米国民の「大統領権限の強化」への是非は支持政党と回答時期で大きな違いが
アメリカ合衆国の大統領は絶大な権限を持つが、議会や司法とのバランスによる制約がある。それを調整し、大統領の権限をより強化して国策の停滞を阻むべしとの意見もある。賛否動向はどのような状況なのだろうか。同国の民間調査PewReserchCenterが2017年3月に発表した調査報告書「Large Majorities See Checks and Balances, Right to Protest as Essential for Democracy」(※)から探る。
今調査では民主主義体制を維持するのに必要だと思われる政策の支持度合いを尋ねているが、その支持・重要性の認識は、支持政党≒政治社会への考え方によって少なからぬ違いが生じている。
現状では「政府に対する非暴力的な抵抗の権利」「少数意見の尊重」「報道組織が政治指導者を批判する自由」に関して、共和党(大よそ保守的方向性、現大統領のトランプ氏所属)支持者の回答率は低く、民主党(大よそリベラル的方向性、前大統領のオバマ氏所属)支持者のは高い。
それではアメリカ合衆国のトップの立場にある大統領の権限に関し、いかなる思いを抱いているのかが今回スポットライトを当てる要目。
昨今のアメリカ合衆国の施策に対し議会や司法などの抵抗が強まっていると相次ぎ報じられているが、これは三権分立的な仕組みである大統領と議会と司法がそれぞれ独立し、相互監視をしながら国を運営しているからに他ならない。特定部局の独善による暴走を防ぐ仕組みとしては好ましいものの、一方で物事をスムーズに推し進める際には邪魔な仕組みであると認識されることもある。
そこで自国内の問題を速やかに解決するため、現状以上に大統領の権限を強くし、議会や司法に束縛されにくい仕組みを構築するべきだとの意見が生じてくる。その意見には反対する、問題があると思う人の割合を示したのが次のグラフ。
無回答の人も少数存在する可能性があるが、大よそ100%からこのグラフの値を引いた人が「自国内のあれこれを素早く、よりよく解決するためには、大統領の権限を強化して、議会や司法に足を引っ張られないようにすればよい」と考えていることになる。直近で全体では77%が大統領権限の強化には反対。ところが共和党支持者は65%に留まり、大統領権限の強化を望む人が少なからずいることが分かる。他方、民主党支持者では87%に達し、より多くの人が権限強化には反対していることが分かる。
単にリベラル的発想では三権分立的な体制を強く望み、保守的思想では大統領の権限強化が望ましいと考えているのか。それとも現大統領の所属政党から自らの思想に近いか遠いかを判断し、大統領の権限の強化への是非を考えているのか。その答えは前回の調査結果、2016年8月分を見れば明らかになる。
2016年8月当時はまだオバマ氏が大統領として施策を執り行っており、トランプ氏は共和党の候補ではあったが、当時民主党候補者のクリントン氏と比べて劣勢が伝えられていた。その時点で支持政党別の回答は、民主党支持者と共和党支持者で直近の値とほぼ逆転する結果が出ている。つまり当時においては民主党支持者は「大統領権限強化反対」とする人は少なめ、共和党支持者は多め。
要は、回答時点で回答者の支持する政党が大統領に就任していれば「大統領の権限を強化すべし」とする人が増え、支持しない政党の大統領ならば減る。いずれのパターンでも権限反対者が過半数を占めているのは幸いだが、多分に現金な実情が見えてくる次第ではある。
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※Large Majorities See Checks and Balances, Right to Protest as Essential for Democracy
2017年2月7日から12日にかけてアメリカ合衆国内に住む18歳以上の男女に対して電話応対方式で行われたもので、有効回答数は1503人。377人は固定電話、1126人は携帯電話経由(そのうち680人は自宅に固定電話無し)。国勢調査の結果を基にウェイトバックが行われている。