”ジャズ・ピアノの天才”がたどり着いた”究極の楽器”とは?
鍵盤凹凸ない“究極のピアノ” 下田のジャズピアニスト考案
ボクが“ナマ菅野邦彦”を体験したのは、2003年6月のことでした。もちろん彼が、日本ジャズ界において稀有の才能を有して“唯一天才と呼ばれるピアニスト”であることを知っていて、実際にどんなサウンドを発するのかを確かめたくて、下北沢の小さなレンタル・スペースで開かれた小さなコンサートに足を運んだわけです。
実際に目の前で見た菅野邦彦は、全身をグルーヴさせながら、“七色の音”と表現するのがふさわしいほどの多彩で変化に富んだ“音楽”を絶え間なく生み出し、その創造性の豊かさとヴァイタリティに圧倒されてしまいました。
この記事ではピアノのユニークさがニュース・ヴァリューになっているように見えますが、実はそれ以上にユニークなのがそのピアノを考案した弾き手である菅野邦彦なのです。
クロマティックというのは、音楽用語でクロマティック・スケール=半音階のことを指し、平均律では1種類しかないことから、12音技法で作られた音楽であればいちおう演奏が可能であることを意味します。
ピアノは実はクロマティックな楽器なのですが、菅野邦彦考案の“未来鍵盤”はどうやら”平面で等間隔”というところがミソらしいのですね(ボクも実際には未見なのであくまでもニュース情報による推測ですが)。普通のピアノは標準で88個の鍵盤があり、1オクターブすなわち12音階のなかに白鍵が7本と黒鍵が5本、上下食い違いに並んでいますが、”未来鍵盤”はそこが異なるわけです。
ピアノを演奏すると調ごとに弾きやすさ弾きにくさが発生するので、正確にはクロマティックであるとは言い切れないと言う演奏者もいます。調はメロディの響き方に重大な影響を与える要素ですから、弾きやすい調と弾きにくい調が生じる楽器は、演奏者=表現者にとっては深刻な問題を引き起こすこともあるわけです。
もちろん、弾きにくい調を弾きやすいまでに訓練することは、古今の名ピアニストと言われる人が行なってきたはずですが、それでもやはり残ってしまうわずかな差異を許そうとしないところに、菅野邦彦の”天才”たる所以がある――、と言えるでしょう。
♪「平らな鍵盤」開発 菅野邦彦さん 【しずおか音楽の現場】
静岡新聞のニュース動画に、「菅野邦彦と平らな鍵盤」を紹介する映像がありました。実際の演奏は会場でのお楽しみ、ということなのでしょうが、なかなか衝撃的な”未来鍵盤”の姿をぜひご覧ください。
♪菅野邦彦(Kunihiko Sugano)ーAutumn Leaves
1975年のライヴ音源を収めたアルバム『The wine and roses』収録の「枯葉」です。イントロからアイデアとテクニックをフルに詰め込んで、テーマの冒頭で軽い絶頂感を味わわせるこの曲に、”スガチン・ワールド”が凝縮されているんじゃないかと、ボクは思います。菅野邦彦(ピアノ)、守新治(ドラム)、鈴木勲(ベース)、小川庸一(コンガ)。