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都知事選候補者のスキャンダル報道から考える「デートDV」の心理:キスぐらいなら良いのか

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ:誰もあなたの人権を侵す権利を持ってはいません)(写真:アフロ)

「文春の記事内容が事実でも問題ない」と公然と語る人々。その社会の雰囲気が、「デートDV」を増加させる。

■「週刊文春」鳥越俊太郎氏『女子大生淫行』疑惑」と人々の反応

「週刊文春」最新号(7月28日号)が、「鳥越俊太郎都知事候補『女子大生淫行』疑惑」と題した記事を掲載しました。鳥越俊太郎氏側は、「一切事実無根」と抗議しています(「週刊文春への抗議について」)。

週刊文春の記事によれば、別荘に来た20歳の女子学生に対して、「鳥越氏は強引にキスをすると、抵抗するA子さんにさらに迫り」、そのあと、「バージンだと病気だと思われるよ」と女子学生に語り、「ラブホテルに行こう」と誘ったとされています。

その結果、「A子さんは”死にたい”と口にするように」なったと記事は伝えています。

ここでは、記事内容の真偽は問いません。特定個人を非難する気もありませんし、またここでは報道のあり方などの議論もいたしません。私がここで問題にしたいことは、一般の方々や、さらに識者と言われる人の一部までが、「この記事内容がたとえ事実だとしても、何の問題もない」と語っていることです。

もちろん、文春の記事が事実ならキスの強要など許されないと考える人が多いとは思うのですが、その一方、たとえば次のような記述も見られます。

「記事の通りに別荘に2人で行き、キスしたのが事実として、何が問題なのか」「ある弁護士は匿名で『その記事の通りだとしたら、犯罪性はない』と語った」(BLOGOS:都知事選での鳥越候補を狙い撃ちにした『週刊文春』の謀略記事・IWJ:週刊文春の鳥越俊太郎氏スキャンダル報道に様々な疑問点!

そのほかツイッターなど匿名での発言でも、キスぐらいは良いとか、女性も悪い、キスぐらいで自殺を考えるのは変などの意見も見られます。

■淫行とは

ある人は、記事には「淫行」とあるが、女性が20歳なら淫行条例違反には当たらないと主張します。たしかにそうでしょう。また児童福祉法には、児童に淫行をさせる行為は禁止ともありますが、同時に国語辞典的には、淫行とは次のように説明されています(goo辞書)。

淫行:

1 みだらなおこない。

2 社会の性道徳から外れた行為。

相手が20歳以上でも、嫌がる相手に「強引にキスをする」などの行為は、みだらで、社会の性道徳に外れた行為ということでしょう。

さらに文春の記事にある行為は、淫行条例違反以外の違法行為である可能性を述べる人もいますが、ここではあえて法律論にも入らないようにしたいと思います。

■デートDVとは

世間には、男性に誘われて二人だけで別荘に行っているなら、キスぐらいされても当然だと考える人もいるでしょう。

しかし、それは決して当然ではなく、「デートDV」と呼んでも良いものだと思います。文春の記事の中で二人の別荘行きを「デート」とは言えないとも思いますし、登場する二人の年齢差も大きいのですが、仲の良い二人の間に起きたトラブルとは言えるでしょう。

今回の疑惑報道騒ぎと人々の反応から、ここではデートDVの問題を考えたいと思います。

デートDVとは、男女二人だけでデートするような親密な関係の中で行われる暴力のことです。デートDVの暴力の中には、次のものがあります。

  • 殴ったり腕を強くつかむような身体的暴力
  • ひどい言葉などによる精神的暴力
  • 他の異性と話すなとめいれいするなどの行動制限
  • 性的行為を強要する性的暴力
  • お金を借りて返さないなどの経済的暴力

東京都が18歳から29歳を対象に行った「若年層における交際相手からの暴力に関する調査」によれば、デートDVの被害経験がある人は37.4%(女性42.4%、男性31.3%)、加害経験がある人は29.0%と報告されています。デートDVは、誰にでも起こることなのです。

男女共に被害者はいますが、たとえば女子中高大生がデート中にむりやりキスされたり裸にされて深く傷ついたということは、しばしば発生しています。女性の中には、殴られたり、侮辱されたり、土下座されられたりしながらも、自分の人権が侵害されていると理解できない人もいます。

世間の人々の中にも、ついていった女が悪いとか、部屋にまで行って今さら拒むのはおかしいと、被害者女性を責める声まで出るることがあります。

男性の中には、女性の「ノー」は「イエス」なのだと本気で思い込んでいる人もいます。

二人の関係がどれほど親しくても、二人でどこへ行ったとしても、暴力は許されません。防犯を考えれば、用心する必要はあるとは思いますが、しかしだからと言って被害者が責められたり、加害者が許されたりするものではありません。

■デートDVを防ぐために

繰り返しますが、ここでは記事の真偽や鳥越氏の問題を議論することが目的ではありません。文春の記事を、1つの事例として議論しています。

男女二人がどんな関係であれ、場所がどこであれ、同意のない嫌がる相手に「強引にキスをする」「さらに迫る」ことは、性的暴力です。「バージンだと病気だと思われるよ」といった言葉で相手が傷つくなら、それは性的、心理的暴力です。

このような事例に対して、「問題ない」と語る人々がいることが、デートDVを増やし、被害者達をさらに苦しめることになると思うのです。

多くの場合、被害者は自分を責めています。だから、被害者には「あなたは悪くない」と伝えたいと思います。また、恋人同士だろうとデート中だろうと、暴力や強要は許されないという考えを広めたいと思います。

親しい人からの身体的暴力で深く傷ついている人たちがいます。また性被害は、たとえ客観的には小さく思えるような被害でも、心理的には激しく傷つくこともあるのです。

暴力や強要をしがちな人には、それでは幸せな関係は作れないと伝えたいと思います。自分の行為は、犯罪行為にもなりうると自覚してほしいと思います(犯罪として立件されてもされなくても、暴力はダメですが)。

「こんなことで逮捕されるのか」と驚く加害者もいますが、キスでも逮捕されることもあります(障害者施設利用の女性にキス 滋賀、容疑の職員逮捕:京都新聞 7月21日、また就職面接で押し倒してキスして逮捕や、電車内で見知らぬ人にキスして逮捕された外国人もいます)。

そして、被害者になる可能性のある人には、「ノー」を言う大切さを伝えたいと思います。恥ずかしそうにかわいらしく言うのではなく、真剣に真顔で「やめて」と伝えましょう。

デートDVを防ぎましょう。暴力は、敵対関係や憎しみから生まれるだけではなく、親しい関係の中にも生まれるのです。

(見出しと内容の一部修正7.22. 19:05)

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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