“3,40代がハンドルを”…韓国で新政党『時代転換』が発足、南北関係も「隣人」提案で注目
韓国では4月15日に国会議員300人を入れ替える総選挙が行われる。これを控え、新政党が続々と立ち上がっているが、中でも注目されるのは3,40代の専門家集団が立ち上げた『時代転換』だ。その主張を伝える。
●新政党『時代転換』
政治と政党の任務は、社会の葛藤を解消し解決策を作ることです。
今の既成政治は社会の変化についていけません。
想像もできない程の技術変化に既成政治はついていけません。
既成政治は多様な世代の声を集められずにいます。
多様な文化も包容できずにいます。
両党制が問題です。
産業化世代が主軸になった自由韓国党と、民主化世代が主軸になった民主党の両党体制が問題です。
動物国会から植物国会へ、さらに嫌悪国会まで、国民たちは疲れています。
1月22日、ソウル中心部・明洞にある元は分譲マンションのモデルルームを改造したスペースで、新党『時代精神』が産声を上げた。上記は結党式の最後に読み上げられた宣言の一部だ。
「動物国会」は議員同士が争う様を、「植物国会」は何も生み出せない様を、「嫌悪国会」は国会への大きな失望と諦念をそれぞれ表す言葉だ。
会場には200人ほどが詰めかけた。年齢層は多様だったが、同党が掲げる「時代転換」の主人たる30〜40代の姿が目についた。
現役議員の姿もあった。「正しい政党」のベテラン政治家・孫鶴圭(ソン・ハッキュ、72)代表や、若手議員の代表格・蔡利培(チェ・イベ、45)議員などが参席した。
結党式は気取らない雰囲気にしようという想いが随所に感じられるものだった。若い司会者が時にスベる冗談を言いながら会場を盛り上げ、『時代精神』の核心メンバーが一人ずつ結党に当たっての決意を語る形式で行われた。
●松下政経塾塾生や、元海兵隊特殊部隊員まで
冒頭にマイクを取ったのは、金宝藍(キム・ボラム)氏。都市問題や地域共生を専攻し東京大学の博士課程を終え、今は松下政経塾で塾生となっている同氏は「昨年のチョ・グク氏(前法務部長官)をめぐる事態の中で、瑞草洞と光化門のどちらかを強要されることに無力感を感じた」と述べた。
付記すると当時、瑞草(ソチョ)洞にはチョ氏を支持する進歩派市民が集まり、光化門(クァンファムン)にはチョ氏と文在寅大統領の責任を問う人々が集まった。
金氏はまた、韓国社会を「人を絶え間なく分けて、レッテルを貼り、卑下する社会。子供同士で住んでいる家の場所や形態をめぐりいじめる『ナヌギ社会(ナヌギは分けるの意)』だ。この社会で人々は共に行きていけない」と診断し、「選択肢を強要する政治ではなく、選択肢を作る政治、共同体を生き返らせる政治、世代に橋を渡す政治が必要」と訴えた。
次にマイクを取ったキム・ソンイク氏は元海兵隊特殊部隊の出身だ。厳しい訓練で鍛えられた「愛国心」をテーマに話をした同氏は「最近になって愛国心が惨めに崩れ落ちた」とし、「北朝鮮が公式声明で韓国の文大統領に対し『茹でた牛の頭』という言葉を使い侮辱した時、私の愛国心も侮辱された」と述べた。
やはり付記すると、この言い回しは正確には「茹でた牛の頭も笑う所業」という表現だ。19年8月16日、文大統領が前日15日の光復節の演説で南北協力や南北平和を訴えたことに対し、北朝鮮の祖国平和統一委員会が談話の形で痛烈な批判を行った際に使い、韓国社会に反発を呼んだ。
キム氏はさらに、「日常の様々な場面でも愛国心が少しずつ無くなっている」と語った。
その例として「結婚」を挙げた。「友達は私に結婚しないのか聞いてくるが、その仕方を教えてほしい。家はどうするのか、共働きをするとしたら、その間の子どもの養育は誰がするのか。教育費はどうするのか考えると、恋よりも結婚が難しいのでは」と赤裸々に想いを述べ、「こうした問題をどう解決すればよいのか」と問いかけた。
同氏はまた、総選挙を控え主要政党で世代交代の名の下に行っている「ニューフェイスの引き入れ」について、「まったく新しくない。世代交代の対象になってる人たちが世代交代をしようとしているからだ」と分析し、「『時代転換』は一人の議員や政党を変えるのではなく、政治の土台自体を変えるもの」と主張した。
●結党式までの歩みと共同代表たち
この日、結党式を迎えた『時代転換』は19年3月に発足した『コリア「タンボン跳躍」ネットワーク」が母胎となっている。「タンボン」という韓国語は「一気に、一度に」を意味するが、これは北朝鮮の発展を念頭に置いたものだ。北朝鮮が今後発展する際のコンセプトとして、ビッグデータやテクノロジーを駆使し、無駄な試行錯誤を省こうという主張といえる。
さらに同ネットワークでは毎週水曜日ごとに集まり、基本所得(ベーシックインカム)や教育、安全保障や共同体、第4次産業革命下での雇用、環境など様々な旬の話題を扱っていった。そして19年11月に成果を集め『時代転換』として組織化し、この日の結党式に至った。
中心に立つのは趙廷訓(チョ・ジョンフン)、李源宰(イ・ウォンジェ)という同じ47歳の共同代表だ。
17年3月から京畿道・水原の亜洲大学で『亜洲統一研究所』の所長を務める趙氏は、延世大学やハーバード大学で国際開発学を学んだ後、世界銀行で15年間勤務しながらウズベキスタン、パレスチナ、コソボなどで平和と経済開発に関する経験を積んだ。
16年に帰国したきっかけについて、同氏は以前、韓国紙のインタビューで「二人の娘に今の韓国という社会を受け継がせたくなかったから」と答え、「世代、階層、南北などの断絶を解決するために帰国した」と答えている。
一方の李氏は、韓国の進歩紙『ハンギョレ』記者出身だ。その後、サムスン経済研究所の首席研究員を務め、さらに現在のソウル市長・朴元淳(パク・ウォンスン)氏が立ち上げた政策研究所『希望製作所』の所長も務めるなど、市民社会と経済界に幅広い識見を持つ人物だ。
現在は韓国の著名ベンチャー企業家の支援を得て、政策シンクタンク『LAB2050』を設立し代表となっている。
李氏は今回の結党を知らせるメールで「私はこれまで韓国社会の諸問題をどう解決するべきが考える場所に立ち続けてきた。しかし『すべての人には価値がある』という原則はどんな制度でも実現しなかった。そんな中で見つけた魔法の解決策が『基本所得(ベーシックインカム)』だった」と想いを告白している。
●その主張とは
では『時代転換』が掲げる核心的な内容は何か。李氏は結党式で4つの内容を挙げた。
一つ目は「より完全に、人間を尊重する社会を目指し、どんな人も尊重される価値があるとおおっぴらに語るべき。そうでないと、人々は不安な生活に耐えられずバラバラに分裂するだろう」という問題意識だ。そのために「基本所得」を提案した。
二つ目は「基本所得を実現するためには資源がいる。企業は革新的にならなければならない。これが経済に対する考え方の基本だ」とし、「そのために規制の緩和など挑戦できる制度と環境を整える」と提案した。
三つ目は政府の役割の変化についてだ。「政府と民間では常に政府が『甲』で民間が『乙』あったことを変える」とし、そのために「民間が『甲』になり、公務員の階級制や特権を無くし、政策を民間と共に作る制度を作る」と訴えた。
最後の四つ目は、北朝鮮についてだ。「これまで同じ民族であるとしてきたが、それでよいのか。同じ民族ではなく、良い隣人、隣国ならばどうか」と問いを投げかけた。「そうすることで互いに誹謗せず、民族の名の下で無条件で統一を提案せず、共存と平和を話し合うことができるのでないか」と提案した。
一方、趙・李の両氏は既存の政治にも強い不満をぶつけた。
趙氏は「大韓民国が大韓帝国の歴史を繰り返すのではないかという危惧がある」と切り出した。
そして「『朝鮮人は自分や自分の家族、自分の特権を守ることに汲々とし、国がどうなるかについての関心が低く、国は人民を一つにまとめる力が不足し、中国・米国が合従連衡するこの時期に何をしているのか分からない』という過去の言葉を、2020年の韓国に当てはめてみてはどうか」と語った。
さらに「韓国はこのままでは、どうなるか分からない」とし、「人々には様々な見解があることを認め、3,40代が政治の土台をひっくり返す。腐った水で魚を変えても何も変わらない。総選挙で世代交代を行う」と宣言した。
李氏は「政治からは解決策が出てこなければならないが、実際には何もしていない。例えば第一野党は『反文在寅連帯』を掲げている。一人を反対するために集まれば、未来が開けるのか。壊れた祖国に人々が戻ってくるのか。解決法を探さなければならない」と主張した。
また、与党についても「『無料wifi』(与党の公約第一号)もいいだろう。だが今、私達は地震を起きることが確実な地に住んでいる。それなのに地震の根を取り除くのではなく、地面に生えた木の枝に装飾することでごまかしている」と指摘した。ついで「一人の英雄が国を変えてくれる訳ではない。皆が立ち上がるべき」と呼びかけた。
●今後の目標と南北関係
韓国の中央選挙管理委員会によると、韓国には1月25日現在で39の政党があり、そのうち8の政党が国会議員を有している。さらに19団体が政党準備をしているが『時代転換』はここに属している。
今後、同党は結党条件を目指すための作業を続けることになる。『時代転換』について、韓国政治に詳しい李官厚(イ・グァンフ)慶南発展院研究員は「一種の専門家政党と言え、とても珍しい形の政党。政策提案型の政党になるのか、議席を取りにいくのか注目される」と見立てた。
近づく総選挙での目標について趙共同代表は「30、40代が新たに韓国政治において、意味のある勢力になることだ」と述べるにとどめた。そして「差し当たっての目標は憲法改正にある」とし、以下の3つを課題として挙げた。
・現在の北朝鮮政策である一民族共同体統一論を終わらせ、北朝鮮を良い隣人とする内容を憲法に反映させる
・帝王的な大統領制を分散型の権力構造に変える
・国民の権利を再整理する。個人のデータを資産とし、環境権なども含める。
実は、これまで南北関係を追い続けてきた筆者にとって、やはり最も気になるのは北朝鮮への「隣人論」だ。
「『同じ民族』から『隣人』への大きな転換を、どのように人々に説明して説得するのか。特に太陽政策を続けてきた進歩陣営とどう関係を設定するのか」という筆者の質問に対し、趙氏はこう答えた。
太陽政策も封鎖政策も問題を解決することができなかった。それは問題を理解する方式が違っていたからだ。北朝鮮も「自国第一主義」を掲げる現実で、民族統一論は北朝鮮に受け入れられず、南北関係の改善に障害となっている。
南北の経済力の差がとても大きいのが現実で、北朝鮮が最も安心して受け入れられる関係は「隣人国家論」だ。これを通じ、南北が安保・経済・社会での同一性と連合性を増大させる時間が必ず必要だ。
韓国の国民の大部分、特に生まれてから分断していた(分断以前の直・間接的な経験を持たない)「分断第三世代」には最も妥当な結論だ。
こうした主張については「来るべきものが来た」と戦慄を覚える部分が正直ある。だが、これもまた事実である。
筆者はこれまで韓国で15年以上、南北関係や韓国政治を眺め続けてきた。その中で、進歩・保守の「陣営論」を飛び越えようとする動きを何度か見てきたが、今回の『時代転換』は最も整った形でのチャレンジに見える。さらに、世代交代はまさに韓国のど真ん中のイシューでもある。
「人生は保守的でも生活は進歩的であり得る」、「左右の理念を取るのか実用を取るのか」。同党が投げかけるこんな問いが韓国社会にどんな一石を投じるのか。今後の動きは要注目となるだろう。