第19回党大会と新チャイナ・セブン予測(1)
第19回党大会が10月18日から開催されることになった。そこで新チャイナ・セブンが決まる。日本の読売新聞がそのリストが判明したと報道したことに対して、海外中文メディアから疑問と批判が噴出している。批判を読み解く。
◆第19回中国共産党全国代表大会
われわれが一般に「5年に1回開かれる党大会」と呼んでいる第19回の中国共産党全国代表大会(第19回党大会)が10月18日から開催されることが、8月31日にわかった。中国政府の通信社である新華社の電子版「新華網」および中国共産党新聞網が伝え(アクセスできない場合もある)、CCTVでも報道された。
それによれば8月31日に中共中央(中国共産党中央委員会)政治局会議が開催され、第18回党大会の七中全会を10月11日に北京で開催し、政治局会議は七中全会に対して第19回党大会を10月18日から北京で開催することを建議することを決定したという。会議は中共中央の習近平総書記が主宰した。
2016年11月9日、中共中央は第18回党大会六中全会(第六回中央委員会)を開き、「第19回党大会代表選挙に関する通知」を公布し、この日から全党員による選挙が始まった。選挙により40の選挙区から6月末日までに2300人の「(全国代表大会の)代表」(以下、代表)を選ぶことが決定された。半年間に及ぶ選挙は、選挙期間だけから見れば、アメリカの大統領選にも似ている。
2017年6月30日の新華社電によれば、2016年末までの統計で、中国共産党党員の総数は8944.7万人とのこと。昨年より68.8万人増加し、増加率は0.8%。約9000万人と記憶しておく方がいいかもしれない。
代表の選挙方法だが、たとえば日本の国会議員の選挙においても、仮に元総理大臣あるいは自民党総裁の職にあった人でも解散総選挙となれば国民の投票によって当落が決まるように、中国でも中国共産党の党大会全国代表は9000万人の党員による選挙で決まる。それは習近平や王岐山などのチャイナ・セブンにおいても同様で、一般党員の選挙の洗礼を受ける。
違うのは日本の国政選挙では自民党以外にも多くの党から立候補者が出るが、中国では中国共産党の一党支配なので党大会自身が国政を決めることに直結することだ。
代表選に出る候補者名は、党中央や村の党組織に至るまで、党の各レベルの組織の推薦に基づくが、推薦すれば全員が当選するわけではない。15%の差額選挙と称して、15%の候補者は落選する。
今般、習近平は一党員として貴州省という選挙区から選出された。王岐山は湖南省から、張高麗は陝西省からという具合で、この選挙区選定も含めて六中全会が決めている。
党大会で決まることが分かっているのは党規約改正や今後の方針以外では、「中央委員会委員」、「中央紀律検査委員会委員」および「中央軍事委員会委員」そして世界が注目している「中共中央政治局委員&中共中央政治局常務委員会委員」の選挙による選出である。
最後の「中共中央政治局常務委員会委員7名」を筆者は「チャイナ・セブン」と名付けた。胡錦濤政権時代、この委員の数が「9人」だったので、それを「チャイナ・ナイン」と名付けたからである。筆者が苦労して思いついた「チャイナ・ナイン」や「チャイナ・セブン」を、すでに存在している報道用語のように使ってくれるのは嬉しいことだ。
◆読売新聞の新チャイナ・セブン「判明」報道に関して
さて、この新チャイナ・セブンに関して8月24日付の読売新聞が「中国次期指導部リスト判明、王岐山の名前なし」という見出しの報道をした(昨日まで見ることができたのに、なぜかこの記事が見えないようになっている)。
判明――?
このリストは党大会までは絶対に秘密で、もしこの情報を外部に漏洩(ろうえい)した者がいたとすれば、党機密情報漏洩罪などに問われるから、「判明」ということはあり得ないと、筆者はまず反射的に思った。
本気で「判明」と書いたとすれば、よほど中国共産党の内部事情を知らない記者が書いたか、死を覚悟の上で漏洩した者がいたかのどちらかだろうと考えるのが、中国共産党政治の基本ルールを知っている者の反応のはずだ。上述のように中共中央委員会の委員も中共中央政治局委員もその常務委員(チャイナ・セブン)も、みな党大会における一連の「選挙」で選ばれることになっているから、党大会開催前に「判明」すること自体、あり得ない。
そもそも読売新聞の報道では、「政治局委員」を「政治局員」と書くなど(7名の一覧表の左、真ん中)、きっと中国共産党の基本構造もご存じないにちがいないと思われる。中国では「委員」というのは特別の意味を持っており、「局員」は行政(国務院管轄側)の職員に用いる場合があるが、一般に使わない。非常に日本的な発想の政治専門用語である。ここに、信憑性を揺らがせる二つ目の原因がある。
おまけに、あの江沢民のために生きているような韓正を「習派」(習近平派)」と書いてある。何ごとか、目を疑った。
すると間髪を入れず、アメリカやイギリスの多くの中文メディアや香港メディアなどが、一斉に同様の疑義を発信し、「信頼性がない」と断罪しているのを発見した。たとえば「韓正が習派だって?」という報道では、「それを見ただけで、これは真実性のない情報だということがすぐにわかる」と書いているし、また「王岐山の名前なし」に焦点を当てて、「ああ、これは江沢民派のヤツに嵌められたな」という批判もあり、なかなかに厳しい。
基本、数多くの「予測ヴァージョン」は早くから出ているが、それらはあくまでも「予測」と断り、非常に用心深く掘り下げて慎重に「予測」を報道しているので、世界の関係者は誰もが「判明」という言葉にひっかかってしまったのだろう。
もしかしたら、結果的に読売新聞が「判明した」とされるリスト通りになるかもしれない。その可能性は否定できない。
しかし読売新聞自身、よくよく読むと紙ベースの新聞では、「王岐山 名前なし」という見出しの下に「退任有力説」と書いてあり、本文にも「定年に関する慣例を覆して留任するとの観測もあった王氏の処遇を巡っては、党内ではいまだに賛否両論が存在しているといい、リストの最終的な顔ぶれも含め、党大会まで駆け引きが続くものとみられている」と、キチンと逃げを打っているではないか。
それなら「判明」などと書かなければよかったのにと、他人事ながら気の毒にも思う。
◆その他の批判
読売新聞のこの記事は、ネットでは会員登録しないと読めないが(本日9月1日になり、突然、ネットでも読めなくなっている)、紙ベースの新聞紙面では、最後に(北戴河の会議では)「習氏側の人事案を基本的に了承したという」と結んでいる。
これに関する中国大陸以外の海外中文メディアの批判は、かなり凄まじい。
習近平が闘っているのは腐敗集団であり、腐敗のトップにいるのは江沢民であるため、結果的に江沢民派と闘っていることになる。これを「内部の権力闘争」と位置付けると、習近平政権がいま何を目指し、いかなる野心を国際社会において抱いているかが見えなくなるので非常に危険だと、筆者は何度も警告しているつもりだ。この問題は今後このコラムの「予測」シリーズで論じていくが、今回は取り敢えず海外中文メディアの反応に触れておく。
権力闘争であるか否かは別として、少なくとも習近平が江沢民派(腐敗擁護派)と闘っていることは事実だ。そこで海外の中文メディアは以下のような批判を浴びせている。
●ならば、なぜ「習氏側の人事案」に江沢民派の韓正が入っているのか?
●矛盾を無くすために韓正を「習派」と強引に書き換えたのか?
●王岐山を外したリストを「判明」という言葉で断定的に発表して韓正を入れたのは、江沢民派がメディアを買収してよくやる「アドバルーン」手段で、昔は胡錦濤を追い込むためによく使ったが、今回は習近平を追い込むために使っているに過ぎない。
●日本のメディアなら騙しやすいので、「政府に近い党関係者や外交筋」が情報源だなどとして特定の情報を故意に流したのではないのか?
●「毛沢東時代の党主席制復活」などと書いておきながら、常務委員は7名保留しているというのは矛盾だ。
このような批判が延々と続く。
筆者自身には別の見解があり、新チャイナ・セブン予測に関するコラムをしばらく続け、他の多くの「予測ヴァージョン」とともに、何が問題点で、それによって何が変わるのか等、今後の予測シリーズの中で述べたいと思っている。長くなったので、「予測シリーズ第一回目」はここまでとする。
(なお昨夜まで読売新聞の当該記事は普通にアクセスできていたので、それに基づいてこのコラムを書いた。突然アクセスできなくなった理由は分からないが、コラムの読者の方には、アクセスできることを前提で書いたことを、大変申し訳なく思う。お許しいただきたい。念のため、その記事に書いてある次期指導部リストは「習近平、李克強、汪洋、胡春華、韓正、栗戦書、陳敏爾」である。)
★いま気が付いたが、「韓正が習派だって?」のページの下の方に、読売新聞の記事が貼り付けてあったので、興味のある方は、それを見ていただきたい(9月1日午後3時)。