マスターズ3日目、2位に4打差の単独首位に立つまでに松山英樹が見事に使い分けたもの
ついに松山英樹がトップに立った。
マスターズ3日目、7アンダー、65をマークした松山は、2位に4打差を付け、通算11アンダーで単独首位。明日の最終日を最終組で回り、マスターズ初優勝とメジャー初優勝を目指す。
3日目の松山のゴルフは、まさに快進撃だった。1イーグル、5バーディーでスコアを7つ伸ばし、そして今週のオーガスタ・ナショナルでは初のノーボギー・ラウンドを披露した。ミスを抑えてスコアを伸ばすという意味では、パーフェクトなゴルフだった。
だが、彼とて人間だ。もちろんミスはおかす。そして、すべてが完璧なゴルフなどありえないはずで、この3日目も、この3日間も、松山は幾度か小さなミスをおかした。小さなピンチもあったが、今週、幸運の女神はずっと彼に味方している。
初日は13番のセカンドショットをクリークに落としかけたが、ボールは水中ではなく地上にとどまるラックに恵まれた。2日目は13番でチップイン・イーグルを得るラックに恵まれた。
そして3日目、松山が得た最大のラックは11番でティショットを大きく右に曲げるミスをおかした直後に悪天候によるサスペンデッド(一時中断)を迎えたことだった。
「悪いショットの後、中断して、(再開後は)グッドショットが続いて良かった」
松山は気持ちを切り替え、立て直す時間を天から授かった。そして、中断後に迎えた難関のアーメンコーナーは、降雨でソフトになったグリーンを擁しており、それもまた松山にとってはラッキーだった。
「後半はグリーンのスピードが落ちたので、13番の3パットの後からは、いい感じで打つことができた」
その13番はパー5。11番と12番で連続バーディーを奪い、首位を走っていたジャスティン・ローズをついに捉えた松山は、その勢いのままアクセルを踏み込み、アグレッシブなティショットを放った。そして、右のセミラフからの第2打で見事にグリーンを捉えた。しかし、3パットを喫し、イーグルもバーディーも取れずにパーに甘んじた。
それが、先走りそうになっていた松山の気持ちを適度に制御するブレーキになった。だからこそ、あの3パットを契機に、彼のゴルフはいい流れに入っていったのだろう。
次なる14番はティショットを大きく左に曲げ、2打目はフックがかからず、グリーン右へ。しかし、見事な寄せワンでパーを拾い、ミスの連続に自らブレーキをかけた。
そこから先はイーグル、バーディー、バーディー。先走りそうな気持ちにはブレーキをかけたが、いい流れにはアクセルを踏み続け、18番では再びミスの連続にブレーキをかけ、見事なパーセーブでこの日のラウンドを締め括った。
どこでブレーキングし、どこでアクセレーションしたのか。どこでどんなラックを得て、それをどう生かしたのか。安定したショットとパット、引き寄せた運、作り出した勢い。
張り詰めた雰囲気の中で戦いながら、そうした経緯のすべてを正確に感じ取り、分析する冷静さが、この日の松山には、いやいや、この3日間の松山には、確かにあった。
「この3日間、あんまり波を立てることなく、あんまり怒らずにできた。明日は、そういうことが大事になるので、それができれば、、、」
そう、それができずに勝利を逃した経験が松山にはある。それができずに流した涙のビターな味を松山は知っている。2015年マスターズ、2017年全米プロ。もはや同じ轍を踏みはしない。
「トップで(メジャーの)最終日を迎えるのは初めてなので、どうなるかわからないけど、できる準備をして明日を迎えたい」
2位との差は4打ある。4打差は大きい。だが、ともすれば瞬く間に失われる4打でもある。その怖ささえ、百戦錬磨の松山は、すでに知っている。
大きいけど小さい4打の差。カギになるのはメンタル面。サンデーアフタヌーンこそは、心にブレーキをかけつつ、ゴルフの流れは止めず、攻めて、沈めていってほしい。
「それができれば、チャンスあるんじゃないかな」
そう、それができれば、グリーンジャケットを羽織る栄光の瞬間は、松山英樹のものになる。