Yahoo!ニュース

MLB再誘致を目指すモントリオールの春はいつやって来る?

豊浦彰太郎Baseball Writer
エクスポズはティム・レインズなど多くの名選手を輩出した。(写真:ロイター/アフロ)

モントリオールにやってきた。3年連続となったブルージェイズの開幕寸前のプレシーズンマッチを観戦するためだ。

2004年を最後にエクスポズがワシントンDCに移転しナショナルズとなってから、この人口335万人の大都市は野球の空き家になっている。しかし、数年前から「MLBを取り戻そう」との動きが見られ、それを受けて2014年からMLBは、今や唯一の在カナダ球団ブルージェイズによるエキジビションを組んでいる。

ぼく自身は、このシリーズを観戦するのは昨年に続き2度目だ。何でまた、モントリオールくんだりまで2度も?と思われるかもしれない。

確かに去年は盛り上がっていた。そして、その前の年もそうだったらしい。しかし、所詮年に一度の「同窓会」だからじゃないか。だって、エクスポズの晩年は悲劇的なまでに本拠地オリンピック・スタジアムは閑散としていたのだから。

でも、今回も2試合ともチケットはほぼ完売らしい。元巨人でエクスポズ出身のウォーレン・クロマティが球団誘致に頑張っているし、ひょっとしたら熱意はホンモノなのだろうか。

もっとも、地元がいくら盛り上がっても球団誘致はそう簡単には実現しない。MLBは将来の球団拡張には含みを持たせているが、それに向けた具体的な動きはない。また、新球場問題が何年も未解決のままのアスレチックスやレイズにしても、八方ふさがりだったエクスポズとは異なり収入配分制度に守られており、そう簡単には移転しそうもない。実は、モントリオールの球団誘致の見込は、決して楽観できるものではないのだ。

4月1日の試合前には、地元出身のラッセル・マーチン(ブルージェイズ)の共同記者会見が行われた。仏語圏だけに記者の質問の8割はフランス語だが、マーチンはフランス語の質問にはフランス語で、英語の質問には英語で答えていた。これも去年と同じだ。

去年と違うのは、デニス・コデール・モントリオール市長を筆頭とする球団誘致グループの会見も行われたことだ。地元政界界は意欲をデモンストレーションしたいのだ。市長はマーチン以上に丁寧で、質問がどちらの言語であれ、英仏両方で答えている。「3年連続で、このシリーズはチケットがほぼ完売している」。市長の鼻息は荒い。

しかし、アメリカの記者から核心を突く質問が飛ぶ。

「この2試合で10万人を超す来場が見込めるからと言っても、しょせん年に一度のことだからではありませんか?年間81試合も開催したら、ファンの熱狂は醒めてしまうのではないですか?」

市長は臆することなく堂々と答えている。「そんなことはない。球団誘致に向け、着実に(step by step)機運は盛り上がっている」。さすが政治家だが、実は中身のない回答だ。逆にその記者に突っ込まれる。

「着実に(step by step)とは具体的に何を指しているのですか?」

「いや、だからそれは市民の機運だ」

「例えば、球団誘致の前提となる新球場建設の目途はついているのですか」

「新球場は必ず作る」

市長は、「作る」と意気込みは示しているが、資金調達の具体案などはなさそうだ。要するに、ガッツだけなのだ。

一度は野球を見捨てた街、モントリオールにMLBは戻ってくるか?記者席で意見を拾ってみても、「そうだね、いずれはあり得るんじゃない」と優等生的な回答が多い。

もっとも、この日のオリンピック・スタジアムの盛り上がり自体は確かに本物だった。試合前のセレモニーでは、ペドロ・マルティネスやティム・レインズらのかつてのスーパースターが現れ、大歓声と喝采を受けた。

モントリオールにとってこれからの道のりは決して短くはないのだけれど、それまでこの熱狂は持続するのだろうか。それとも、開幕前のMLBオープン戦はF1のモントリオール・グランプリ同様の「年に一度の祭典」として定着するのか。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

豊浦彰太郎の最近の記事