意味での「国際化」は検討していくべき事柄であろう。
「迷彩柄」に対する日米ゴルフ界の対応の違いは、広い意味で、多くの課題を投げかけていると私は思う。