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医療機関のインフル・新型コロナ「二重クラスター」が増加 原因は?

倉原優呼吸器内科医
photoACより使用

インフルエンザの流行が頭打ちになってきた印象がありますが、リバウンドしている地域もあり注意が必要です。問題は、ここにきて増加している新型コロナです。インフルエンザの感染者数に迫る勢いの地域もあり、大きな波が到来しつつあります。医療機関では、インフルエンザと新型コロナの「二重クラスター」をできるだけ阻止したいところです。

「JN.1」が流行

すでに感染者数を先行発表している地域のデータを見る限り、新型コロナの感染者数は次第に増加しています。

オミクロン株の末裔(まつえい)にあたる変異ウイルス「JN.1」が主流となりつつあります。東京都のモニタリングでは、1月18日時点で「JN.1」が45.1%にのぼっています(図1)。

図1.東京都における変異ウイルスの内訳(参考資料1より引用)
図1.東京都における変異ウイルスの内訳(参考資料1より引用)

若い世代の新型コロナ感染者数が多く、東京都では10歳未満が顕著に増加しています(図2)。

図2.東京都における年代別の定点医療機関あたり感染者数(参考資料1より引用)
図2.東京都における年代別の定点医療機関あたり感染者数(参考資料1より引用)

現在、医療機関が苦しめられているのはインフルエンザや新型コロナの院内クラスターです。周辺でも、クラスターによって診療規模を縮小せざるを得ない医療機関が散見されるようになりました。介護施設などでもクラスターが頻発しています。

新型コロナは「5類感染症」へ移行しましたが、この法的位置づけは感染対策とは本来関係ありません。たとえば結核は「2類感染症」ですが、空気感染を予防するマスク以外の個人防護具は不要です。

そのため、たとえインフルエンザであっても、病棟内で多発すればいったん病棟を閉鎖することになります。できるだけ他の入院患者さんにうつさないため、診療規模の縮小は必要な対策です。

現在、救急医療も逼迫傾向にあり、東京消防庁からは毎日のようにSNSで「救急車ひっ迫アラート」が流れてきます。実際に搬送困難事例も、過去の波と同水準まで増えています(図3)。

図3.東京ルール(救急搬送困難)の適用件数(参考資料1より引用)
図3.東京ルール(救急搬送困難)の適用件数(参考資料1より引用)

なぜクラスターが増えるのか?

理由①:ウイルスが院内に入り込みやすい

まず、医療機関や施設への持ち込み例が増えています。予定入院の翌日に同居家族がインフルエンザや新型コロナと診断され、患者さん本人も後日発熱して検査陽性・・・というパターンは当院でも何度か経験しました。

コロナ禍は、スクリーニング検査をおこない防波堤を作っていた医療機関も多かったのですが、検査費用の助成が撤廃され、現在はほとんど行われていません。

また、お見舞いもほとんどの医療機関で厳しい制限がなくなっています。

そのため、医療機関の感染対策の緩和とともに、院内にウイルスが侵入しやすい条件が整ってきたと言えるでしょう。

イラストはソコストより使用
イラストはソコストより使用

理由②:医療従事者の感染が多い

医療従事者の感染が増えています。「5類感染症」に移行してから、デルタ株など重症化しやすいウイルスが流行していた時期と比べると、全国的に感染対策が甘くなっている可能性は否定できません。

「コロナ病棟」という隔離空間でケアしていた医療機関も、現在は一般病棟の個室などで診ています。感染者と他の患者さんとの距離が近いことから、病棟内でクラスターが起きやすい素地があります。

また、夜勤帯など人手が少ない状況でナースコールが同時に鳴ると、急いで新型コロナと非コロナのエリアを行き来しなければいけません。どうしても「感染対策の穴」が生じやすくなります。

イラストはソコストより使用
イラストはソコストより使用

理由③:新型コロナワクチン接種をやめてしまった人が多い

新型コロナワクチン接種をアップデートしていない人が増えたことも影響しているかもしれません。そもそも現行のワクチンを接種できる場所が少ないことが問題だと思いますが、「もうワクチンは不要」という風潮も後押しして、多くの人がどこかでワクチン接種を終了しているようです。

「JN.1」は免疫逃避能が高いことから、以前までは強力な盾(たて)となっていた「2回接種」がほとんど意味をなさない状態になっています。新型コロナワクチンは1年以上未接種だと、感染予防効果も重症化予防効果も減弱してしまいます。医療従事者でさえも、回数を経るごとに接種希望者は減っており、病院全体が新型コロナに弱い状態になっているかもしれません。

昨年秋から接種されているXBB.1.5対応ワクチンはJN.1にも有効ですが、これが国民にしっかり伝わっていないことが気がかりです。

元気な人はともかく、医療従事者や基礎疾患があったり免疫抑制がかかっていたりする患者さんにとっては、インフルエンザワクチンと同等かそれ以上の優先度ではないかと個人的に考えています。

イラストはソコストより使用
イラストはソコストより使用

理由④:ウイルスが複数流行している

この病室からは新型コロナが陽性、別の病室からインフルエンザが陽性、という「二重クラスター」に悩まされている医療機関が増えています。

現状、それぞれの感染者をできるだけ集めて管理し、個別に感染対策を講じるわけですが、同じ病棟に①非感染者、②インフルエンザ患者、③新型コロナ患者の3種類の集団が存在すると、上述したように夜勤帯など手薄な状況では「感染対策の穴」が生じるリスクがさらに高くなります。

まとめ

ほとんどの人は、インフルエンザも新型コロナもそう変わらない症状で済むので問題ありません。しかし、感染者が増えすぎると、高齢者や基礎疾患がある人の健康被害がボトムアップされるため、今の医療システムのままでは医療逼迫は避けられません。

そのため、地域で感染者数を抑え込む対策が肝要になるわけですが、残念ながら「5類感染症」に移行してから、行政の注意喚起は鳴りを潜めています。

対策としては、こまめに手指消毒や手洗いをする、医療機関や密な空間では流行に応じてマスクを着用する、前回の新型コロナワクチン接種から期間が空いている人は接種を考慮する、などが挙げられます。

(参考)

(1) 東京都保健医療局. 最新のモニタリング項目の分析について(URL:https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kansen/corona_portal/info/monitoring.html

呼吸器内科医

国立病院機構近畿中央呼吸器センターの呼吸器内科医。「お医者さん」になることが小さい頃からの夢でした。難しい言葉を使わず、できるだけ分かりやすく説明することをモットーとしています。2006年滋賀医科大学医学部医学科卒業。日本呼吸器学会呼吸器専門医・指導医・代議員、日本感染症学会感染症専門医・指導医・評議員、日本内科学会総合内科専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会結核・抗酸菌症認定医・指導医・代議員、インフェクションコントロールドクター。※発信内容は個人のものであり、所属施設とは無関係です。

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