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「男らしく」「女らしく」を理由としたいじめや嫌がらせ「ジェンダー・ハラスメント」って知ってますか?

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事
(写真:アフロ)

みなさんは「ジェンダー・ハラスメント」という言葉を聞いたことがありますか?「セクシュアル・ハラスメント」は知っているが、「ジェンダー・ハラスメント」は知らないという方が大半なのではないでしょうか。ここでは「ジェンダー・ハラスメント」について解説していきます。

らしさの圧力

11/2(日)の朝日新聞に「男らしさ女らしさって… ありのままの自分でいたいのに」という記事が掲載されました。

この記事には私が10代の頃に体験したことも記載されていますのでご紹介します。

<記事の内容を一部抜粋>

10月25日、性的少数者のLGBTといじめを考えるシンポが、都内であった。テーマは「男らしさ・女らしさの圧力を考える」。

同性愛者であることを公表し、教育現場でのいじめ対策に取り組む明智カイトさん(37)は「10代の頃から、女っぽい、気持ち悪い、オカマといじめられ、引きこもり、高校中退、自殺未遂を経験した」と明かした。教師に相談しても「男らしくなればいじめられない」と諭され、家では長男として結婚して一家を支えることを期待された。

「子ども同士のいじめだけでなく、親や教師や社会にまで『戦線』が拡大して苦しかった。私個人の問題なのか、日本の社会の問題なのか、追究したいという一心で活動してきた」

明智さんが共同代表を務めるLGBT支援団体「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」が5月に発表したアンケート結果では、いじめを受けたことのあるLGBTは7割で、3割が自殺を考え、2割が自傷に及んでいた。

出典:男らしさ女らしさって… ありのままの自分でいたいのに(朝日新聞)

「セクシュアル・ハラスメント」とは

一言で説明すると「相手や周囲の人を性的に不快な気持ちや不安な気持ち等にさせる言葉や行動」になります。

「セクシュアル・ハラスメント」の例としては、相手の容姿を品評すること、スカートめくり、盗撮や強制的に写真を撮影する、盗撮、強制撮影画像のネットへのアップ、身体の特に性に関わる情報を様々な方法で暴露したり、誹謗、中傷したりすること。

ただし、ハラスメント悪質性の程度が高く、ハラスメントを受けた人が精神的に追い詰められるような状況となったときは、特に「性的いじめ」として捉えた方がよいでしょう。

「ジェンダー・ハラスメント」とは

一言で説明すると「女らしさ・男らしさの物差しから外れた行動や態度に対し非難すること」になります。

「ジェンダー・ハラスメント」の例としては、女のくせに大食いだな、女のくせに男言葉を使うな、男のくせに泣くな、男ならもっと堂々としろ、男のくせにそんな女っぽいものが好きだなんておかしいんじゃないの…

これは人を「女らしい女」や「男らしい男」でなければ認めないという認識に基づくもので、多様な生や性の在り方を認めようとする考え方とは真逆のものです。多様な性や生を認めることが人権尊重のひとつとして理解されるようになっている今日、「ジェンダー・ハラスメント」は認められません。

このハラスメントは、ハラスメントを直接受けている人がLGBTである場合はその人の存在そのものに対する重大な攻撃となり、「いじめ」といえます。一方、ハラスメントを受けている人が非LGBTの場合は、「セクシュアル・ハラスメント」と同様、その程度等により、いじめとなりえます。

しかしながら、非LGBTの人に対する「ジェンダー・ハラスメント」は、それを見聞するLGBTの人にとっては、自分の存在がとてもネガティブに捉えられていることを思い知らされるものであるので、間接的にであれ、LGBTの人たちに対するハラスメントとなる可能性があります。「ジェンダー・ハラスメント」はそれゆえ誰に対しても許されず、その程度によってはいじめとなります。

「ジェンダー・ハラスメント」に端を発するいじめには、いじめの対象とされた人がLGBTであろうがなかろうが、「男らしくもなく、女らしくもない人」を「人」と思わない気持ち、つまり差別意識に基づいているものとも考えられる点に注意が必要です。

「ジェンダー・ハラスメント」による被害

「男らしさ」「女らしさ」など性別規範に沿わないという理由によるジェンダー・ハラスメント、「ホモ」「おかま」「おとこ女」「気持ち悪い」などの言葉による暴力が常態化しています。

「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」が2014年5月に公表した「LGBTの学校生活調査」の調査結果によると、LGBT当事者の7割にいじめ被害経験がありました。特に性別違和を持つ生物学的男子(MTF,MTX)では、身体的暴力(48%)や、服を脱がされる・恥ずかしいことを強制されるといった性的暴力(23%)などの深刻ないじめを長期にわたって経験している割合が高率でした。男子のコミュニティ内において「男らしくない」とみなされることが、いじめ被害に高率で結びついている可能性が示唆されました。

こちらからダウンロードできます

リーフレット『LGBT学校生活実態調査2013』レポート

ジェンダー・ハラスメントの被害者はLGBTの子どもだけとは限りません。「背が低い/高い」「痩せている/太っている」などと同じような理由で、どの男子、女子にも「男子のくせに○○/女子のくせに○○」などのいじめや嫌がらせの被害に遭うリスクを負っています。これらはいずれも不登校や自傷、自殺などに結びつくにも関わらず、教師がこうした事態に介入せず、むしろ煽る場合も多々見受けられます。

このような状況を改善するためには固定的性別役割意識(いわゆる「男らしさ」「女らしさ」)に沿わないことを理由にしたジェンダー・ハラスメントの防止研修を、子ども、教職員、保護者に対し実施し、性の自己形成期にある子どもの多様な性別表現を保障していく必要があります。

「性的ないじめ」を肯定しない環境作りが必要

LGBTの子どもを含めて学校、家庭など周囲の知識が皆無であるため、ジェンダー・ハラスメントなどの性的ないじめをはじめとする「性的な悩み(被害)の相談」について対応できる場所が子どもたちの身近に存在しないことが挙げられます。

被害を受けた子ども自身が性的ないじめを教師や親に対して相談するのを躊躇ってしまい、結果的に性的ないじめに我慢し耐え続ける状況が出現しています。また、機能不全家庭などによりそもそも子どもの悩みを受け止められる家庭環境にない場合も想定されます。

逆に教師や親に相談したことによって状況を悪化させてしまう可能性があります。教師や親から「男なら男らしくしろ」「女っぽいおまえに問題がある」などの無理解や叱責に遭い、子どもをさらに追い詰める危険性を孕んでいます。

このような状況を改善するためには、LGBTであることを理由とするいじめやジェンダー・ハラスメント等が起きたときに、それに適切に介入できる力量のある専門員を学校に配置することも必要となってきます。学校におけるいじめの解決には、それへの適切な介入が不可欠です。介入の仕方によっては、さらにいじめが沈潜化した上で悪化し、被害が深刻化する場合もあります。そこにLGBTの要素が入ると、いじめの構造も複雑化します。LGBTに関する理解が深く、かつ、いじめへの適切な介入ができる、高度な専門性のある人材を配置するための育成が必要です。

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「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」

LGBTの子ども、若者に対するいじめ対策、自殺対策(=生きる支援)などについて取り組みをしている。LGBT当事者が抱えている政策的課題を可視化し、政治家や行政に対して適切な提言を行い問題の解決を目指すことを目標としている。

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『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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