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新型コロナワクチン「やっぱり接種しない」「やっぱり接種する」に心変わりした要因は 日本の研究結果

倉原優呼吸器内科医
photoACより

日本の新型コロナの感染者数が世界最多水準になっていることから、「新型コロナワクチンを接種して本当に効果があるのだろうか」と不安を抱く人が増えている印象です。ネット上で色々な意見を目にすることで、ワクチン接種の意向が変わることがあります。その要因について慶應義塾大学の研究グループが調べました。

すすまない3回目接種

現在、新型コロナワクチンの3回目接種率が伸びていない現状があります(図1)(1)。3回目接種によって、オミクロン株感染に対する感染予防効果や入院予防効果が回復することが分かっているので、2回目まで接種している場合、3回目を接種しないのは医学的にはもったいない気もしています。

図1. 日本の新型コロナワクチン接種率(2022年8月17日時点)(参考資料1より引用)
図1. 日本の新型コロナワクチン接種率(2022年8月17日時点)(参考資料1より引用)

しかし、これだけ感染者数の急増が報道されると、メリットが少ないと感じている人も多くなっているのかもしれません。

人々がワクチン関連の情報をどう咀嚼するかによって国全体のワクチン接種率が変わるため、マスメディアの報道が大きなカギを握ることは間違いありません。

「やっぱり接種やめます」に意見を変えた人

当初新型コロナワクチンを接種するつもりだったのに、その後接種を差し控えた要因を調べた研究結果が、慶應義塾大学から示されました(2)。調査は、新型コロナワクチン黎明期の2021年2月と、その1年後にオンラインで実施されました。

1回目の調査で、「新型コロナワクチンを接種する」と回答した1万1,118人のうち、2回目の調査で「接種するかどうか分からない」あるいは「接種しない」に意見を変えた434人に焦点をあてました。

調査の結果、一転して接種を差し控えたグループの特徴として、健康状態がかんばしくない、インフルエンザワクチンを毎年接種する習慣がない、などが挙げられました(図2)。

図2. 当初新型コロナワクチンを接種するつもりだったがその後接種を差し控えたグループの特徴(文献を2をもとに筆者作成)(イラストは看護roo!より使用)
図2. 当初新型コロナワクチンを接種するつもりだったがその後接種を差し控えたグループの特徴(文献を2をもとに筆者作成)(イラストは看護roo!より使用)

注意いただきたい点として、この調査には、ワクチン接種後に副反応がしんどくて3回目を辞めた人は含まれていません。

あくまで、「当初の意向を一転したグループの特徴がどのようなものか」を調べた研究に過ぎません。

中には、雑誌や一部の動画サイトなどから偏った情報を得ている人も含まれており、研究ではこういった人たちへどのようにメッセージングするのかという課題が提起されています。

「やっぱり接種します」に意見を変えた人

1回目の調査で「接種するかどうか分からない」あるいは「接種しない」と回答していた8,077人のうち、2回目の調査で「接種するつもり」あるいは「すでに接種済である」に考えが変わった5,861人に焦点をあてた研究結果についても、同時に慶應義塾大学から報告されています(3)。

一転、接種する方向へ考えが変わった人に理由を答えてもらったところ、主に5つが浮き彫りになりました。すなわち、

  1. 接種の利点を認識した
  2. 身近な人の接種状況を知った
  3. 接種の社会的意義を認識した
  4. ワクチンの短期的な副反応や安全性に対する不安が払拭された
  5. 仕事や人間関係の都合

の5つです。その頻度は表のごとくです()(4)。

表. 当初新型コロナワクチンの接種を差し控えるつもりだったが接種を受ける意向に変わった要因(参考資料4より引用)
表. 当初新型コロナワクチンの接種を差し控えるつもりだったが接種を受ける意向に変わった要因(参考資料4より引用)

日本人は、新型コロナワクチン接種についてかなり周囲の動向に左右されやすいということが分かります。

とはいえ、実は海外の研究でも、新型コロナワクチン接種を重要視する人が周囲に多いと、「自分も接種したい」と答える頻度が高いとされています(5)。

まとめ

新型コロナワクチンに関する様々な情報が、ネット上に飛び交っています。どのような情報を読むかによって、接種意向はどちらかに大きく振れてしまうかもしれません。

大事なことは、政府や学会などの公的な推奨を確認した上で、接種について考えるということです。

先ほど、「副反応がしんどかったので3回目接種を控えようと思っている」という例を出しましたが、武田社製ワクチン(ノババックス)の場合、発熱などの副反応の頻度がかなり低く抑えられますので、こちらもご検討ください。

(参考)

(1) デジタル庁. ワクチン接種率の日次推移.(URL:https://info.vrs.digital.go.jp/dashboard/

(2) Ghaznavi C, et al. The Lancet Regional Health Western Pacific. 2022 ; DOI: 10.1016/j.lanwpc.2022.100540

(3) Nomura S, et al. The Lancet Regional Health Western Pacific. 2022 ; DOI: 10.1016/j.lanwpc.2022.100541

(4) 慶應義塾大学医学部プレスリリース. 新型コロナワクチン接種意向の心変わりのワケ、その特徴が明らかに -1年間の 2 万人追跡調査研究-(URL:https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2022/7/22/220722-2.pdf

(5) Graupensperger S, et al. Vaccine. 2021 Apr 8;39(15):2060-2067.

(6) 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会. 5~17歳の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方. (URL:http://www.jpeds.or.jp/modules/activity/index.php?content_id=451

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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