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アトピー・乾癬・赤ら顔の原因は肌の細菌?最新研究が解明する皮膚疾患のメカニズム

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Grokにて筆者作成

【皮膚マイクロバイオームと皮膚疾患の関係】

皆さんは、私たちの皮膚にたくさんの細菌が住んでいることをご存知でしょうか?これらの細菌は「皮膚マイクロバイオーム」と呼ばれ、実は私たちの健康に大きな影響を与えています。最近の研究で、この皮膚マイクロバイオームが、アトピー性皮膚炎、乾癬、赤ら顔(医学的には「酒さ」と呼びます)といった皮膚疾患と深い関係があることが分かってきました。

皮膚は私たちの体で最も大きな免疫器官です。外部からの刺激や侵入者から体を守る重要な役割を果たしています。その皮膚の健康状態は、炎症反応、免疫状態、代謝レベル、そして皮膚マイクロバイオームのバランスと密接に関連しているのです。

アトピー性皮膚炎、乾癬、赤ら顔は、多くの人々に影響を与える代表的な皮膚疾患です。これらの病気は、身体的な苦痛だけでなく、精神的な負担も大きく、生活の質を著しく低下させる可能性があります。そのため、これらの疾患のメカニズムを理解し、効果的な治療法や予防策を見つけることが重要なのです。

【最新の遺伝子解析技術が明かす皮膚疾患の謎】

近年、遺伝子解析技術の進歩により、皮膚マイクロバイオームと皮膚疾患の関係をより詳しく調べることができるようになりました。今回の研究では、「メンデルのランダム化」という方法と「ベイズ重み付け解析」という高度な統計手法を用いて、特定の皮膚細菌と3つの皮膚疾患(アトピー性皮膚炎、乾癬、赤ら顔)との因果関係を探りました。

この方法では、遺伝的変異を「道具変数」として使用し、混乱要因や逆の因果関係の影響を最小限に抑えながら、因果関係を評価することができます。また、ベイズ重み付けは、さまざまなデータソースからの情報を統合し、より堅固な分析結果を得ることができます。

研究では、ドイツの2つの大規模な集団を対象に、1,656人の皮膚サンプルを分析しました。サンプルは、乾燥した環境(前腕の表面と内側)、湿った環境(肘の内側)、脂っぽい環境(耳の後ろや額)から採取されました。

【各皮膚疾患と関連する細菌たち】

1. アトピー性皮膚炎

ASV006_Dry、ASV076_Dry、Haemophilus_Dryという細菌がアトピー性皮膚炎と正の相関を示しました。これは、これらの細菌が多いほどアトピー性皮膚炎になりやすい可能性があることを意味します。一方、Kocuria_Dryという細菌は負の相関を示し、この細菌が多いほどアトピー性皮膚炎になりにくい可能性があります。

Kocuriaという細菌は、健康な皮膚のマイクロバイオームで目立つ存在で、炎症を引き起こす細菌の成長を抑制することで皮膚の炎症を軽減する可能性があります。実験では、Kocuriaの培養上清が黄色ブドウ球菌の成長やバイオフィルム形成を大幅に抑制し、炎症を引き起こすインターロイキン-1αやIL-6の分泌を減少させることが示されました。

2. 乾癬:

ASV005_Dryという細菌は乾癬と負の相関を示しました。一方、ASV004_Dry、Rothia_Dry、Streptococcus_Moistは乾癬と正の相関を示しました。

特に、Rothiaという細菌は興味深い存在です。Rothiaは通常、口腔内や呼吸器に存在する細菌ですが、皮膚の病態にも関与している可能性があります。Rothiaは、その代謝産物や細胞壁成分を通じて宿主の免疫応答を活性化し、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)やインターロイキン-17(IL-17)などの炎症性メディエーターの放出を引き起こす可能性があります。これらは乾癬の炎症反応において重要な役割を果たしています。

3. 赤ら顔(酒さ):

ASV016_Moist、Finegoldia_Dry、Rhodobacteraceae_Moistという細菌は赤ら顔と負の相関を示しました。一方、ASV023_Dryは赤ら顔と正の相関を示しました。

Finegoldiaという細菌は、好中球を活性化することで炎症反応を引き起こす可能性があります。一方、Rhodobacteraceaeという細菌は、短鎖脂肪酸を生成することで抗炎症作用を持つ可能性があります。

これらの研究結果は、皮膚マイクロバイオームが皮膚疾患の発症や進行に重要な役割を果たしていることを示唆しています。今後、これらの知見を基に、特定の細菌を標的とした新しい治療法や予防策の開発が期待されます。例えば、アトピー性皮膚炎に対してはKocuriaを利用した治療法、乾癬に対してはRothiaを抑制する治療法、赤ら顔に対してはRhodobacteraceaeを活用した治療法などが考えられます。

この研究から、皮膚マイクロバイオームと皮膚疾患の関係について新しい洞察を得ることができます。しかし、まだ解明されていない部分も多く、今後さらなる研究が必要です。

最後に、この研究結果は欧米人を対象としたものであり、日本人の皮膚マイクロバイオームとは異なる可能性があります。日本人を対象とした同様の研究が今後行われることで、より日本人に適した皮膚疾患の予防法や治療法が見つかることが期待されます。

参考文献:

Li, X., Chen, S., Chen, S., Cheng, S., Lan, H., Wu, Y., Qiu, G., & Zhang, L. (2024). Skin microbiome and causal relationships in three dermatological diseases: Evidence from Mendelian randomization and Bayesian weighting. Skin Research and Technology, 30, e70035. https://doi.org/10.1111/srt.70035

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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