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迫りくる貧困・介護問題とひきこもり女子 ひきこもりフェス開催へ! 生きづらさを語り合う

飯島裕子ノンフィクションライター
「ひきこもり女子会」の様子

女子会にUNOはいらない

ひきこもり当事者や生きづらさを感じている女性が共に集い、思いを語り合う「ひきこもり女子会」(ひきこもりUX会議主催)に注目が集まっている。

最初の「女子会」が開かれた2016年夏からこれまで一年半の間にのべ1500人の当事者が参加する“盛況ぶり”だ。メディアの取材が引きも切らない。

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2月6日、東京で開かれた「女子会」には、平日の昼間にも関わらず、リピーターを含め、全国各地から100人ほどの当事者が参加し、会場に入り切らないほどだった。2月25日には東京・表参道の東京ウィメンズプラザを全館借り切って、この一年の活動の集大成ともいえる“フェス”(ひきこもりUXフェスVOL.2)が開催される予定だ。

通常の「ひきこもり女子会」は、二部構成で行われる。前半ではひきこもり経験者で「ひきこもり女子会」を主催するひきこもりUX会議のメンバーが自身の体験をカミングアウトする。後半ではグループに分かれて交流の時間をもつ。話したくなければ話さなくていいし、無理にグループに参加しなくても構わない――心地良く過ごすことが最も大切であるという。

「女性の場合、初対面の相手にも自分自身の経験や悩みをオープンに語る人が多いように感じます。『なぜひきこもってしまったのか?』『家族との関係はうまくいっているのか?』など、一人が語り始めると次々、せきを切ったように語り始めるんです。以前、男性中心のひきこもり当事者の会に行ったことがあるのですが、プライベートに踏み込むような話ってほとんど出て来ないし、そういうことを相手に聞くこと自体、タブーになっているところがある。UNOのようなカードゲームをやりながら、ゆるゆるコミュニケーションを取っていくのが男性当事者流なら、女子の場合、『UNOはいらない、いきなり本筋に入る!』って感じでしょうか(笑)」と話すのは、自身も不登校とひきこもり経験者で、ひきこもりUX会議代表理事の林恭子さん。

もちろん個人差はあるし、性差だけで語れるものではないけれど、女性の場合、“話すこと、語ること”によって得られる効果は大きいように思う。それが「ひきこもり女子会」の強みでもあるのだろう。

「親子関係」「自立について」「恋愛/結婚」など語りたいテーマごとに分かれて話す
「親子関係」「自立について」「恋愛/結婚」など語りたいテーマごとに分かれて話す

親の死後を考えると眠れない

“ひきこもり”なのになぜ女子会に行ったりできるのか、疑問に感じる人もいるかもしれない。ひきこもりとは一般的に「半年以上、仕事、学校に行かず、家族以外の人との交流をしていない状態」とされるが、ひきこもり女子会には加えて生きづらさを感じる女性当事者も参加している。

「ひきこもり当事者にとっては、女子会に来るだけでも大変なことだったりします。会場の最寄り駅までは来たけれど会場に行かれないことを繰り返し、3度目に初めてたどり着けましたという人や長年ひきこもっていたけれど、『これが人とつながる最後のチャンス』と決死の覚悟で来たという人もいます」

ひきこもりUX会議では、地方に住んでいて、参加したくてもできない当事者のため、昨年9月~12月に札幌、豊中、高松、博多など全国10都市をまわって女子会を行う全国キャラバンを実施した。

「30代、40代の人が多く、貧困や介護の問題など、想像以上に深刻な問題を抱えている人が多く、驚いています」

ひきこもりUX女子会代表理事の林恭子さん
ひきこもりUX女子会代表理事の林恭子さん

貧困や介護は、同居する家族の高齢化と密接に関わる問題でもある。女性たちの多くは仕事をしていない、していてもアルバイトなどの非正規雇用のため、自由になるお金はほとんど持っていない。親が高齢化し、年金暮らしになることで、家族全体が苦しい状況に直面することもある。

女性が仕事をせずに家にいれば、「親の面倒くらいみて当然だろう」と兄弟から介護役割を押し付けられてしまう場合が少なくない。

「地域から孤立しがちなひきこもり女性は、介護でも孤立してしまうことがよくあります。介護者家族の会に参加しても大半が主婦なので身の置き場がなかったという声も聞きました。また悩みとして多いのは、『親が死んだらどうやって生きていけばいいのか、考えると不安で眠れない』というものでした」

親が亡くなった後は年金もなくなるため、生活が困窮することが考えられる。その前に仕事を見つけなければ……と思っても介護で身動きが取れず、自分のことを後回しにするしかない。とりわけ介護は、“ひきこもり女子”に重くのしかかる問題であり、今後さらに深刻化することが予想される。

見えない女性のひきこもり、実態把握へ

「ひきこもり女子会」の“盛況ぶり”の背景には、これまで見えづらくされてきたひきこもり女性たちの存在があるだろう。

内閣府によると2016年現在、ひきこもりは全国で54万人(15~39歳)で、女性よりも男性のほうが2倍近く多いと推計されている。しかしこの数値にはいわゆる家事手伝いをしている人は含まれない。25歳~35歳の未婚女性の中で非労働力人口の内訳は、52%が「家事手伝い」(通学が7%、その他が41%)となっている。この中には相当数の見えない“ひきこもり女子”が含まれているはずである。

若年男性がひきこもっていれば、家族やご近所の“大問題”になりかねないが、女性は「家事手伝い」あるいはもはや死語となっているような「花嫁修行」という言葉で片付けられ、表面化されないこともある。そうした背景の中で、家族もそして本人も深刻に考えず、時を過ごしてしまう場合も少なくない。

ひきこもりUX会議では、非常に見えづらい“ひきこもり女子”の存在を把握しようと、当事者に対する実態調査を実施。詳細は3月末に冊子で発表されるのだが、現時点で明らかになっている数値をほんの少しだけ見ていきたい。

(回答者は364人)

□平均年齢は37.6歳

□ひきこもりの平均年数は7.7年

□就労経験がある人が88%(266人)、就労経験がまったくない人が12%(38人)

□性的指向、性自認によって生きづらさを抱えている人が1割

この結果からひきこもりが長期化、高齢化していること、さらに就労経験がある人が多いことも明らかになっている。

私もこれまでひきこもり状態にある女性に取材をしてきたが、不登校等を理由に学校を中退し、その後長期にわたり自宅にひきこもっているという人に加え、学卒後、就職したものの、パワハラや過労などで働けなくなり、自宅にひきこもりがちな生活を送っている人も非常に多かった。いわゆる“ブラック企業”で身も心もボロボロになるまですり減らした末、働けなくなってしまう――ひきこもりは、私たち誰にも起こり得る問題であることがわかるだろう。

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実態調査では、既婚だが社会と接触がない“ひきこもり主婦”の存在も明らかになった。モラハラ的な夫のせいでひきこもらざるを得ないケースもあるという。

ひきこもりには、貧困、介護、不登校、ブラック企業、家族関係、DV、LGBT、社会的孤立など、さまざまな背景があり、当事者のみでは解決できないところまで来ている。だからこそひきこもり当事者という枠組みを超え、さまざまな人たちが知恵を出し合い、繋がっていく必要があるのだろう。

※冒頭に記した2月25日開催予定のフェス「ひきこもりUXフェスvol.2」はひきこもり当事者のみならず、ひきこもりや生きづらさに関わるすべての人を対象に開かれる。会場は東京・表参道の東京ウィメンズプラザ。精神科医の斎藤環さんや東大教授の安冨歩さんの講演などのほか「ひきこもり女子会」「ひきこもり男子会」「ひきこもり×セクマイの会」「支援者の会」など、当事者同士が交流し、繋がっていくための場も設けられる。詳しくは下記へ。

ひきこもりUX会議

ノンフィクションライター

東京都生まれ。大学卒業後、専門紙記者として5年間勤務。雑誌編集を経てフリーランスに。人物インタビュー、ルポルタージュを中心に『ビッグイシュー』等で取材、執筆を行っているほか、大学講師を務めている。著書に『ルポ貧困女子』(岩波新書)、『ルポ若者ホームレス』(ちくま新書)、インタビュー集に『99人の小さな転機のつくり方』(大和書房)がある。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。

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