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中盤3人の構成を変えると日本の攻撃はどのように変化するのか? まだ見えぬ本番用の戦術【ガーナ戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

森保監督はBチームでスタメンを編成

「(ここまでの3試合は)メンバーを替えながら戦っていますが、誰が出ても勝つ、誰と組んでもチームとして機能させるということに、選手たちが高い意識を持ってプレーしてくれたことが、この結果につながったと思っています」

 6月シリーズ4連戦の第3戦となった10日のガーナ戦。4-1で勝利した森保一監督は、試合後の会見でそのように試合を振り返った。

 確かに「誰が出ても勝つ、誰と組んでもチームとして機能させる」という点において、この試合の日本はおおよそ目標をクリアした。

 ただし、サッカーの試合は相手があってのもの。試合を掘り下げる場合は、ガーナのチーム状況を考慮したうえで、日本が得た成果を客観的にとらえる必要があるだろう。

 試合3日前に来日したガーナは、6月1日にホームでマダガスカルと、5日にアウェーで中央アフリカ共和国とそれぞれアフリカ選手権予選を戦っており、日本までの長距離移動を含め、コンディション的なハンデを背負っていた。

 そのうえ故障者が多く、前日会見でオットー・アッド監督が「連れてきたかった選手を全員連れてこられなかった」と漏らしたように、複数名の主力が不在。この試合のベンチ登録はGKも含めて5名だけという、戦力的にかなり苦しい台所事情もあった。

 そんなガーナに対し、日本は予想どおりレギュラー組で臨んだブラジル戦から一転、初戦のパラグアイ戦同様、控え組を中心にスタメンを編成。それだけに、誰と組んでもチームとして機能させられるかが、この試合を振り返るときの注目ポイントになる。

 森保監督がチョイスした11人は、GKに川島永嗣、DFは右から山根視来、吉田麻也、谷口彰悟、伊藤洋輝の4人、中盤はセンターに遠藤航、インサイドハーフは右に久保建英、左に柴崎岳、前線は右に堂安律、左に三笘薫、1トップに上田綺世の3人。布陣は、基本の4-3-3を採用した。

 ちなみに、パラグアイ戦からは、GKをシュミット・ダニエルから川島に、インサイドハーフ2枚を原口と鎌田のセットから久保と柴崎のセットに、そして1トップを浅野拓磨から上田と、計4枚を変更。上田はこのシリーズ初出場となった。

日本はサイドのスペースから敵陣に前進

 基本布陣の4-3-3に選手をあてはめた森保監督に対し、ガーナのアッド監督は、アフリカ選手権予選2試合でも採用していた基本の4バックシステム(4-3-1-2と4-2-3-1)ではなく、初めて3バックシステムを採用した。

 準備期間とメンバーが限られたなか、苦肉の策としての3-5-2(5-3-2)で日本戦に臨んだわけだが、おそらくその即席の戦術も、試合展開に大きな影響を与えたことは間違いないだろう。

 ガーナの英雄アベティ・ペレを父親に持つアンドレ・アユー(10番)とジョーダン・アユー(9番)の"アユー兄弟"を2トップに配置するガーナは、日本がボールを保持する時は、2トップが縦関係になる5-3-1-1に可変。10番が一列下がって、日本のビルドアップの中心となる遠藤航の見張り役を務めた。

 森保ジャパンが3バック(5バック)の相手と対戦したのは過去12試合あったが、日本が基本布陣を4-3-3に変更してからは、今年3月のアジア最終予選最終節のホームでのベトナム戦しかない。

 控え組中心で臨んだその試合、日本は前半20分に失点したあとも攻撃の糸口を見つけられず、後半開始から中盤の旗手怜央を下げて伊東純也を起用。布陣を4-2-3-1に変更して反撃を試みたが、結局1-1のドローに終わっている。

 ただ、その試合のベトナムの布陣は、同じ3バック(5バック)でも守備時は5-4-1。中盤4人を最終ラインの前に並べて「5-4」のブロックを形成したが、この日のガーナは中盤に3人しか配置されておらず、そのうえ前線も横並びから縦並びに変化するため、中盤の両脇に大きなスペースが生まれる陣形だった。

 当然、この陣形では4バックの日本にハイプレスも仕掛けられない。実際、試合を通してその狙いさえ見られなかった。

 こうなると、日本がサイドのスペースを使いながら敵陣に前進することは容易だ。試合の立ち上がりこそ相手の出方をうかがっていた日本だったが、15分、右サイドでパスをつなぎ、最後は山根のクロスに対してゴール前に顔を出した柴崎がヘディングシュートを狙ったシーンあたりから、サイドを起点にゲームを支配するようになっている。

 4-3-3に布陣変更して以降の日本は、出場する選手によって攻撃のかたち、パターンが変化する傾向がある。8日前のパラグアイ戦では、サイドチェンジを有効な攻撃の糸口として、いくつものチャンスを作っていた。

 しかしこのガーナ戦では、相手の布陣と日本の選手のキャラクターが影響し、敵陣でボールを保持し、サイドを起点にパスをつないで打開する攻撃が大きな武器になっていた。それを象徴するのが、73分までに決めた日本の3つのゴールシーンだ。

攻撃のかたちは選手によるアドリブ主体

 まず、29分に生まれた山根の先制ゴールは、時計の針を巻き戻すと、28分に自陣右サイドで遠藤のヘディングを堂安が引き取ってから始まったポゼッションにまで遡る。

 そこからパスをつなぎながら敵陣に前進し、最後は右サイドの山根、堂安、久保建英の3人によるパス交換からフィニッシュ。山根のシュートをアシストした堂安のワンタッチパスを含めると、実に計22本のパスをつないでから奪ったゴールだった。

 山根のミスパスから喫した失点直後の45+1分に三笘が決めたゴールも、始まりは敵陣右サイドでの山根のスローイン。ボールを吉田に預けてから始まったそのポゼッションからゴールまで、計9本のパスをつないでいる。

 そして後半73分の久保の代表初ゴールも、板倉滉の自陣でのインターセプトをきっかけに、計9本のパスをつないでから、左サイドの三笘によるドリブルの仕掛けから生まれたものだった。

 これらゴールシーン以外でも、前半20分の上田のヘディングシュート、あるいは後半25分の三笘のヘディングシュートにそれぞれ至るまでは、いずれもポゼッションからの遅攻によるチャンスメイクだった。

 また、敵陣でのくさびの縦パス本数も14本(前半6本、後半8本)と、パラグアイ戦の3本(前半0本、後半3本)と比べて増加。中央を固められたことで上田が中央で受け手となったのは2回しかなかったが(そのうち1回はロスト)、ポゼッションするなかで、久保や三笘を中心に比較的浅いエリアで受けるシーンは多かった。

 ちなみに、サイドからのクロスボールの本数は13本(前半6本、後半7本)。こちらは、パラグアイ戦の14本(前半4本、後半10本)とほぼ変わっていない。

 これらのスタッツやピッチ上で起こっていた現象を見てみると、やはり今回の試合でも、4-3-3で戦う時の日本の攻撃は、出場選手の特徴や相手の戦術によって大きく変化する傾向が見てとれる。

 その点において、たしかに「誰が出てもチームを機能させることはできた」と言えるかもしれないが、どのように機能していたかを見てみると、極めて偶発的な機能、もしくは選手のアドリブによる機能と言わざるを得ない。

W杯本大会での戦い方は見えないまま

 現状、アジア最終予選を勝ち抜いた試合の遠藤、田中碧、守田英正のトリプルボランチで構成する4-3-3と、遠藤、柴崎、久保の3人で中盤を構成した今回のガーナ戦では、同じ4-3-3でも、同じチーム戦術として括ることはできない。

 仮に前者が守備的布陣とするならば、インサイドハーフに本来アタッカーの久保とゲームメイクを得意とする柴崎を配置した後者は、攻撃的布陣にカテゴライズできる。

 だとすると、これまで森保監督が攻撃的に戦う時に採用する4-2-3-1の採用目的はどこにあるのか。ガーナ戦の4-3-3と、昨年11月のオマーン戦の後半、3月のベトナム戦の後半、パラグアイ戦の後半途中から採用した4-2-3-1では、どちらのほうがより攻撃的だと判断したうえで、布陣をチョイスしているのか。

 普通に考えれば、少なくともW杯本番のドイツ戦やスペイン戦では、トリプルボランチで中盤を構成する守備的な4-3-3を採用する可能性が高いだろう。問題は、仮に先制されたあとにゴールを目指そうとする時だ。

 選手だけを攻撃的な駒に入れ替えた4-3-3を維持するのか、それとも前線に攻撃の駒を増やした4-2-3-1に変更するのか、本番まで残り3試合しか残されていない状況でも、まだはっきりとしていない。

 それは、この試合の80分からテストした3-4-2-1にも言えることだ。おそらくこの布陣は守備重視の戦況で採用する布陣だと思われるが、その目的があったとすれば、本来は右ウイングバックに伊東を使う選択はないはず。

 それを考えると、今回の3バックへの布陣変更は、そこまで明確な意図の下で採用されたものではなく、選手交代の順番から突発的にテストしたと見るのが妥当だろう。

 いずれにしても、パラグアイ戦もガーナ戦も、守備戦術の機能については判断材料が乏しかったため、ブラジル戦以外は攻撃面の確認しかできないのが実情だ。

 その意味では、どちらの試合も選手個人のテストだけではなく、もう少し本番を想定したベンチワークのテストにもトライすべきだったのではないか。そのほうが、出場した控え組の選手たちも、より本番を想定してプレーできたと思われる。

 パラグアイ戦も含め、今回のガーナ戦はチームとして本番用とは異なる設定で戦っていた印象は拭えない。つまりW杯本大会を見据えた場合、ガーナ戦は収穫の少ない試合に終わったと言える。

(集英社 Web Sportiva 6月13日掲載・加筆訂正)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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