「不倫、同棲したら懲役刑」若者を苦しめる金正恩の古臭い結婚観
北朝鮮では男性18歳、女性17歳から結婚できるようになっている。しかし、朝鮮労働党が示す「結婚適齢期」は、男性28歳から30歳、女性24歳から27歳だ。「党のために充分に働いてから結婚せよ」ということのようだ。
しかし近年では、「適齢期」を迎えた若者が、結婚を避けようとする傾向が強まっている。市場経済化の伸展に伴い、相対的に自由に商売できる女性が優位に立つようになり、「結婚・育児は経済活動の邪魔」と考える人が増えたのだ。
また、一度結婚すれば離婚をなかなか認めてもらえないため、面倒を避けるためにそもそも結婚しないのだ。それで離婚せずに「不倫」を続けたり、婚姻届を出さずに同棲したりする若者が多いが、当局はこれを「非社会主義」(風紀の乱れ)だとして、懲役刑を含めた処罰を下している。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
(参考記事:北朝鮮で「サウナ不倫」が流行、格差社会が浮き彫りに)
咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋によると、先月末に新浦(シンポ)市で開かれた離婚裁判に、いきなり10人もの傍聴人が押し寄せた。いずれも当事者とは面識のない人々で、当局に動員されたのだった。「圧」をかけるためだ。
新浦市安全部は先月、結婚せずに同棲しているカップル、離婚せずに別の人と暮らしているカップルについての調査を行った。青年同盟(社会主義愛国青年同盟)、女盟(朝鮮社会主義女性同盟)、人民班(町内会)を通じて20人が把握された。
いずれも所属する組織に呼び出され、自己批判書を書かされた。そして、思想闘争批判の舞台に立たされ、様々な人から代わる代わる激しく批判され、恥をかかされた。
さらに、そのうちの半分は裁判にかけられた。表向きは「離婚裁判」ということだが、実際は「こんなことをすれば処罰される」という見せしめの意味があったという。
法廷に立たされたのは、咸鏡南道の端川(タンチョン)出身で平壌の大学に通い、平壌の女性と出会って結婚した若者だった。妻は「田舎では暮らせない」として、3年ほど別居していた。そのうちに彼は別の女性と付き合うようになった。
男性は、女性の年老いた母親の身の回りの世話をするため彼女の家に通っていたが、これが、平壌にいる妻と離婚していない状態で別の女性と付き合った「重婚」に当たると見なされた。裁判では妻との離婚を命じられた上で、労働鍛錬刑3カ月の判決を受けた。
平安北道(ピョンアンブクト)の別の情報筋は、若者の間で結婚式を挙げても婚姻届を出さなかったり、結婚前に同棲したりするカップルが増えたと伝えた。その理由を情報筋は次のように説明した。
「婚姻届を出す前に同棲して相手を見極めて、だめだと思ったら別れるのが流行のようになっている。子どもを生んでも婚姻届を出さない人も少なくない」
また、離婚せずに不倫する人も少なくないが、これは当局が離婚を「社会悪」「非社会主義」としており、少子化対策の一環として、離婚を難しくしていることが一因だ。
「離婚しようにも(裁判官に)ワイロを渡さなければ何年かかるかわからない。男女ともに経済的に(離婚後に)一人ぐらいできるほどの経済的余裕がない人も多く、疲弊した挙げ句に、同棲に踏み切る人も多い」
情報筋は、離婚手続きが難しい、離婚をしようとして処罰されるなどの問題が、様々な問題を生んでいると指摘し、速やかに離婚できるようにすべきだと主張した。
北朝鮮では協議離婚は廃止され、裁判離婚のみが認められており、配偶者にかなりの落ち度がある場合に限って離婚が成立する。「配偶者に経済力がない」という理由で離婚は認められず、裁判官にワイロを払って離婚裁判を進めるしか方法がない。