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いろいろあった五輪ゴルフは「ともあれ成功だった」と言っていい

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
男子の五輪ゴルフはJ・ローズが金、ステンソンが銀、クーチャーが銅で幕を閉じた(写真:ロイター/アフロ)

112年ぶりの五輪復活だというのに22名が出場を辞退した男子ゴルフの4日間が終了。英国のジャスティン・ローズが金メダル、スウエーデンのヘンリック・ステンソンが銀メダル、米国のマット・クーチャーが銅メダルに輝いた。

開幕前から指摘されていた諸問題の解決は、これからの課題として残されている。2020年東京五輪の後、ゴルフが五輪競技として存続できるのかどうか。その協議は2017年に行なわれることがすでに決まっているのだが、男子の4日間が終わり、3つのメダルが授与された今、五輪ゴルフが成功だったのか、失敗だったのかと考えた。

世界中の一人でも多くの人に最高のゴルフを見せることでゴルフの魅力を知ってもらい、ゴルフを好きになってもらいたい――それが、ゴルフを五輪競技として復活させた最大で究極の目的。その目的はローズやステンソン、クーチャーを含めた60名の選手たちの4日間のプレーによって十分に達成されたのではないだろうか。

ともあれ、五輪ゴルフは成功だった。そう言っていいと私は思う。

「だから彼は金、僕は銀」ステンソンの言葉も成功の証(Photo / IGF)
「だから彼は金、僕は銀」ステンソンの言葉も成功の証(Photo / IGF)

【メダリストたちが実証したもの】

最終日。ローズとステンソンの一騎打ちは見ごたえがあった。2013年の全米オープン覇者であるローズと今年の全英オープンを制したばかりのステンソン、2人のメジャーチャンプどうしの優勝争いとなったことは、偶然のようで偶然ではないだろう。

治安の悪化、ジカ熱への不安、過密スケジュールや疲労への懸念等々、いろいろな理由により出場辞退者が増え、世界のトップ10のうちリオ五輪にやってきたのはわずか4人。

そんな中、世界ランキング5位のステンソンと12位のローズが突出し、最終日最終組で熱戦を繰り広げたことは、彼ら自身の奮闘の表われであると同時に、選手たちの実力がフェアに反映される舞台がそこにあったことの反映でもあった。

「五輪で金メダルを獲ることが今季の僕の目標だった」

そう心に決めて努力を重ねてきたローズが金メダルに輝いたこと。そして、全英オープンで優勝し、全米プロでも7位に食い込んだ絶好調のステンソンが「ナンバー1スポットだけを目指す」と言い切り、最後まで金メダルに迫ったこと。

「ベストを尽くしたけどベストなプレーができなかった。ジャスティンのプレーが僕のプレーをわずかに上回った。だから彼はゴールド、僕はシルバーなんだ」

そう振り返ったステンソンの言葉が、リオ五輪のゴルフが素晴らしい戦いの場であったことを物語っていた。

クーチャーは五輪だからこそピュアなゴルフができたという(Photo / IGF)
クーチャーは五輪だからこそピュアなゴルフができたという(Photo / IGF)

銅メダルに輝いたクーチャーの感想は、とても興味深いものだった。

「PGAツアーはハイレベルな選手どうしの戦いだけど、五輪はいろんな中での戦い。そこで3位になったことは、どんな環境の下でも僕は世界で3番目だということ」

いろんな中での戦い――整備され尽くした米ツアーではなくても、慣れ親しんだ母国や文化の下ではなくても、気候も他選手の顔ぶれもギャラリーの様子もいつもとは異なる状況であっても、それでも立派に戦うことができ、位置づけられた3位。そこには五輪ならではのユニークな味わいと達成感があるのだとクーチャーは興奮気味に語っていた。

「PGAツアーではナイスな賞金が出るけど、五輪では何も出ない。でも、だからこそ、いいゴルフをしてバーディーやイーグルを取ることだけに集中できた」

ひたすらピュアにゴルフに挑む。そんな原点回帰こそは、五輪ゴルフの根本だ。

大観衆がとにかく楽しみ、喜んだこと。それだけでも成功だ(Photo / IGF)
大観衆がとにかく楽しみ、喜んだこと。それだけでも成功だ(Photo / IGF)

【最安値でも人気なら成功】

五輪全競技の中でゴルフのチケットは最安値で売り出されたそうだ。米ドルに換算すると、初日から3日間は15.75ドル、最終日は31.50ドルと2倍の設定になっていたが、それでも1000ドル近くまで跳ね上がっているものもある他競技と比べれば、ゴルフのチケットは格安だ。

その安値のおかげなのかどうか。初日から6000人超のギャラリーが押しかけ、開幕前からチケット完売となった最終日はロープ際に何重もの人垣ができるほどの大観衆が詰め寄せた。

安いから売れた?安かったから大勢がゴルフ場に押し寄せた?

もし、そうであったなのだとすれば、その現象は、なんとかしてお金がかからない状況にできさえすればゴルフはゴルフ後進国においても人気スポーツになりえることを示していたと言えそうだ。

ゴルフ観戦に不慣れなギャラリーの動きやシャッター音がプレーの進行を乱すことも多々あった。だが、それはこの五輪に限らず、ビッグなゴルフ大会を初めて迎えたアジア諸国でも通ってきた道であり、その経験抜きにゴルフが世界で広まることはない。

ゴルフがわかるか、わからないか。難しい技術やルールはさておき、目が覚めるようなナイスショットに驚嘆の声を上げ、大きな拍手を送っていた現地の人々が目の前で見たゴルフを楽しんでいたことは間違いない。

それは五輪ゴルフの成功と同義だ。

金メダルを今季の目標に掲げ、備えてきたという(Photo / IGF)
金メダルを今季の目標に掲げ、備えてきたという(Photo / IGF)

【2020年を新たなゴールに】

そもそも五輪開幕前、多くの選手たちが首を傾げていた疑問と戸惑いがあった。

「ずっとメジャーで勝つことを目指してゴルフをしてきたのに、突然、五輪を目指せ、金メダルを目指せと言われてもピンと来ない」

それはそれで頷ける。しかし、ローズは、その金メダルを目標に据え、母国の国旗を掲げることを目指し、その目標を達成した瞬間を

「人生で最も誇りに思えた瞬間」と言った。

「メジャーと五輪は比べるべきものじゃない。そしてメジャータイトルと五輪のメダル、両方を手に入れた僕はとても幸せだ」

目指すは金メダルのみだと言い切っていたステンソンは、表彰式で銀メダルを授けられたときは険しい表情のままだった。

しかし、メダリスト3人が表彰台に並び、みんなで記念撮影の段になると、ついに笑顔を見せた。

「3位がこんなにうれしいと感じたのは人生で初めてだ」と言ったクーチャーの興奮はいつまでも冷めやらず、メダリストとなった3人のオリンピアンがそれぞれの達成感を噛み締めながらそれぞれの国旗を眺め、最後には満面の笑顔で手を振る最終日の夕暮れどき。

戦いの後の穏やかなシーンに視線が釘付けになり、想いを新たにした人はきっと多かったはずだ。

「2020年(の東京五輪)を僕のゴールに設定するよ」

リオ五輪出場を辞退したジョーダン・スピースが、すぐさま、そうツイートしていた。

ともあれ、五輪ゴルフは成功だったと言っていい。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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