有料動画配信市場は5991億円…映像ソフト市場の実情をさぐる(2024年公開版)
インターネットメディアの普及と回線の高速化、映像技術の進歩に配信サービスの加速的充実などから、昨今では物理メディアにおけるエンタメ部門のセールスが思わしくないとの話を多方面で見聞きする。音楽業界、CD・DVD部門がその最たるものだが、映像ソフト(ビデオソフト、DVDやBD(ブルーレイディスク)、さらには有料動画)でも状況に大きな変わりはない。今回は日本映像ソフト協会が2024年5月に発表した、日本の映像ソフト協会そのものやソフト関連の実地調査結果を絡めた報告書「映像ソフト市場規模及びユーザー動向調査」の最新版「広報資料」を基に、日本の「映像ソフト市場」の推移を確認する。
次に示すのは映像ビデオ市場の市場規模。「セル」は物理メディアの販売、「レンタル」は物理メディアの貸出を意味する。過去発表分のレポートの値も用い、確認できる経年データ(2005年以降)を見る限り、全般的にはセル・レンタルともに市場規模は縮小する傾向にある。
特に2008年以降の物理メディアにおける急落ぶりは、音楽CDの売れ行きとおおよそ似ており、興味深い。メディア環境の変質は音楽メディアと映像メディア双方に、同時期に起きたことが分かる。見方を変えればメディアそのものの変質が状況変化の主要因であり、コンテンツの種類はさほど関係がない。
エンタメ系メディアは恐らく今世紀においては、2007年から2008年が大きなターニングポイントと見て問題はなさそう。コンテンツの質や方向性ではなく、鑑賞媒体・ツールなどの周辺環境変化が、市場に大きな影響を与えていることになる。
2013年分からは緑色の部分、有料動画配信の市場推計値が追加されている。これは2012年までがゼロで推移していたのではなく、単に今件調査結果で対象としていなかったまでの話。具体的には「定額見放題サービス」「デジタルレンタル」「デジタル購入」などが該当する。さらに2015年からはこれまで計算されていなかったWOWOWやスカパー!のような有料放送局による自社放送番組の再配信、ポータルサイトの有料付随サービス、動画配信サービスの有料プレミアムなども該当するものとして数字に含まれている。2015年の有料動画配信市場における前年からの躍進ぶりは、一部にこの定義変更によるところがある。ただし2016年以降は定義の変更が無いにもかかわらず値は上乗せされており、有料動画配信市場は拡大フェイズにあるとの現実に変わりはない。
とりわけ2020年以降における有料動画配信市場の成長ぶりは著しく、2020年の前年比はプラス65.3%、2021年における前年比はプラス22.4%と大きなものとなっている。直近の2023年ではプラス8.8%と落ち着いたものとなったが、それでも1割近くの市場拡大に違いない。映像ソフト市場の過半数を占める形となっている。有料動画配信市場はいまや、映像ソフト市場全体の7割以上となっている。
映像ソフト市場のうち物理メディア市場は、セルもレンタルも、そして双方の合計でも縮小の一途をたどっている。そしてそのうちの少なからずは、有料動画配信に利用者がシフトしたものと考えられるが、その際に市場に支払われる対価が減少し、市場全体も縮小している感があった。しかしながら2014年以降はおおよそ有料動画配信市場が全体を大きく補完し、躍進に転じさせている。特に2020年以降は有料動画配信市場が物理メディア市場を超える状態となっているのは注目に値する。
直近の2023年では前年比でセル市場も増加したのは注目に値する。プラス2.7%と小幅ではあるが、増えたことに変わりはない。もっとも広報資料ではこの増加について「2021年ぶりに増加となった」とのみ説明し、詳しい背景説明はない。セル市場は過去にも前年比で増加となったことは何度かあったので、さほど珍しいことでもないのだろう(例えば特定作品のヒットで市場全体が盛り上がることはありうる)。もっとも、レンタル市場がそれ以上に減少しているため、物理メディア市場(セル+レンタル)としては、前年比で減少となってしまっている。
有料動画配信市場は直近の2023年時点では5991億円。そのうちのどれほどが「元々レンタルもセルも目に留めていなかった人が利用した、新規の掘り起こし的な需要」なのか、「セル市場やレンタル市場からのシフト組」なのかは判断する材料がないが、後者の場合は該当する人数が同じでも、市場に投下される金額は随分と縮小する。現状ではむしろ新たな市場を作っているようであるのが幸いだが。恐らくは映像ソフトを楽しむという観点では、セルやレンタル以上に有料動画配信は利用ハードルが低いのだろう。
今後金額面での市場規模がいかなる変化を見せていくのか。大いに注目したいところではある。
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