盛岡で震度5弱 大掃除とあわせて家具の転倒防止を 賃借人でも退去の際、原状回復が不要になる事も
震度5弱から家具の転倒が起こる
2020年12月21日、盛岡で震度5弱の地震を観測しました。
12月18日には、伊豆半島近海で震度5弱の地震もあり、12月に入り、2回目の震度5弱の地震です。
ただ、最近は、地方での震度5弱での被害は、ほとんどありません。
気象庁が発行しているその震度どんなゆれ?を見ていただければわかるように家具を固定していれば震度5弱に対応できるからです。
安全神話はただの神話 家具を固定しないとどの地域も危険
防災講演で全国の方とお話ししますが、「うちの地域は地震に強い」という安全神話の強い地域ほど、家具の固定は進んでいません。震度5、6の地震は日本中どこでも起こる地震と言われています。家具の固定をしないという事は、日本に住んでいるかぎり、ありえない、そう思っていただきたいです。
上の写真は、熊本地震の本震、震度6強の熊本市で撮影されたものです。6強では、転倒防止をしていない家具の大半が倒れます。ちなみにこのお宅では、前震の際にはタンスは倒れていなかったのですが、ここが寝室だったので、本震の前に寝室を移動していました。家具の転倒防止はできていませんでしたが、家具がない部屋への移動で難を逃れています。
転倒防止は効果がある
下の写真は、熊本地震の西原村にあるお宅の食器棚です。前震は、震度6弱、本震は震度7と、2つの地震にあっているのに、倒れていないばかりか食器も割れていません。ネジと金具で固定されていました。家具固定に効果があることがわかります。
とはいえ、食器の下に滑り止めのシートなどもないですし、高さもある食器棚なので、倒れないのは固定の効果にしろ、よく割れなかったなという印象です。揺れの向きによる偶然もあるでしょう。1階にあった事も重要です。マンションでは上層階が大きく揺れる場合が多いため、同じ震度でも家具の転倒の被害が大きくなります。
マンションでは震度5弱でも家具の転倒の被害がでてくる
東日本大震災の際の東京では、震度3〜5弱を観測した地域が多く一部で最大震度の5強でした。
震度5強以下であっても、東京消防庁の東日本大震災に伴う地震発生時のアンケート調査では、高い階層ほど家具などの転倒・落下・移動があった事がわかっています。
家具の転倒防止は今年のうちに
この事を教訓にして、今年の大掃除の時期に、
- 寝る場所には家具を置かない
- 家具には、転倒防止グッズを取り付ける
- マンションの高い階層では、背の高い家具は置かない。背の低い家具もすべて転倒防止
に取り組んでいただければと思います。
家具の転倒防止をはばむもの それは賃借人の原状回復義務
ところが、この、家具の転倒防止をはばむ最大の壁があります。それは、防災意識の低さではありません。賃借人が原状回復義務を負っている事が最大の壁になっています。
賃借人が、ネジ止めなど家具の固定をすると、原状回復が必要になるため、金銭的負担を負わなければなりません。退去するまで、いくらお金を払うようになるのかわからないため、怖くて転倒防止などできない方も多いのです。
固定しないタイプものもありますが、天井が抜けた、壁紙が剥がれた、床に跡が残ったというケースもあるため、怖くて転倒防止できないという方もいます。
そもそも、こんな地震大国で、なぜ家具の転倒防止で原状回復義務を負うのでしょうか?
エアコンのねじ穴は元に戻さなくてもいい
そこで、気づいたのが、エアコンを取り付ける際のねじ穴は、賃借人でも原状回復義務を負わない場合がほとんどだという事です。理由は、エアコン設置が常識になっているので、通常損耗として扱われている事がわかりました。だったら、防災も常識なのだから、通常損耗と解釈すればいいだけなのではと思い、災害復興まちづくり支援機構代表委員で企業法務や危機管理に詳しい弁護士の中野明安氏に相談しました。そこで、エアコンと同様、家具の転倒防止は日常生活で当然発生する「通常損耗」だから、原状回復義務は免除できるという解釈が可能という事がわかりました。そして、中野明安氏と一緒に、まずは自治体が所有する賃貸物件で実施してもらえるよう自治体にレクチャーしてきました。
港区の区営住宅等は家具の転倒防止目的のねじ穴などは原状回復義務免除
これに賛同して、全国に先駆け公営物件等の原状回復義務を免除してくれたのが東京都港区です。マンションが多く、災害が起こっても自宅にとどまる事ができる対策に力を入れる東京都港区では、2017年から実施しています。区長のリーダーシップと防災や住宅関連部署の職員の奮闘で、条例の変更もなく、入居のしおりを変更したのみで、区民の家具の転倒防止を後押ししました。
全国で広がる家具の転倒防止は通常損耗という解釈
取り組みはすでに全国に広がっています。三重県四日市市、桑名市、東京都昭島市、世田谷区、埼玉県日高市、香川県観音寺市、千葉県柏市では市町村区の議員が関心をもってくださり、議会質問の後、実施されています。2020年9月には、都道府県として初めて徳島県が実施する事になりました。徳島県では包括外部監査役弁護士が監査を通じて徳島県に意見を述べた事により実現しています。実施している自治体は地図上でもご覧いただけます。
条例変更も不要なので、他の自治体でも実施していただければと思います。弁護士の中野明安氏は、自治体に対し、下記のようにアドバイスしています。
また、すでに原状回復義務を求めていない自治体もあるので、それについては自治体が宣言する事の重要性を説明されています。
民間物件でも通常損耗として原状回復は不要になってきている
このような措置がされていない自治体や民間物件の賃借人は、家具の転倒防止を実施した際に、壁などが傷ついたらどうすればよいのでしょうか?
下記の写真はシールタイプの転倒防止を実施したものの、壁紙が剥がれたケースです。
転倒防止を実施して壁紙代等が求められても、裁判によらず通常損耗として認められ、修理代不要とされたケースもあります。中野明安氏も弁護士に相談してみる事を提案しています。
家具の転倒防止実施は賃貸人にとってもメリット
地震で、人が死傷してしまうと、人口減少時代の賃貸人にとってもマイナスです。最近は、水害で1階の家具が浮かんで2階に避難できなかったケースもあるので、水害対策としても固定が必要になっています。人の命は、傷穴や壁紙よりも重視されるべきものです。民間賃貸物件でも、家具を固定できる事を売りにしているタイプもでてきていますので、この動きが広がればと思っています。