軽空母化される「いずも」型護衛艦 米海兵隊F35Bと一体運用か
「尖閣は中国の不可侵な領土」
[ロンドン発]「軽空母」に改修される海上自衛隊の「いずも」型護衛艦を巡り、日本側が今年3月、米軍首脳に米軍の最新鋭ステルス戦闘機F35Bが先行利用する見通しを伝えたと朝日新聞が報じました。「何のための空母化なのか。政府は国民が納得できる説明をする必要がある」と懸念を示しています。
防衛省は16日、昨年12月に策定された防衛計画大綱と中期防衛力整備計画に基づき、護衛艦で運用できる短距離離陸・垂直着陸戦闘機(STOVL)として米国の最新鋭ステルス戦闘機F35Bを選定。1機当たり約140億円で、計42機を調達する計画です。
読売新聞によると、来年度予算の概算要求で6機導入する経費を計上する方針で、防衛費として過去最大の5兆3000億円超(米軍再編費を除く)を要求するそうです。航空自衛隊への配備は2024年度になると見られ、当面は米軍のF35Bとの共同訓練を想定しています。
背景には米軍の空母打撃群を軸とした前方展開戦略がほころび始めたことがあります。
中国は7月、4年ぶりに国防白書「新時代の中国の国防」を発表し、「中国の強力な軍隊は世界の平和と安定、人類の未来を共有するコミュニティー構築のための頼りになる力だ」とグローバルパワーになったことを宣言しました。
その一方で「断固として国家主権と領土の一体性を守る。南シナ海の島嶼(とうしょ)と釣魚島(沖縄県・尖閣諸島)は中国の不可侵な領土」と改めて明記しました。
「南シナ海の島嶼とサンゴ礁にインフラを構築して必要な防御能力を展開、東シナ海の釣魚島周辺海域でパトロールを実施するため国家主権を行使する」と強調しています。
「台湾分離主義者との戦いはより深刻に」
台湾についても「台湾問題を解決して国の完全な統一を達成することは中国の基盤となる利益であり、国の若返りを実現するために不可欠。中国を分裂させようとするあらゆる試みや行動、平和的統一への外国の干渉に断固として反対する」とうたっています。
さらに「分離主義者との戦いはより深刻になっている。民主進歩党率いる台湾当局は頑なに『台湾の独立』に固執し、一つの中国の原則を具体化する1992年のコンセンサスを承認することを拒否している」と指摘。
「『台湾独立』分離主義勢力とその行動は、台湾海峡における平和と安定に対する最も重大な差し迫った脅威であり、平和的統一を妨げる最大の障害だ」と非難し、武力行使の可能性を排除しませんでした。
白書によると、人民解放軍海軍は外洋に訓練を拡大、西太平洋における最初の外洋軍事演習のために空母タスクグループを展開。空軍も体系的かつ全空域の訓練を強化し、南シナ海で戦闘パトロール、東シナ海で警備パトロールを実施し、西太平洋に活動範囲を広げています。
ロシアとの共同海上演習は15年8月には日本海海上とその空域でも行われました。最新鋭の15式戦車、052D型駆逐艦、双発ステルス戦闘機J(殲)20、中距離ミサイルDF(東風)26が配備され、極超音速巡航ミサイル、極超音速滑空体、無人航空機、空中発射・水中発射核ミサイルの開発が進められています。
旧ソ連製空母をもとにした「遼寧」を就役させ、さらに国産空母1隻が試験航海中です。滑走距離を短くできる電磁式カタパルトを備えた国産空母1隻を建造しています。
中国はほぼ手中に収めた南シナ海で「戦闘パトロール」を実施、西大西洋に進出しており、次は東シナ海と台湾をにらんでいることがありありとうかがえます。
トランプ大統領「空母は12隻態勢に復活」
次第に増す中国の圧力を抑えるためには米国を柱として日本、韓国、オーストラリア、インドが力を合わせるしかありません。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、米国の軍事支出は昨年、6490億ドル(約69兆1100億円)と、中国の2500億ドル(約26兆6200億円)の2.6倍もありますが、前方展開力には陰りが見え始めています。
米国のテクノロジー専門誌ポピュラーメカニクスによると、米海軍の空母保有隻数は太平洋戦争開戦時の1941年には空母7隻、小型護衛空母1隻でしたが、4年後には空母と小型護衛空母で計99隻に達しました。
ベトナム戦争時には25隻、冷戦終結時には14隻。1990年代には12隻になり、2007年に11隻にまで減りました。米議会は11隻態勢を維持すると約束しましたが、17年7月にジェラルド・R・フォードが就役するまで10隻という状態が続きました。
ジェラルド・R・フォードの就役に合わせ、ドナルド・トランプ米大統領は「米国史上、最強の海軍をつくる。空母を12隻態勢に戻す」とぶち上げました。現在2隻が建造中で20年と25年に就役する予定です。1975年に就役したニミッツが22~25年の間に退役する予定で、あと2隻の建造が計画されています。
しかし中国人民解放軍に「空母キラー」と呼ばれる準中距離弾道ミサイルDF(東風)21を使われると容易には近づけません。
「空飛ぶ忍者F35B」
そのリスクを下げるのが米軍の強襲揚陸艦や「いずも」型護衛艦など同盟国の軍艦を軽空母に改造して、長距離飛行が可能な輸送機オスプレイ(V22)やF35Bを運用する作戦です。V22はF35Bのエンジンを運搬できる仕様になっています。
米海兵隊は17年にF35Bを16機、山口県の岩国基地に配備、さらに16機が追加配備されるそうです。
米軍は自国の強襲揚陸艦や同盟国の軽空母を飛び石のように使って高いステルス性能を誇るF35Bを運用。F35Bは「空飛ぶ忍者」として敵の情報を収集し、統合ネットワークを通じて後方の味方に情報を送り、敵の戦力に精密な打撃を与える能力を獲得しようとしているようです。
英国は17年に就役したクイーン・エリザベス級空母の搭載機をF35BからF35Cに変更したものの、建造費用がかさみ、結局はF35Bに戻しました。すでにこの空母から米海兵隊のF35Bが離着陸する方針が明らかにされています。
一国で大型空母を保有し、艦載機を運用するのは財政が苦しい先進国では難しくなってきています。
英有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)の海軍専門家ニック・チャイルズ氏によると、強襲揚陸艦の保有隻数は米国31隻、英国6隻、インドネシア5隻、中国、シンガポール各4隻、オーストラリア、韓国、フランス、イタリア、スペイン各3隻です。
韓国はF35Bを運用できる独島級ヘリコプター揚陸艦の建造を発表。オーストラリアもキャンベラ級強襲揚陸艦を改修すればF35Bを搭載できるようになります。
海上自衛隊は「いずも」型2隻のほか、外見では「軽空母」に見えるヘリコプター護衛艦の「ひゅうが」型2隻、輸送艦「おおすみ」型3隻を保有しています。
日本が空母を保有するのは戦後初
艦載機も離着陸できる「大型空母」ではなく、短距離離陸・垂直着陸機だけを搭載できる「軽空母」とは言うものの、日本が空母を保有するのは戦後初めてです。
これまでは日本の軍事大国化に対する近隣諸国の警戒が強く、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母の保有は許されないという日本国憲法の制約がそれを阻んできました。しかしアジア太平洋の安全保障環境は一変しました。
チャイルズ氏は「海兵隊と海軍の強襲揚陸艦能力はアジア太平洋地域における米軍の前方展開戦略のカギを握っている。その戦略はF35Bとの連携がセットになっている」と指摘しています。
「米国は北朝鮮との緊張が高まった17年のようにいつも空母3隻をアジアに展開できるわけではない。日本、韓国、オーストラリアは軽空母に改修できるアセットをすでに持っている。米国は同盟国と力を合わせられる」
原油輸送の大動脈である中東・ホルムズ海峡の航行についてトランプ大統領は「自国の船は自分で守れ」と同盟国を突き放し、イランを政治的に孤立させる有志連合「センチネル(見張り兵)作戦」への参加を呼びかけています。
米国一国に安全保障を頼るのは難しい時代になりました。装備の一体化は同盟の強化につながります。政治が揺らいでも同盟関係や安全保障協力に影響を波及させない上でも大切です。
しかし米海兵隊のF35Bが自衛艦から飛び立つとなると、現場の運用もさることながら、しっかりとした憲法上の整理が必要になってくるのは言うまでもありません。
(おわり)