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ロナウジーニョの手紙。ボールに愛されるメッシ。

小宮良之スポーツライター・小説家
スアレスと抱擁するメッシ(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

1月11日、カンプ・ノウ。FCバルセロナのリオネル・メッシは、凱歌をあげる決勝点を直接FKで叩き込んでいる。

スペイン国王杯、バルサは1レグでアスレティック・ビルバオに2-1と敗れ、ベスト8に進むには勝利が絶対条件だった。迎えたカンプ・ノウでの2レグ。2-0といったんはリードして安全圏に入ったものの、1点を返され、トータルスコアで同点になってしまう。

残り15分を切り、勝負を決めたのが10番を背負うメッシだった。ゴール正面、約20mのFKで左足を一閃。GKの手の届かないコースにボールをコントロールした。

2016年のメッシは、クリスティアーノ・ロナウドに水をあけられる形で、個人賞はすべて譲る形になった。脱税疑惑に心身を苛まれ、プレー中に嘔吐する症状が再発。最近は、母国のメッシ像が破壊される事件まで起こった。

しかし、メッシはメッシであり続けている。

彼はサッカーボールに愛される星の下に生まれたのだ。

ロナウジーニョのアドバイス

アスレティック・ビルバオ戦、FKの軌道も総毛立つものがあったが、ルイス・スアレスの先制点を演出するキープは神業だった。DFラインの前の敵が密集する地帯で、3,4人のディフェンダーに囲まれつつ、小さい体でボールをキープ。迫り来る敵を前に体勢を崩し、一度は失いかけるが、相手の足に当たったボールが戻ってくる。それを左サイドのネイマールに流し込み、逆サイドのスアレスにつながり、得点に至った。

特筆すべきは、ボールが引力を感じたように彼に戻ってきた現象かもしれない。

<メッシはボールに愛されている>

それは童話のようだが、真実である。

「天使? GKには悪魔に映るよ」

この日、ゴールを守ったアスレティックの守護神、ゴルカ・イライソスはこう洩らしていたことがあった。

「能力の高いアタッカーとは何人も対戦してきたよ。でも、メッシは何人に囲まれ、たとえ体勢が悪くても、ボールを支配下に置いている。ボールに愛されているのさ。だから、GKが最も取りにくい場所にボールを蹴り込める。しかも、こっちのタイミングを外しながらね。そこまでやられてしまったら、こっちは降参だよ」

メッシは不世出の選手だろう。ボールに愛されている、という点で。

先日、ロナウジーニョが「バルサ時代の自分への手紙」という企画で、まだユースにいたメッシについて触れたことがあった。

「君は監督に勧めるだろう。『この少年を僕とプレーさせて欲しい。トップチームで』と。そのとき、バルサの選手は彼の話題に夢中になる。ブラジルで僕がそうなったようにね。メッシにはこうアドバイスするんだ。『プレーを楽しめ、自由にプレーしろ。単純に、ボールと戯れるんだ』。それは僕がかつて父から受けた助言と同じなのさ」

ボールに愛情を注ぐことで、報われると言うことか。2005年前後、バルサの絶対的エースとして君臨していたロナウジーニョは、トップデビューする前のメッシの本質を見抜いていた。

「君はバルサを去るだろう。しかし、君が目指した自由なプレー。それはメッシによって、バルサで生き続けるのさ」

ロナウジーニョ自身、ボールに愛された選手だった。その出会いがあってこそ、メッシは変身できたのだろう。ブラジル伝統のジョゴ・ボニート(美しいプレー)はカタルシスになった。

メッシはその後も劇的に進化を遂げてきた。その理由は、「試合をするたびに成長する。相手の技を取り込むようなところもある」と説明される。

例えばFKひとつをとっても、数年前までは決して得意分野ではなかった。しかし今や一撃必殺の武器になっている。ヘディングも、小柄にもかかわらず、ポイントに入っていくタイミングや感覚は向上し、決して不得手ではない。

「うまいだけ、速いだけ、という選手はいくらでもいる。彼らでもその武器で相応の活躍はできるよ。でも、メッシは自分の長所に満足しない。すべてを身につけ、持っている技術も向上させていくんだ」

長年、バルサでプレーしていたダニエウ・アウベスは語っていたことがあった。メッシの後継者と言われるような選手は多く出てくる。しかし、誰一人その領域に近づけてすらいない。

メッシは誰よりもボールを愛する。それ故、誰よりもボールに愛されるのか――。愛の語らいが、至高のフットボールに結実する。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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