20年強で支出金額は1/3ほどに…音楽・映像収録済メディアの購入性向をさぐる(2024年公開版)
音楽・映像業界ではCDやDVD、BD(ブルーレイディスク)などの物理媒体の販売が落ち込み、市場規模の縮小が大きな懸念材料となっている。世帯単位での購入性向はどのような実情なのだろうか。総務省統計局の家計調査の結果から確認する。
次に示すのは総世帯(単身世帯と二人以上世帯の合算、つまり全部の世帯)における年単位の、音楽や映像に関する収録済みのメディア(音楽や映像ソフト。録画用の内容未収録なCDやDVD、BD媒体は含まず)購入の傾向を、支出金額と世帯購入頻度(※)の点から見たもの。
家計調査では2004年以前は「音楽・映像収録済メディア」項目は「オーディオ・ビデオ収録済テープ」「オーディオ・ビデオディスク」に分散して収録されていたが、今回はその双方を合算して計算に加える(厳密には世帯購入頻度の部分を単純加算するのは、やや問題があるのだが)。
さらに2002年より前の値は、二人以上世帯のみのデータしか存在しないこと、世帯購入頻度の値が無いこと、音楽や映像ソフトに関する概念が随分と異なることを考慮し、連続性の高い2002年以降の動向についてのみ精査を行う。
2002年以降に限れば2004年がピーク。世帯あたり年間6780円を音楽や映像ソフトに費やしていた(インターネット通販で購入しても対象が物理媒体ならば該当する。デジタルデータ系は該当しない)。100世帯あたりの世帯購入頻度は205なので、おおよそ1世帯あたり2回ほど購入している計算になる。単純試算だが、1購入あたりの金額は3300円ほど。一度に複数本のタイトルを購入することもあれば、この位の額はすぐに達する。また「年間7000円足らずではシリーズもののソフトは買えない」との意見もあるだろうが、今件はあくまでも全世帯の平均値。毎年数万円も映像ソフトに投資する世帯もあれば、まったく購入しない世帯も多分にある。
支出金額、世帯購入頻度はともに2004年をピークに漸減。一時盛り上がりを見せる場面もあったが、結局減少に歯止めはかからない状態だった。2019年においては支出金額は2500円足らず、世帯購入頻度は年間で10世帯に7世帯が1回購入する程度にまで縮小してしまった。
直近の2023年では世帯購入頻度は精査期間内では最低値となる48を示したが、支出金額は過去最低額を記録した2022年の2059円は上回る2324円となった。
なお2016年においては前年比で世帯購入頻度こそ6ポイントの増加(84)にとどまっているが、支出金額は1004円もの増加(3673円)を見せ、明らかにイレギュラーな流れを示している。総世帯では世帯主年齢階層別のデータは無いので精査は不可能だが、たとえば単身世帯などで過去のデータをさかのぼると、2016年では全般的に、なかでも高齢層の支出金額の増加度合いが著しい。
【日本レコード協会のミリオン認定数推移】で確認すると、2016年は珍しく多数のミリオンセラーが生まれている。また、社会現象でも某アイドルグループの解散事案に伴い、関連CDを購入しようとの運動も生じており、それが2016年におけるイレギュラー的な動きをもたらした可能性は十分に考えられる。
しかしながら2017年以降においてはそのような現象は発生しておらず、支出金額と世帯購入頻度はともに下落を示す形となっている。
今件につき、減少度合いが分かりやすいように、比率の動きで確認する。一番古い値となる2002年における値を基準値の1.00とし、各項目の相対値を算出する。これなら支出金額や世帯購入頻度の大きさの違い、グラフの描写上発生しうる誤認を極力避けることができる。
2002年から2015年までの10年強の間に、世帯単位での音楽・映像ソフトの支出金額・世帯購入頻度はともに4割ぐらいにまで落ち込んでいる。どれほどまでがデジタル系媒体で補完されているかについて、今件家計調査では確認ができないが、少なくとも音楽・映像業界を支える一般的な世帯において、半分足らずに資金投入が減ってしまったことは間違いない。
一方で2016年の特異な動きを見るに、世帯購入頻度はほとんど変わらず、支出金額のみが大きく跳ねたことが改めて確認できる。購入者が増えたのではなく、購入者がいちどきに買う枚数が増えた、あるいは購入対象が高単価なものになった、またはその両方と見るのが無難なようだ。2017年以降は世帯購入頻度・支出金額ともに以前の動向に戻ってしまっており、2016年の挙動はイレギュラー的な影響しか及ぼさなかったことも確認できる。2020年以降における多少の支出金額の盛り上がりは、新型コロナウイルス流行による在宅時間の増加が影響しているのかもしれない。
直近の2023年では世帯購入頻度が過去最低を更新する形となった。2020~2021年の新型コロナウイルス流行によるものと思われる特需的な動きがほぼ失われた状態といえよう。支出金額がいくぶん持ち直したのは、単に商品単価の値上がりの影響によるものと思われる。
音楽・映像メディアは一般的な世帯のみに限らず、企業や団体単位でも購入されるため、今件の購入性向の変化がそのまま業界全体の需要に一致するわけではない。しかし大きな影響力を持ち、市場の多分を支える一般的な世帯において、その購入意欲・支出金額が減っている実態は認識しておく必要がある。同時に2016年の特殊な環境下における挙動にも注目をしておきたい。
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※世帯購入頻度
世帯単位での該当期間の購入頻度。例えば特定の世帯において該当期間に誰かが2回CDを購入すれば、その世帯におけるCDの世帯購入頻度は200%(100世帯あたり200)になる。非購入世帯も含めての計算であることに注意。
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(注)グラフ中の「ppt」とは%ポイントを意味します。
(注)「(大)震災」は特記や詳細表記のない限り、東日本大震災を意味します。
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