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トランプと対決するペロシ下院議長、次期大統領選にウォーレン議員が出馬へ -米国で「女性政治家の春」?

小林恭子ジャーナリスト
米下院議長のナンシー・ペロシ氏(中央)(写真:ロイター/アフロ)

 米国でいよいよ、女性政治家がトップに立つ可能性が出てきた。

 ・・・そんな思いを持ったのが、3日に招集された米国の第116連邦議会の顔ぶれだ。

 まず、下院の定数435議席の中で102人が女性である。これまでで最高の数字だ。この中で36人が初当選で、43人は有色人種の女性だった。最初のイスラム教徒の女性としては二人おり、ネイティブ・アメリカンの女性も二人。

 大きな拍手を浴びたのが、カリフォルニア州選出の下院議員で院内総務のナンシー・ペロシ氏(78歳)。民主党が多数派を奪回した下院で、この日、議長に選ばれた。ペロシ氏は米国の女性では唯一の下院議長経験者(2007年から11年)である。

 下院議長は、米国では大統領、副大統領に次ぐ要職となる。野党・民主党とトランプ大統領は米国とメキシコとの国境の壁の建設をめぐって対立し、12月22日から連邦省庁の業務が一部閉鎖されている。当面は業務の再開をめぐって、議会で闘いが続くことになる。

 議長選出後のスピーチで、ペロシ氏はこう語っている。「下院の女性議長に選出されたことを特にうれしく思っています。今年は女性が参政権を得てから100年になります」。米国で連邦レベルにおける女性参政権が憲法修正第19条として連邦議会で可決されたのは、1919年になる。

 

ペロシ氏のこれまで

 

 ペロシ氏は1940年、メリーランド州ボルティモア生まれ。父親は元下院議員・ボルティモア市の市長だった。7人の子供たちの中では最年少、女性は自分一人だった。

 大学時代に知り合った夫ポール・ペロシ氏は投資家で、夫婦の間に子供が5人。

 政界に入るのは比較的遅かった。1970年代半ば、大統領選に立候補したカリフォルニア州知事の手伝いをしながら、自分自身も民主党員として次第に政治に関与するようになった。下院に立候補したのは1987年。初当選を果たした時、47歳になっていた。

 カリフォルニア州は同性愛者の人口が一定数を占め、ペロシ氏はエイズについての調査研究費用を増やすことを政治の優先順位の1つにした。サンフランシスコにある古い軍事施設を国立公園に変えるプロジェクトも実現させた。

 2003年、米国はイラク戦争を開始した。戦争反対の急先鋒に立った政治家の一人がペロシ氏だった。2005年には、政府が運営する福祉サービスの一部民営化が計画されたが、これに反対したペロシ氏は計画を中止させるところまで尽力した。

 2006年の中間選挙で、民主党が12年ぶりに下院の議席の過半数を占めた。ブッシュ政権が押し進めたイラク戦争に一貫して反対してきたペロシ氏は、政治家として高い評価を受け、07年、満場一致で下院議長に選出された。16年まで続いたオバマ政権を支える重鎮の一人となった。

 ペロシ氏が力を入れた政策の一つが「オバマケア」と呼ばれる医療制度改革だった。2010年3月に大統領が署名して成立し、2014年から完全実施となった。

 ところが、2010年11月に行われた中間選挙で、民主党は63議席を失って大敗する。その理由の1つは、医療制度改革に対する保守層の反発だったといわれている(BBCニュース、1月3日付)。オバマケアの実現のために率先して運動してきたペロシ氏と、民主党の敗北というイメージが重なった。

 2015年時点で、「ペロシ氏はもう2度、下院議長にはなれないだろう」と報道陣が話していたという(同ニュース)。

 しかし、時代は変わった。

 12月11日、ペロシ氏はあるテレビ番組に出演した。この中で、メキシコとの国境問題や債務問題について、トランプ大統領と丁々発止の議論を戦わせた。

 下院でどんな法案を議論するかは、下院議長、副議長、下院委員会の委員長らが決める。ペロシ氏は「米国で最も政治的に高い地位に就いている女性」になった。

2020年の大統領選に出馬の声を上げた女性

 あと2年後に迫った米大統領選挙。ほんの数日前に出馬を宣言したのが、米上院議員のエリザベス・ウォーレン氏(マサチューセッツ州選出、民主党)(69歳)である。ペンシルベニア大学やハーバード・ロー・スクールなどで教え、連邦倒産法が専門の学者だ。消費者金融保護局の設立に大きな役割を果たした。

 ウォーレン氏はトランプ大統領や金融街への攻撃で知られ、民主党の支持基盤となるリベラル系市民に受けが良い。しかし、エスタブリッシュメント層からは国政レベルでの政治家としての経験が不十分という声も上がっている。

 ほかに民主党の中から出馬宣言をする可能性があるのは、元副大統領ジョー・バイデン氏や上院議員バーニー・サンダース氏など。

 前回の大統領選でクリントン候補が敗れた後、内部分裂状態の民主党を1つにまとめる、大きな指導力を持った人物はまだ見つかっていないと言われている。果たして、ウォーレン氏はそんな人物になれるだろうか。

 英国はサッチャー首相、メイ首相と女性の首相をこれまでに二人出している。

 米国でもひょっとしたら、女性大統領が生まれるかもしれない。

 ペロシ氏自身が大統領選に出馬する可能性は低いかもしれないが、「下院議長=女性」が普通の光景になれば、下院議員になったばかりの女性たちが将来はトップの座を目指す夢を持つようになるのではないか。政治家をキャリアの選択肢として考える女性も増えそうだ。

 「#MeToo」が大きな運動として発展した2018年を思うと、明るいニュースではないだろうか。

 ご参考:

  “ねじれ”米議会スタート、トランプ氏を徹底追及へ

 

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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