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今季の西武投手陣のカギになりそうなニール・ワグナーへの期待感

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
西武に新加入したニール・ワグナー投手に対する期待は高い(筆者撮影)

 4月は快進撃を続け、パ・リーグの首位を走る西武ライオンズ。チームの好調を支えているのが、5月1日現在でチーム打率(.291)、得点(161)ともにダントツでリーグ1位を誇る強力打線だ。

 しかし打撃陣の活躍にやや目立っていないものの、実は投手陣も健闘を続けている。ここまでチーム防御率も3.89でリーグ3位につけており、今シーズンは積極的に若手投入していかねばならない状況の中で順調に推移している。土肥義弘投手コーチは以下のように現状説明している。

 「実績のある投手で回すのではなく、(若手を起用して)成長しながらやっていくということは初めから見えているところ。今のうちに投げさせて自信をつかさせる機会を与えないと思っていたので理想的な展開。若手が成長しないと上位にはいけない。それありきでスタートしているので、4月としては理想的なかたちでやらせてもらった。

 主軸になる投手はそれなりに抑えていて、打たれてもいいと思って使った選手が点を取られている感じなので、そういった意味では予想通り。あまりそこ(個人成績)は気にしていない。終わった時にしっかりした数字になればいいと思っているので、少々防御率が悪かろうが経験が大事。その経験がのちに大事な試合をつくってくれると思う」

 土肥コーチの思惑では、前半戦は個人の成績は二の次で若手投手たちに経験を積ませることが一番だった。ところが強力打線が後ろ盾になり、若手投手たちを理想的な場面で起用できるだけでなく、時には勝ち星をつけさせることもできている。彼らに自信をつけさせる上でこれ以上の環境はないだろう。先発では多和田真三郎投手、リリーフでは平井克典投手、野田昇吾投手らがその典型的な例だ。

 だが若手投手たちに経験を積ませる一方で、主軸と期待している選手たちが期待通りの活躍をしなければ投手陣の安定していかない。先発には菊池雄星投手という絶対的なエースがいるものの、リリーフは昨年増田達至投手に繋ぐ牧田和久投手、ブライアン・シュリッター投手という“2枚看板”が存在したが今年は2人ともチームを去っており、彼らに代わる計算できるリリーフ投手が必要だ。土肥コーチがその役目を果たす投手として期待しているのが新加入のニール・ワグナー投手だ。

 MLBでの登板実績は52試合と決して多くはないが、リリーフ専門として主に3Aを舞台にプロ12年間投げ続けた34歳のベテラン右腕だ。2013、14年はブルージェイズに所属し、メジャーとマイナー組織で川崎宗則選手とチームメイトだった。NPBにやって来る外国人投手の中でも経験値は申し分ない経歴だ。

 オープン戦は7試合に登板し、防御率5.14でシーズン開幕を迎えたワグナー投手。当初は制球力に安定感を欠き周囲を心配させたりもしたが、ここ最近の投球は首脳陣を満足させる内容で、土肥コーチの期待も高まりつつある。

 「このチームと契約した時点で、ある程度重要な役割を任されることになるとは感じていた。ただスプリングトレーニング中はいい投球ができなかったし、開幕してからの数試合もまだ安定していなかった。でもそこから微調整して、最近は自分でもいい投球ができていると思う.チームも期待してくれて重要な場面で使ってもらえるのは嬉しいことだ。

 自分の経歴を振り返ると多少スロースターな面があるし、投球フォームにも小さな修正点があったりした。それに日本に来たばかりで、それに馴染むのに時間を必要とする時もある。決して思い悩むようなことではないけど、そうした小さなことにも適応していかないといけなかった。

 日本に来たからといって野球そのものが急激に変わってしまうわけではない。日米の違いというよりもスプリングトレーニングとレギュラーシーズンで違ってくるもので、そんな中で予期せぬことも起こったりする。やはりそこに馴染むためにも数試合は必要になってくる。今ではいいアジャストができたと感じている。今は自分の役目を果たす準備ができたと思っている」

 ワグナー投手が説明するように、新しい環境に身を置けば個人差はあるものの順応していく時間が必要だ。現在の彼は、ようやく自分本来の投球ができるようになったと感じているし、野球をプレーするという点では何の障害もなくなったようだ。いよいよ主軸セットアッパーとしての期待が高まるところだろう。

 ちなみにワグナー投手は現時点で日本の打者についてはどのような印象を持っているのだろうか。

 「自分のようなリリーフ投手は比較的力を込めて投げることになる。米国で重要な局面なら速球主体で押していくけれど、日本では2-2や3-2とかになってもあまり速球を使わないようにしている。相手に球種を読まれないように使い分けるようにしているというのが最大の違いかな。日本ではより内側のメンタルゲーム(頭脳戦)のような感じかな。

 (日本はチーム数が少なく何度も対戦するが)3Aも似たような状況で、シーズン中は同じディビジョンのチームと5、6回は対戦しなければならないし、お互いに相手選手をスカウティングしてくるからね。その点はあまり難しいとは思っていない」

 ワグナー投手と初めて会話を交わし、その口調から真っ先に感じたのがその生真面目さだった。1つ1つの質問に静かに丁寧に受け答えしてくれる姿勢はまさに誠実そのもので、容易に好感を持つことができた。またメンタルゲームを意識するなど言葉の端々から知的な部分も滲み出ており、たぶん周囲を和ませる陽気な外国人ではないだろうが、自分の仕事に真摯に向き合うプロフェッショナル・タイプなのだと感じた。

 果たしてワグナー投手はチームの期待通り、今シーズンの西武投手陣を支えることができるのか。また新たな関心事が加わった。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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