わいせつ被害を訴えた元草津町議、異例の虚偽告訴罪で在宅起訴 今後の焦点は?
元草津町議の新井祥子氏が黒岩信忠町長から性被害を受けたと訴えていた件で、検察は新井氏を虚偽告訴罪などで在宅起訴した。リコールに発展し、セカンドレイプの町などと批判された騒動が新たな展開を迎えている。
虚偽告訴罪での起訴は異例
前橋地検の新井氏に対する起訴は10月31日付であり、起訴された事実は次の2点だ。
(1) 2019年11月、フリーライターの男性と共謀の上、町長室で黒岩町長と肉体関係をもったなどと記載された電子書籍を発行(名誉毀損罪)
(2) 2021年12月、町長室での一件について、黒岩町長を強制わいせつ罪で告訴(虚偽告訴罪)
(1)の名誉毀損罪は、公表した事実の有無に関わりなく、人の名誉を毀損する内容であれば成立する。ただし、起訴されていない犯罪に関する事実には公共性があるとみなされるので、もっぱら公益目的で公表しており、かつ、その事実が「真実」だと立証できれば処罰されない。
これに対し、(2)の虚偽告訴罪は、人に刑事処分や懲戒処分を受けさせる目的で「虚偽」の告訴や告発などに及んだ場合に成立する。最高刑は名誉毀損罪だと懲役3年で罰金刑の選択も可能であるのに対し、虚偽告訴罪の場合は懲役10年と格段に重く、罰金刑もない。罰金を納めて終わりということにはならない。
もっとも、前提となる事実に関して当事者双方の主張が真っ向から対立し、告訴合戦に至っているような場合には、虚偽か否か断定できないということで、検察が「嫌疑不十分」で不起訴処分にすることも多い。現に虚偽告訴罪の起訴率はわずか数%だ。
起訴された例をみると、男女グループによる示談金目当ての痴漢でっち上げ事件で共犯者の一部が自白したとか、告訴した相手が警察に逮捕されたあと、無実だと判明したようなケースが多い。夫の関心を引こうと軽い気持ちで夫の知人から強制わいせつの被害を受けたと嘘をつき、相手の逮捕にまで至った事件では、在宅起訴された主婦に懲役1年の実刑判決が下っている。
「虚偽」を裏付ける証拠に注目
今回のケースの場合、検察はまず新井氏による(2)の告訴に関し、黒岩町長を強制わいせつの容疑で捜査し、2021年12月に不起訴処分にした。その上で、今度は黒岩町長の新井氏に対する告訴を踏まえ、再捜査を遂げ、事実の有無を問わず成立する名誉毀損罪だけでなく、虚偽が前提となる虚偽告訴罪でも新井氏を起訴した。
そうすると、新井氏の説明が二転三転していて信用できないとか、その説明が当時の町長室の構造などと食い違っているといった次元の話ではなく、新たに決め手となる何らかの証拠を把握し、検察としても刑事裁判の場で自信をもって虚偽だと立証できると判断したということだろう。
例えば、当時の町長室で新井氏側が録音していたノーカットの音声記録を押収して解析したとか、関係者が全容を語っているといったことが考えられる。裁判は前橋地裁で行われ、公開されるから、そこで検察が把握している具体的な証拠の中身も分かるはずだ。
検察は新井氏の認否を明らかにしていない。新井氏が法廷で何を語るか、また、捜査によって判明した一連の騒動の背景や今後の支援者らの動きが注目される。この刑事裁判は、黒岩町長や草津町が損害賠償を求めて提訴している民事裁判の行方にも大きな影響を与えるだろう。(了)