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韓国を操る中国――「三不一限」の要求

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
居丈高な態度が目立つようになった中国の王毅外相(写真:ロイター/アフロ)

 韓国の外相が訪中し王毅外相と会談。10月末の中韓合意文書(三不)以外に、さらに一つの「制限」が加わった。韓国は中国側に付くつもりなのか?日本を日米韓協力体制から外そうとする中国の意図が見えてくる。

◆まるで属国――中国が韓国に要求する「三不一限」とは?

 中国の王毅外相は22日、訪中した韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相と会談した。 王毅は康京和に10月31日に発表した「三不」だけでなく、「一限」も守るように強く要求した。

 「三不」とはこれまで何度か書いてきたように以下の三つだ。

  1. 米国のミサイル防衛(MD)体制に加わらない。

  2. 韓米日安保協力が三カ国軍事同盟に発展することはない。

  3. THAAD(サード)の追加配備は検討しない。

 これを中国語で書くと

  1:韓国政府加入美国反導体系

  2:韓美日安全合作会発展成為三方軍事同盟

  3:韓国政府考慮追加部署“薩徳”系統

となる(美は米国のこと。薩徳はTHAAD)。どの項目にも「」という文字があることにご注目いただきたい。3つの項目にそれぞれ「不」があるので、これを「三不」と称している。

 この「三不」に対して、王毅外相は22日に、合意文書には「現有のTHAADシステムの使用に関しては、中国の戦略的安全性の利益を損なわないよう、制限を設けなくてはならない」という「制限」も含まれているとして、韓国外相に要求した。制限は「一つ」なので、これを以て「一限」と称したわけだ。

 これによりTHAADの機能に関する技術的な保証書の提出まで要求する可能性が出てくる。

 王毅の姿勢が、どれだけ上から目線であったかは、23日付の中国共産党系新聞「環球時報」の社説「文在寅の訪中を成功させたければ、まずは“三不一限”を着実に実行せよ」を見れば明らかだ。

◆中国にひれ伏す韓国

 文在寅大統領は韓国内における人気を高めるためにも、また日米などの国際社会に対して韓国の存在感を(少しでも?)アピールするためにも、何とか自分を国賓扱いしてほしいと中国に懇願してきた。そして米韓軍事同盟に基づいて韓国にTHAADを配備したことによって中国から受けた経済報復を、何としても解除してもらいたい。そうしないと韓国経済が持たないからだ。

 そのため韓国は中国に対して「土下座外交」と言っても過言ではないような低姿勢ぶりなのだ。

 王毅は「三不一限」を着実に実行せよと韓国に要求する際に、「言必信、行必果(言葉には必ず信用が伴わなければならないし、行動には必ず結果が伴わねばならない)」という中国の故事成句を用いて康京和を諭(さと)した。

 対等の会話というより、習近平政権に入り外相を務めるようになった王毅の、あの居丈高な、「司令」に等しいような言いっぷりだ。

 これに対して康京和はただ、中国の韓国に対する経済報復が文在寅訪中前に解決されていることを願うことしか言わなかったそうだ。

 韓国としては、北朝鮮がいつまた暴走するか分からない中、平昌オリンピック開幕式に習近平国家主席に出席してほしいという切なる願いもあり、それがこの、卑屈なまでにひれ伏す姿勢を招いている。習近平がいれば、まるで守護神のように北がミサイルを発射してこないだろうと思っているかもしれないが、金正恩委員長は何度、習近平が主催した大きな国際会議の初日にミサイルを発射して習近平の顔に泥を塗ってきたことか。習近平がいるとかえって逆に北は暴発する可能性があるが、韓国はそのことを考えていないのだろうか。

◆日本に対する影響

 日本にとって看過できないのは、韓国がいったい、アメリカと中国のどちらを向くつもりなのか、どちら側に付くつもりなのか、という問題だ。

 米韓軍事同盟があるので、韓国は安全保障的にはアメリカと組まざるを得ないだろうが、文在寅は何度も「韓国の承諾なしに、アメリカが北朝鮮に対して軍事行動に出ることは許さない」と言っており、また「日米韓安全保障協力が軍事同盟に発展することは絶対にない!」と叫んできている。

 韓国はアメリカとは離れられないとしても、日本とは(軍事、安全保障上は)接近しないつもりでいることが窺われる。

 一方、中国は、北朝鮮問題を「米中2大巨頭」で解決したいと思っている。北朝鮮がやがて何らかの形で崩壊した時に備えるために、中国は、何としても(新たに誕生するかもしれない)北朝鮮という緩衝地帯を自国の配下に置きたい。そのためにはアメリカと連携を密にして、米中で北朝鮮問題を解決するというのが理想的なやり方になる。

 ところが厄介なことに、このアメリカと日本が日米安全保障で固く結ばれているので、アメリカとの連携を緊密にすれば、自ずと日本がくっついてくることになる。

 中国にとっては、軍事的あるいは安全保障上、「この日本」が邪魔なのである。

 国内的にも、「中華人民共和国は中国共産党軍が日本軍と勇猛果敢に戦って日本を敗北させたからこそ誕生した国家だ」という、全く偽りの「抗日神話」をでっちあげて中国共産党一党支配の求心力を何とか保とうと必死なので、その日本と軍事的あるいは安全保障上、連携するなどということは絶対にあってはならない。国家の根幹が揺らぐことになる。

 そこで韓国を操って日本から離れさせ、米中の距離を縮めようと中国は狙っている。

 

◆米中蜜月は北朝鮮にとっては恐怖

 北朝鮮にとって、最大の敵はアメリカだ。「米軍が南朝鮮(韓国)にいて北朝鮮を侵略しようとしているからこそ、我が国は自国を守るために核・ミサイルの開発をするのだ」というのが北朝鮮の大義名分である。北朝鮮にとって唯一の軍事同盟を結んでいる中国が、こともあろうに、そのアメリカと蜜月になったのでは、北朝鮮は身動きが取れない。加えて、中国では党大会があったため、その間に北朝鮮が暴発すれば中国が持つ3枚のカード(中朝軍事同盟の破棄、断油、中朝国境線の完全封鎖)を切るぞと威嚇してきた。だから北朝鮮は大人しくしていた。

 しかし中国には、米中蜜月を演じれば演じるほど、何としても日本を「日米韓3か国協力体制」から引き離さなければならない「抗日神話」というお国の事情がある。韓国を懐柔し、韓国を属国のごとく扱っているのは、その計算があるからだ。

 一方、米中で「新型大国関係」を築き、国際社会に中国の「偉大さ」をアピールするためには、米中は「しばらくは」蜜月でいなければならない。それを可能にするために「日米中韓露」5ヵ国の中で、最も弱い立場にある韓国を操るというのが、目下の中国の戦略だ。THAADの韓国配備に関しても、アメリカには直接不満をぶつけず、韓国を虐めることによって配備を妨げようとしている。

 文在寅は北に対して融和策を唱えて大統領に当選している。対話重視という点で中国と一致する。その点においては都合がいいだろうが、しかし韓国民にだって尊厳があるだろう。中国は他国民の尊厳にまでは踏み込めないはずで、度を越せば失敗することも考えるべきではないだろうか。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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