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「住みたい田舎ランキング」とは、人が「住みたいと思う田舎」のランキングではないことを知っていますか?

甲斐かおりライター、地域ジャーナリスト
(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

実際は、「住みたいと思ってもらえるように頑張っている」市町村のランキングのこと

 人気の移住地を知るランキングの主なものには、毎年NPO法人ふるさと回帰支援センターが公表する「移住希望地ランキング」や、雑誌『田舎暮らしの本』(宝島社)の「住みたい田舎ベストランキング」がある。

 回帰支援センターの方は、東京のセンターに相談に訪れた移住希望者やセミナー参加者を対象に「移住したい地域」のアンケートを取った結果で、都道府県単位で算出。ここ数年は長野や山梨、静岡、岡山、広島などが人気で、2012年以降は上位20のうち西日本が約半数を占める。

 一方で、今年も1月発売の『田舎暮らしの本』にて「住みたい田舎ベストランキング」が発表された。ところが、回帰支援センターのランキングとは結果が大きく違う。「移住希望地」と「住みたい田舎」。同じような意味にも思えるが、結果に類似性はない。というのも、宝島社の「住みたい田舎ランキング」は、実際には移住希望者が「住みたいと思う」ランキングではなく、自治体が「住みたいと思ってもらえるように頑張っている(もしくはそうした条件が揃っている)」市町村ランキングという言い方の方が正しいからだ。

全国の市町村を対象に、移住支援制度の充実度や、住みやすさに関わる(と編集部が判断した)条件を質問項目として用意し(*)、回答のあった663市町村のアンケート結果をもとに順位を発表。今年の総合部門(小さなまち)の上位3市町村には大分県豊後高田市、島根県飯南町、大分県臼杵市が入っている。

 このランキングは、自治体が移住促進をどれくらい頑張っているか、をはかる指標としては大きな意味をもつだろう。移住者にとって住みやすい条件が揃っていて、成果が出ていることも事実。雑誌では全質問項目が明らかにされているし、今年から移住人口の割合も算出の一要素として加えられている。ただ、この算定根拠をちゃんとわかった上で結果を見ている人がどれほどいるだろうかと危惧してしまう。ネットニュースなどタイトルのみ読み飛ばしてしまう読者も多いなか、「住みたい田舎ランキング」という言葉のみが一人歩きすれば、やはり誤解を生む。各部門の上位に入った市町村では、こぞってランキング上位に入ったことを公表。例えば、大分県では県の公式サイトに「2019年版住みたい田舎ベストランキングに大分県の市がランクイン!!」などのページを挙げているが、算出根拠は記されていない。

twitterでも、発表以来「『住みたい田舎ベストランキング』で東温市が四国エリア上位に選ばれました!」「鳥取市が3部門で1位に選ばれたよ!」「秋田市が住みたい田舎ランキング2位ってのはマジ?」といった声で盛り上がっている。

『田舎暮らしの本』2月号(宝島社)(筆者撮影)
『田舎暮らしの本』2月号(宝島社)(筆者撮影)

「住みたい」と「住みやすい」は意味が違う。せめて「住みやすい田舎」ランキング程度にしたほうがいいのではないかと、筆者はかねてより思ってきた。なぜなら、黙っていても移住者の多い、真の意味で人気のある「多くの人が住みたい田舎」がこのランキング上位に入るとは限らない。また、今上位に入っている地域がそうとは言えないが、黙っていては移住者が少ないからこそ移住支援制度を充実させ、住みやすい町にしようと努力してきた地域が多いことは、以前こちらの記事にも書いた。制度が充実している地域を「住みたい地域」として出されてしまうと、誤解を生じてしまう。

 ただ、ネーミングはさておき、頑張っている地域を評価するという意味では、このランキングの役割は大きいだろう。筆者がこれまでに移住対策の参考になる地域として取材で訪れた市町村のほぼすべてが、この663市町村に入っている。全国1724市町村のうち、アンケートに回答すらしていない1061の市町村に比べて、移住者目線の支援制度を充実させる熱心な地域であることには違いない。

「住みたい町」は制度だけでは決まらない

 支援制度や住環境などの条件のみで、住みたい地域は決まらないのではないか。では、「住みたい田舎」は何で決まるのだろう?移住とはあくまで一人ひとりの人生における居住地の変更なので、移住理由も、その土地を選ぶ理由も、当たり前だけれど、人それぞれだ。

 ただ、これまで筆者が主に20〜40代の500人以上の移住者に取材をしてきた中で多かった答えを一つ挙げるとしたら(Uターン者は別として)「人」ではないかと思う。その土地に暮らす人たちが楽しそうだったから、この人に出会ったから、この人がいるなら大丈夫だと思ったから…という声をよく聞いた。この「人」とは、根っからの地元民である場合もあるし、数年前に移住してきた移住の先輩だったり、地元民と移住者との仲介役を担っている地域のキーパーソンなどであったりする。そうして興味をもったところに、移住支援制度や育児環境、コンビニや病院があるといった条件が後押しになる。

 だから移住者に来てもらうためには、外の人と中の人との出会いの場をいかにつくるかが大事になる。最近は「お試し移住」や移住希望者を迎えるための交流会などを設ける地域も多いが、筆者の経験からすると、いかにも地元の人たちがよそ者を受け入れるために用意された場というのは、必ずしも居心地がいいものではない。もてなしてくれようとする気持ちは嬉しかったとしても、やはりよそ行きの空気が漂うし、その地域の日常を見ている気がしないからだ。

 何より「ここなら移住しても大丈夫かもしれない」と思えるのは、地元の人同士が交流している場が日常的にあり、そこによそ者が混じっても楽しい気持ちで過ごせたという体験ではないか。

高知県佐川町「集落活動センター加茂の里」前にて。野菜やお菓子、花など地産品の販売が行われている。(筆者撮影)
高知県佐川町「集落活動センター加茂の里」前にて。野菜やお菓子、花など地産品の販売が行われている。(筆者撮影)
多世代が支え合う体制をつくるために日頃から気楽に集える場としてできたサロン。喫茶もできる。(筆者撮影)
多世代が支え合う体制をつくるために日頃から気楽に集える場としてできたサロン。喫茶もできる。(筆者撮影)

 例えば、高知県では県が後押しして「集落活動センター」という、地域主導型の拠点をつくる試みが行われている。旧小学校や集会所などの建物を生かして、第三の居場所としてお年寄りが集まってお茶会をしたり、託児所のように子どもたちが遊びに来たり。若いお母さん方の手芸教室が行われたり、農村女性の食品加工販売の拠点となったりと使われ方は地域によって異なり、センターの取り組みをそのまま法人化する動きもある。

  高知県の佐川町では、一つの町に4つの地区ごとの集落活動センターがあり、ここを拠点にした地域のお祭りや、地産品の販売、見守り活動、お弁当の宅配サービスなどが住民主体で行われている。若い人たちの参加率も高く、現場を見せてもらった時は、みなとても楽しそうだった。そうした場であれば、よそ者として参加していても楽しいし、移住してもこの地域なら楽しいのではと思う機会になる。

「山本さんち」では、不定期に地元の人も外の人も気軽に参加できる「barスマモリ」を行っている。(筆者撮影)
「山本さんち」では、不定期に地元の人も外の人も気軽に参加できる「barスマモリ」を行っている。(筆者撮影)

 さらに、行政主導の場ばかりではなく、民間のカフェやゲストハウス、個人宅であっても、外の人と中の人が自由に出入りできるオープンな場があることは魅力だ。青森県八戸市の南郷という地区に暮らす山本耕一郎さんが自宅を半オープンな形で始めた「山本さんち」はその一つといえる。詳細はこちら。

 自然はどれほど豊かでも、若い人たちにとって田舎に足りない要素は、人的、文化的刺激。「狭い地域」といわれる場所でも、新しい人と出会える場があり、刺激を受けることができれば、田舎であっても楽しく住める町に一歩近づくのではないだろうか。

(参考)

・『田舎暮らしの本』2019年2月号 第7回「住みたい田舎」ベストランキングP28-57 *質問項目には「移住の相談窓口(部署)がある」「専任の担当者がいる」といった移住者歓迎度をはかる項目や、「コンビニがある」「図書館がある」といった生活環境に類するものなどがある。

・認定NPO法人ふるさと回帰支援センター(東京)「移住希望地ランキング 2009-2017」

ライター、地域ジャーナリスト

地域をフィールドにした活動やルポ記事を執筆。Yahoo!ニュースでは移住や空き家、地域コミュニティ、市民自治など、地域課題やその対応策となる事例を中心に。地域のプロジェクトに携わり、移住促進や情報発信、メディアづくりのサポートなども行う。移住をテーマにする雑誌『TURNS』や『SUUMOジャーナル』など寄稿。執筆に携わった書籍に『日本をソーシャルデザインする』(朝日出版社)、『「地域人口ビジョン」をつくる』(藤山浩著、農文協)、著書に『ほどよい量をつくる』(インプレス)『暮らしをつくる』(技術評論社)。

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