金正恩式ハコモノ行政の裏に「血の粛清」
北朝鮮の金正恩第1書記は、派手な建設事業が大好きなようだ。今月10日の朝鮮労働党70周年記念に合わせても、各地で様々な建設事業が行われたが、多くの北朝鮮の民衆たちが「忠誠の動員」という名目で駆り出され無償の奉仕労働を強いられた。
民衆達の苦労を他所に、金正恩氏は完成した建造物を訪れて、あたかも偉業のように宣伝しているが、その建造物の多くが経済難の北朝鮮には分不相応な無用の長物と言っても過言ではない。
さらにこの「金正恩式ハコモノ行政」をめぐっては「血の粛清」も行われている。
つい先日、金正恩氏は完工した「科学技術殿堂」を訪れて満面の笑みを浮かべながら現地指導したが、この建設過程で、異見を出した国家計画委員会副委員長が処刑されていたことが、韓国の情報機関である国家情報院(国情院)によって明らかにされている。この時の報告によると、15人の高官が金正恩第1書記に異議を唱えたとして「見せしめ」処刑されていた。
昨年には、これも金正恩氏の鳴り物入りで行われていた平壌国際空港新ターミナルの設計をめぐって、金正恩氏から厳しく叱責された馬園春(マ・ウォンチュン)国防委員会設計局長が粛清され姿を消した。馬氏には、処刑説も流れたが、今年10月8日に国営メディアに登場し復帰が確認された。
どうやら山奥へ追放されていたようだが、馬氏に処刑説が流れたのには理由がある。
彼が姿を消す直前の昨年10月、党幹部ら10人が処刑されていたからだ。それも口径14.5ミリの重機関銃4丁をひとつにまとめた対空砲、1発でも命中すれば人体などバラバラになってしまうシロモノで処刑された。
金正恩式ハコモノ行政の裏ではこうした幹部、高官達に対する粛清・処刑が行われていたわけだが、それ以上に派手なイベントの裏では常に北朝鮮民衆らの多大な犠牲が払われている。記憶に新しいところでは2012年の春、万単位の餓死者を出した「黄海道飢饉」を思い出される。
金正日総書記が死亡した翌年、金正恩氏の最高指導者「即位」を祝う際、北朝鮮当局は数カ月にわたり、首都・平壌の市民に特別配給の大盤振る舞いを行った。大規模な祝賀イベントも開き、ハコモノ行政も強化。その結果、国内の穀倉地帯である黄海北道・南道(以下、黄海道)から、食糧を最後の一粒まで奪い取り、黄海道の人々は、突然の飢饉の前に次々と倒れた。その実態が伝わる中で、「人肉事件」の証言さえ、多数含まれていた。
金正恩氏は、朝鮮労働党70周年記念行事の演説で、97回も「人民」という言葉を使った。「国の大本である人民より貴重な存在はなく、人民の利益より神聖なものはありません」と語ったが、その言葉があまりにも虚しく響き渡る。