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新型コロナ死亡率を跳ね上げるモノとは?―首都圏でも建設計画が進行

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
グリーンピース・ジャパンと気候ネットワークによるシミュレーションマップ

 世界各地で猛威を振るう新型コロナウイルス。本稿執筆の時点で世界での感染者数は約240万人に達し、犠牲者数は約16万人5000人となっている。だが、その新型コロナよりも、多くの人々を死に至らしめているのが、大気汚染だ。最近の研究では、年間880万人が大気汚染によって早死にしており、その大部分が石油や石炭等の化石燃料によるものだという。しかも、大気汚染は新型コロナウイルスによる死亡率を引き上げるとの研究も報告されている。こうした中、神奈川県横須賀市では、新たな石炭火力発電所が建設中で、地域の住民や環境NGOは発電所から放出される有害物質による健康被害を懸念。汚染は発電所周辺のみならず、首都圏の広域に悪影響を及ぼすと観られている。

◯大気汚染とコロナウイルスは最悪の組み合わせ

 ドイツのマックス・プランク研究所、マインツ大学が先月3日、発表した研究論文は、衝撃的なものだった。同研究によれば世界の大気汚染はより深刻になっており、2015年には年間で880万人が早死にするなど「大気汚染パンデミック」とも言うべき状況にあるという関連情報)。

 こうした犠牲の大部分が石油や石炭など化石燃料による汚染であり、全体の3分の2を占める。大気汚染は、呼吸器系の疾患の他、脳血管疾患や心臓疾患の要因となっており、これらによる犠牲者数は、紛争を含めた暴力による犠牲、薬物乱用による犠牲などをはるかに上回る規模なのだ。

 さらに悪いことに、大気汚染は新型コロナウイルスによる肺炎での死亡率を引き上げる。ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院の研究によれば、空気中のPM2.5*が1立方メートルあたり平均1マイクログラム多い地域で、新型コロナ肺炎の死亡率が15パーセント高くなっていたという関連情報)。

*PM2.5とは、工場や自動車等から排出される硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)などが大気中で光やオゾンと反応して発生する粒子で、直径2.5マイクロメートル(1マイクロメートル=1ミリの1000分の1)以下と非常に小さい。呼吸などで人体に入るとなかなか排出されず、様々な疾患のリスクを引き上げる。

◯安倍政権、時代錯誤の石炭ゴリ押し

 大気汚染物質を大量に放出するのが、火力発電所だ。特に石炭火力発電は天然ガスのそれが出さない硫黄酸化物(SOx)、水銀などを排出する。また天然ガスより多くの窒素酸化物(NOx)を排出する。これらの大気汚染物質は発電所周辺のみならず広範囲に飛散し、人々の健康を害するリスクとなるのだ。そのため、石炭産出国であり、石炭火力による発電を産業の基盤としていた中国ですら深刻な大気汚染を解消するため、また地球温暖化対策から、近年、脱石炭を目指すなど政策の変更と余儀なくされている。一方で、石炭火力発電を推進しているのが安倍政権下の日本だ。温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に2015年に署名した後も、石炭火力発電を「重要なベースロード電源」と位置付け、現在、国内25基の新規増設の計画が進行中だ。

◯首都圏で石炭火力発電、周囲に健康被害

横須賀での石炭火力発電所の建設現場 筆者撮影
横須賀での石炭火力発電所の建設現場 筆者撮影

 新規の石炭火力発電所の建設計画は首都圏でも進んでいる。それが、東京電力と中部電力の合弁会社「JERA」による「(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画」だ。これは新たに設備容量65万kWの石炭火力発電設備2基を建設するもので、昨年8月から建設を開始、2023年に1号機、2024年に2号機の稼働を開始する予定だという。

 これらの石炭火力発電所により懸念されるのが、広範囲に及ぶ大気汚染だ。環境団体「グリーンピース・ジャパン」と「気候ネットワーク」の共同シュミレーションによれば、横須賀石炭火力発電所の稼働は、年間90人の早期死亡を引き起こし、石炭火力発電所の一般的な稼動年数である40年の間には3500人に達するものと推定されるという関連情報)。さらに喘息あるいは気管支炎の症状に日々悩まされる子供の数は、平均的な1日につき約60例に増えると予想されるということだ。建設地の半径10km以内には、43の学校と20の病院がある。横須賀火力発電所が稼働する頃には、新型コロナウイルスも終息しているものと願いたいが、ウイルスの専門家達は「今後も、新たなパンデミックが起きる可能性が高い」と指摘(関連情報)。今回の様な呼吸器系疾患であれば、石炭火力による大気汚染が被害をより深刻にすることは、大いにあり得るのだ。

◯地域の住民が計画停止を求め提訴

 

横須賀火力発電所建設の経産省の確定通知を取り消しを求める原告たち 筆者撮影
横須賀火力発電所建設の経産省の確定通知を取り消しを求める原告たち 筆者撮影

 これに対し、地域の住民は、環境アセスを簡略化して経産省が横須賀火力発電所の計画を認める「確定通知」したことは間違いだと主張。建設計画の停止を求め、昨年5月に提訴した。同発電所が稼働すると、年間760万トンのCO2を排出するなど、地球温暖化防止の流れにも逆行する。なぜ、各国が脱石炭に舵を切る中、横須賀火力発電所の計画を認めてしまったのか。経産省の担当部署に話を聞くと「現状、石炭火力発電が禁止されているわけではない」とのこと。結局は、石炭火力発電をいつまでも推進する安倍政権の方針が諸悪の根源というわけだ。

 世界の機関投資家達は石炭からの投資の引き上げ(ダイベストメント)を行っており、石炭の経済的優位性は崩れている一方、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、価格・効率共に飛躍的な進歩を遂げている。人々の健康と命を守るためにも、日本もそろそろ石炭火力発電と決別するべきだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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