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作家フォーサイス氏はMI6の協力者だった これがスパイ組織の広報戦略だ

木村正人在英国際ジャーナリスト
MI6の協力者だったことを告白したフレデリック・フォーサイス氏(写真:ロイター/アフロ)

スパイ小説の世界的ベストセラー作家、フレデリック・フォーサイス氏(77)が20年以上にわたって英国の諜報機関MI6(秘密情報部)に協力していた――。当のフォーサイス氏が英日曜紙サンデー・タイムズのインタビューに明かしている。

MI6と言えば、人気スパイシリーズ「007」の主人公ジェームズ・ボンドが所属しているとされる、対外情報を担当するスパイ組織だ。

インタビューはフォーサイス氏の自伝「ジ・アウトサイダー」の出版に合わせて行われた。それによると、フリーランスのジャーナリストとして、アフリカ・ナイジェリアの東部州が分離・独立を宣言した「ビアフラ戦争」を取材中の1968年、MI6から初めて接触があった。

そのとき「ロニー」というMI6の機関員は正体を明かさなかった。フォーサイス氏は数日間、計約20時間にわたって、子供たちが餓死している悲惨なビアフラ戦争の実情を伝えた。

70年代には旧ローデシア(現ザンビア、ジンバブエ)で人種差別政策を進めるイアン・スミス政権の動向を探り、80年代には南アフリカのデ・クラーク政権が密かに保有していた核兵器6個をどうするかを情報収集してMI6の機関員に伝えていた。

「ジャッカルの日」を出版した2年後の73年、フォーサイス氏は東ドイツに派遣された。「そこには協力者であるロシア人の大佐がいた。彼はわれわれが必要としている小包を持っていた」。小包を受け取ったフォーサイス氏がバイエルンの国境に近づいたとき、東ドイツの人民警察に呼び止められたが、何とか事なきを得たという。

フォーサイス氏のスパイ小説のスリリングな展開はこうした実体験に基づいていた。インタビューの中で、フォーサイス氏は作品についてMI6のチェックを受けていたことを明かしている。連絡を取り、MI6のチェックを受け、書きすぎた部分があれば、「但し書き」がついたという。

ジェームズ・ボンドも実在するMI6の機関員がモデルになっている。MI6がスパイ小説やスパイ映画を通じて「善なる英国のスパイ」というイメージを作り上げ、英国にとって都合の良いストーリーを世界に広げようとしているのは言うまでもない。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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