「働き方改革」の第二章は「解雇自由化」
「働き方改革」で政府は、同一労働同一賃金の実施を当初案から1年遅らせて、大企業は20年度、中小企業は21年度からにする方針とのことです。同じ仕事をしているのに待遇が異なるのは「身分差別」で、それを解消するのになぜ2年も3年も待たなくてはならないのかわかりませんが、「差別」の存在すら認めなかったことを思えば大きな前進です。それに対して、専門職に成果給を導入する「高度プロフェッショナル(高プロ)制度」は予定どおり19年4月からになりそうです。
ほとんど理解されていないようですが、これらの法律が厳密に適用されると「日本的雇用」は根底から覆ります。
いまは「正社員への特別手当を非正規にも払え」というレベルの話ですが、すぐに「なぜ正社員は社宅に入居できて非正規は拒否されるのか」「親会社からの出向と子会社の社員で給与がちがうのは違法だ」という話になっていくでしょう。「一般職」を女性限定で募集するとか、「現地採用」の外国人社員を「本社採用」の日本人と区別することももちろん許されません。
同一労働同一賃金を徹底した北欧では、社宅や住宅手当はもちろんボーナスや退職金もなく、フルタイムでもパートタイムでも平等に時給換算されます。日本でも事務系の仕事は早晩、正規・非正規の区別がなくなり、先進国ではありえないほど劣悪な非正規のステイタスが上がり、ありえないほど恵まれている正社員(サラリーマン)のステイタスが下がることで「平等」が実現されるでしょう。
バックオフィスは時給仕事ですから、サービス残業は「奴隷労働」以外のなにものでもありません。残業代を払ったからといって無制限に働かせていいわけではなく、労働時間の上限規制も必要でしょう。会社の都合で一方的に解雇(雇止め)にされるのは生活権の侵害で、リストラは金銭的な補償を含む厳格なルールの下に行なわれるべきです(ただし、会社が「終身」雇用を約束する義務はないでしょう)。
それに対して専門職(高プロ)は、「会社の屋号を借りた自営業者」です。この法案に「残業代ゼロ」のレッテルを貼って反対するひとたちがいますが、自営業に残業代などないのですからこれは当然のことです。その代わり成果給は青天井で、大きな利益をあげれば社長の給与を上回ることもあります(欧米では珍しくありません)。
「高プロは残業に上限がなく過労死の危険がある」というひともいますが、いい歳をした大人が仕事時間くらい自分で管理できなくてどうするのでしょうか。これでは、「私はバカなのでどうか面倒みてください」といっているのと同じです。高プロの仕事は成果のみで評価し、会社が働き方に介入しないよう決めておけばいいだけです。
そして、もうひとつ大事なことがあります。報酬が青天井ということは、契約時にお互いが合意した目標に成果が達しなければ解雇されても文句はいえない、ということです。これも、自営業者に雇用保障などないことを考えれば当たり前の話です。
流動性の高い労働市場では、専門職はよりよい条件で他の会社に移っていきます。これに反対するひとはいないでしょうが、それは(成果を理由にした)専門職の解雇自由化とセットです。これが、「働き方改革」の第二章になるのです。
『週刊プレイボーイ』2018年2月19日発売号 禁・無断転