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火災を起こしてしまった人にはどのような法的責任が生じるか??弁護士が網羅的に解説(2)

福永活也福永法律事務所 代表弁護士
(ペイレスイメージズ/アフロ)

前稿では、火災を起こしてしまった人(失火者)の民法上の法的責任について解説しましたが、問題は、いくら被害者が失火者に対して請求権があると言っても、失火者に資力がなければ絵に描いた餅になってしまうということです。

【前稿】

火災を起こしてしまった人にはどのような法的責任が生じるか?弁護士が解説(1)

そこで、少しでも被害者に役立つ法律について解説したいと思います。

優先的に賠償を受ける方法がないか?

前稿のとおり、失火者に対して、いくつかの方法で賠償請求をすることは可能ですが、糸魚川市の大火災のように、被害者(請求者)が無数にいた場合、失火者の資力では到底、全員に賠償することは不可能です。

そこで、失火者に対して、何かしらの請求権を持っている人は、自分のところに優先的に払って欲しいと思うはずです。

このように、自分の請求権を優先的に行使できる状態のことを、「優先弁債権」がある、というような言い方をします。

例えば、失火者が利用していた建物が、失火者の所有物件で、その建物を建てるために、銀行や知人がお金を貸していたとします。

通常、銀行等がお金を貸して、借りた人が建物を建てる場合、その建物には「抵当権」を設定します。

抵当権とは、不動産(建物または土地)に設定する担保(債務者が債務を履行しない場合に備えて、債権の弁済を確保する手段となるものをいいます)の一種ですが、要は、銀行等としては、貸したお金を返さないのであれば、抵当権の行使として、建物を売ってしまって、その売却代金を借金の返済に強制的に充てさせることができるのです。

参照「第369条第1条(抵当権の内容):抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。」

そして、抵当権とは、不動産の登記簿(法務局等で閲覧や写し取得が可能)に記載することができ、他人から見てもその不動産には抵当権が設定されているかどうかがわかるようになっています。

しかし問題は、失火のケースでは、抵当権を設定していた建物そのものが燃えてしまい、もはや建物の価値が消滅してしまっているということです。

でも、もし抵当権が設定されていた建物が火災保険に入っていて、建物が燃えたことにより保険金を受け取ることができる場合には、それは建物の価値が火災保険の保険金にすり替わったものと考え、抵当権を設定した権利者は、この保険金に対して、優先弁債権を行使することができます(ただし、火災保険の内容によっては、失火者に重過失がある場合には、保険金がもらえない場合もあります)。

(ちなみに、火災保険は、業務で用いる建物については、類焼(延焼)により損害が拡大する場合についてはカバーされていないことが多く、保険の対象範囲としては、失火者の建物自体と、せいぜい賠償保険(上限1~2億円程度)くらいかもしれません。)

ともかく、このように、担保の目的が形を変えても、引き続き担保権を行使できることを「物上代位」と言います。

ただし、問題は、物上代位が行使できるのは、失火者が保険会社に対して取得した保険金の請求権についてです。

もし失火者がすでに保険金を受け取って銀行口座に入金してしまった場合、それは保険会社に対する保険金ではなく、銀行等に対する預金になってしまうため、抵当権の効力は消えてしまうので注意が必要です。

また、抵当権以外の担保権として、「先取特権」というものもあります。

これは、法律に定める特別な権利を有する者が、債務者の全ての財産から優先的に弁済が受けられるというものです(抵当権には負ける)。

先取特権として代表的な権利は、雇用関係から生じた権利です。つまり、失火者に従業員がいて、その従業員が自分の給料を請求する場合には、その他の権利者よりも先に支払いを求めることができます。

参照「民法第306条(一般の先取特権):次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。 第2号:雇用関係」

参照「民法第308条(雇用関係の先取特権):雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。」

破産について

失火者の民事責任は以上のとおりですが、いずれにしても、失火者が全ての賠償責任を果たせない場合には、けじめをつける意味で破産をすることが考えられます。

これは、本人のためでもありますし、糸魚川市のケースのように失火者が業務を行っていた場合には、おそらく銀行からの借り入れがあるはずで、銀行の立場からすれば、もはや返済される可能性のなくなった借金であれば、いつまでも取り立てをし続けなければならないよりは、破産をしてもらった方がすっきり償却(失火者への貸付金が貸し倒れになったとして法的に消去すること)できて管理が楽になります(税務上、破産のような法的手続きを経ないで勝手に償却することはできない)。

そこで、仮に失火者が破産をした場合、特に他にギャンブルで借金を作っていたとか、数年以内に破産等をしていたというような事情がない限り、破産は認められ、その時に残っていた財産を配当として分配すれば、原則的に全ての責任追及から解放されます(例外あり)。

参照「破産法第253条(免責許可の決定の効力等):免責許可の決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる。」

もちろん、失火者が破産をした場合にも、抵当権を有する銀行等や、先取特権を有する労働者や従業員は、他の権利者に優先してお金を支払ってもらうことができますので、諦めずに請求していくといいかもしれません。

刑事罰について

ここまでは失火者について民事上の法的責任についてお話しましたが、次に刑事罰についても解説します。

失火者は、失火罪の罪に問われます。

参照「刑法第116条第1項(失火):失火により、第108条に規定する物又は他人の所有に係る第百九条に規定する物を焼損した者は、50万円以下の罰金に処する。」

第108条に規定する物とは、現に人が住居に使用している建物等のことで、第109条に規定する物とは、現に人が住居に使用してはいない建物等のことを言います。

放火や失火に関する罪については、燃やしてしまった物が、人が住んでいる建物等、人が住んでいない建物等、建物等ではない物に分けて、それぞれ危険度の高い順に処罰内容を変えています。

また、糸魚川市のケースのように、失火者が調理師という、特に職務上火気の安全に配慮すべき地位にあるにもかかわらず失火をした場合には業務上失火罪、また、失火が重過失による場合は重過失失火罪が適用され、刑が加重されます。

参照「刑法第117条の2(業務上失火等):第116条又は前条第1項の行為が業務上必要な注意を怠ったことによるとき、又は重大な過失によるときは、3年以下の禁錮又は150万円以下の罰金に処する。」

【被害者は必見!】雑損控除

最後に、雑損控除についてご説明します。

雑損控除とは、所得税法第72条に規定されている、災害又は盗難若しくは横領によって、資産について損害を受けた場合等には、一定の金額の所得控除を受けることができる税法上の恩恵制度です。

具体的には、災害等による損害が所得額の1/10を超える場合または災害による支出が5万円を超えた場合に、確定申告をすることで利用できる制度です。

これまで確定申告をしていない方であれば、確定申告というもの自体ややこしくて煩わしいかもしれませんが、税理士に費用を払って確定申告を丸任せにしてでも雑損控除を受けるた方が遥かに得をすることもあります(実際には税務署に聞きながらやれば、自分で出来るぐらいです)。

適用条件については少々複雑ではありますが、僭越ながら、特に糸魚川市で被害に遭われた方々は、是非、国税庁や近隣の税務署にお問い合わせいただけるとよろしいかと思います。

国税庁HP【災害や盗難などで資産に損害を受けたとき(雑損控除)】

失火者の法的責任については以上ですが、糸魚川市のケースでは、幸いにも死者はおらず、軽傷者のみのようですが、多くの方々が大切な建物、財産、思い出等を失われてしまったことに痛ましい限りで、一日も早い復興をお祈り申し上げます。

※本記事は分かりやすさを優先しているため、法律的な厳密さを欠いている部分があります。また、法律家により多少の意見の相違はあり得ます。

福永法律事務所 代表弁護士

著書【日本一稼ぐ弁護士の仕事術】Amazon書籍総合ランキング1位獲得。1980年生まれ。工業大学卒業後、バックパッカー等をしながら2年間をフリーターとして過ごした後、父の死をきっかけに勉強に目覚め、弁護士となる。現在自宅を持たず、ホテル暮らしで生活をしている。プライベートでは海外登山に挑戦しており、2018年5月には弁護士2人目となるエベレスト登頂も果たしている。MENSA会員

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