イマドキの若者の「性体験無し率は44%」だが、恋愛至上主義時代を生きたおじさんはどうだった?
メディアも白書も油断ならない
「若者の〇〇離れ」とよく言われる。
「若者のクルマ離れ」「若者のテレビ離れ」「若者のファッション離れ」「若者のお酒離れ」などなど、まるでありとあらゆるものから若者が離れているかのようにおもしろおかしくニュースで取り上げられたりしている。
「若者の〇○離れ」の話題がのぼるたびに、したり顔で「イマドキの若いモンは…」と言いたがる大人も多数存在する。しかし、冷静にデータを見れば、「若者の〇〇離れ」と言われるものの大部分は、事実と反する偏見と誤解による思い込みであることがわかる。
新聞やテレビの報道でさえ、一部を切り取った形で印象操作をする場合もあるので注意が必要である。メディアだけではない。政府の白書も油断がならない。
かつて、内閣府「令和4年版男女共同参画白書」の中にあった「20代男性の約4割はデートの経験なし」という調査結果が大きな話題になったことがあったが、それは単に直近の切り取りデータにすぎず、「デート経験なし4割」など40年前もから変わっていないというファクトをお伝えした。
→「デート経験なし4割」で大騒ぎするが、40年前も20年前も若者男子のデート率は変わらない
34歳までの童貞率44%
「若者のセックス離れ」についても同様である。
2021年の出生動向基本調査において、18-34歳の独身男性の「性体験無し」率は、44.2%である(ちなみに、女性は49.4%)。これだけ聞くと「そんなに多いの?最近の若い男はだらしないな」とすぐ言いたくなるおじさんがいるかもしれないが、そんなおじさんが若者だった1987年の同年齢の童貞率も43.1%である。たいした違いはない。
但し、1987年から現在に至る推移の中で、若者の性体験無し率が下がった時期も確かにある。男女それぞれの推移をグラフ化したものが下記である。
これを見ると、どうやら男女とも2005年に若者の性体験率がピークを迎え、その後、各年代揃って草食化しているように見える。実は、「若者のセックス離れ」と言いたがる論者などは、この2005年以降のデータだけを切り出して「ほら、若者はセックス離れしているでしょ?」と言うわけである。
しかし、それ以前の90年代、80年代までさかのぼれば、むしろ2005年の数字の方が異常値であって、現在は通常の状態に戻りつつあると解釈するのが妥当ではないかとも思うのである。
むしろ着目すべきは、25歳以上の男性の童貞率の推移の方だ。1987年から2015年まで童貞率は、2021年の30-34歳の数値だけやや突出している気もするが、それ以外はおおむね20~30%の割合で一定で不変である。これは、つまり、25歳まで童貞だった男性は、その後もそのまま童貞であり続ける可能性が高いということになる。これは、「恋愛強者3割の法則」と対照的な、いつの時代も「恋愛最弱者3割の法則」とでも言えるだろう。
一方、女性を見ると、1987年、バブル真っ只中での20~24歳女性の64%以上が処女だったのに対して、2005年には処女率36%とほぼ半減に近い状態になった変化が際立っている。むしろ、80年代後半から2005年までの間に、一体何があったのか、という部分に着目すべきだろう。
恋愛の自己責任化時代
80年代は「恋愛至上主義」時代といわれる。ちょうど、英国のサッチャー首相と米国のレーガン大統領によってもたらされた経済の「新自由主義」と時を同じくして「自由恋愛主義」時代の到来だったといえる。
自由恋愛というと聞こえはいいが、恋愛強者にとっての自由であり、恋愛弱者にしてみれば「不自由恋愛」どころか「不可能恋愛」時代となった。別の言い方をすれば、恋愛の自己責任時代の始まりでもある。ちなみに、皆婚時代が終焉を迎えたのも80年代が終わり、90年代に入ってからの話である。
90年代半ば以降から、もうひとつ若者の環境に大きな影響を与えた変化がある。携帯電話である。携帯電話は単なる通話の道具としてだけではなく、当時は元祖SNSともいわれるケータイサイト「前略プロフィール(通称「前略プロフ」)」などが流行し、出会い系や援助交際のツールとしても使われた。
むしろ、2000年~2005年当時は、「若者の性の乱れ」が問題視されていたことも忘れてはならない。
若者から離れていったのではない
このように、2005年は突発的な祭りのように若者の性体験率が高まったのであるが、若者の恋愛やセックスが増えても、婚姻は増えなかったというのはなんという皮肉だろうか。事実、2000年から2005年にかけて、初婚ボリューム層である25-29歳男性の初婚率は近年で最大の減少幅を記録しているくらいだ。
そういう意味では、確かに「若者の結婚離れ」については存在すると言っていいのかもしれない。しかし、正しくは、「若者が結婚から離れていった」のではなく、「結婚というものが若者から離れていった」のだろう。より詳細にいえば、「結婚というものを考える心の余裕がないほどに、就職やお金のことで頭がいっぱいになってしまった」時期でもある。まさしく、その時期は就職氷河期に当たる。
若者が能動的に何かから離れる行動としての「〇〇離れ」ならまだいいだろう。しかし、実態は、若者の意志や希望と相反して、「離れざるをえない」環境だったのではないだろうか。
その当時の若者はもう40代になる。そして、今や、20-30代の独身男性より40代以上の独身男性の方が人口ボリュームで上回りつつある。未婚男女比も歪なため、430万人の未婚男性余り現象も起きている。出生減のため、若者の絶対人口は今後増えないので、日本はしばらく「中年独身男性だらけ」になりそうである。
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