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ロックダウンが続く中、英国で話題のドラマとは? ーゾクッ、うっとり、そしてズーム・・・

小林恭子ジャーナリスト
人気爆発のドラマ『ブリジャートン家』(ネットフリックスのウェブサイトより)

 (月刊誌「GALAC」最新号に掲載された、筆者コラムを編集部の許可を得て転載しています。)

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 新型コロナウイルスの猛威が世界を襲っている。昨年末から変異種が急速に拡大した英国は、今年に入って新たなロックダウン(都市封鎖)状態にある。「家に留まること」は義務となった。

 こうした中、娯楽の王様化したのがテレビだ。しかし、大人数で行う番組制作は、コロナ対策が整うまで一時停止せざるを得なくなった。そこでスタジオでのトークショーはテレビ会議ソフト「ズーム」を使って司会者やゲストが自宅から出演。当初はズーム使いに慣れていない人が圧倒的で、タレントが普段着のような格好で画面に出たり、台所や寝室の一部が否応にも見えたりし、いかにもその場しのぎの感があった。

 多くの視聴者が向かったのは、ストリーミング・サービスだ。過去の質の高い番組を「発見」したり、米ネットフリックスやアマゾンビデオによる配信を楽しんだり。

 ロックダウン下で話題を呼んだ3つのジャンルを紹介してみたい。

スカンジナビアの犯罪ドラマ、健在

 『ザ・キリング』、『ザ・ブリッジ』など、スカンジナビア諸国を舞台にした犯罪ドラマは依然として人気が高い。この系列で年末に放送されたのが『バルハラ・マーダーズ』(BBC)だ。

(『バルハラ・マーダーズ』の紹介画面。BBCアイプレイヤーのサイトより)

 アイスランド・レイキャビックの女性刑事が、ノルウェーから派遣された男性刑事とともに連続殺人事件の犯人を追う。雪でいっぱいのアイスランドの風景は寒そうだが雄大だ。

 殺人は孤児院での性的暴力事件と関連していること分かる。内容はかなり暗いが、最後は人と人のつながりの重要性が迫ってくる、感動を呼ぶ作品である。

 高い評価を受けたのがデンマーク発ドラマ『DNA』(BBC)だ。赤ん坊誘拐事件を捜査していたベテラン刑事が自分の子供を失踪させてしまう。一方、ポーランドでは若い女性がボーイフレンドの子供を産むか産まないかで迷っている。

(『DNA』の紹介画面。BBCアイプレイヤーのサイトより)
(『DNA』の紹介画面。BBCアイプレイヤーのサイトより)

 果たして刑事はDNAの助けを借りて子供と再会できるのか。また、ポーランドの女性はどうなる?デンマークとポーランドの2つの話がどこでどうつながるのか。見事な物語展開に唸ってしまった。機会があれば、ぜひご視聴を。

コスチューム・ドラマが大ヒット

 米ネットフリックスで昨年12月から配信されたコスチューム・ドラマが『ブリジャートン家』(英語では「ブリジトン」という発音になる)。未亡人のブリジャートン子爵夫人が長女ダフネに最適の夫を見つけようと奮闘する物語で、配信直後から世界中で大ヒットとなった。

 19世紀初頭、英国の上流社会を舞台にしたドラマだが、米ロマンス作家ジュリア・クインが書いたシリーズものが原作で、脚本家(クリス・バン・デューセン)もプロデューサー(ションダ・ライムズ)も米国人。

 英国人はコスチュームドラマが大好きだが、うるさ型も多い。「異なる時代の衣装が混在している」、「有色人種の比率が高すぎる」という声が出た。

 筆者はきらびやかな衣装にうっとりし、その「正統性」については判別できなかったものの、当時、ロンドンの上流社会の社交の場に使用人ではない有色人種がどれほどいたのだろうかという疑問が湧いたのは事実だ。

 綿菓子のように甘いロマンチック・コメディだが、ロックダウン中「甘いものに浸りきりたい」という願望を満たしてくれる作品と言えよう。

ズーム・ドラマも

 最後に、「ズーム・ドラマ」を挙げておこう。大人数で行われる番組撮影が困難となり、制作側が苦肉の策として編み出したのが各俳優に自宅で演技してもらい、これを家族に撮影してもらう手法だった。

 これを利用して、「ロックダウン下の俳優たちがズームを通して会話する」という設定のドラマやバラエティ番組が制作された。

ズームを使った15分ドラマ『ステージド』で主演するテナント(左)とシーン。(英雑誌「ラジオ・タイムズ」1月9-15日号。筆者撮影)
ズームを使った15分ドラマ『ステージド』で主演するテナント(左)とシーン。(英雑誌「ラジオ・タイムズ」1月9-15日号。筆者撮影)

 その一例が1回15分の連続ドラマ『ステージド』(演出された、という意味がある)。

 主な出演者は映画『クイーン』でトニー・ブレア首相を演じたマイケル・シーンとテレビドラマシリーズ『ドクターフー』でドクター役を演じたデービッド・テナント。2人は自分たち自身として登場し、シーンのガールフレンドとテナントの妻(どちらも俳優)も加わった。

 第1シリーズの放送(昨年6月)ではドラマを作るために、2人がズームの画面越しに話をするという設定。第2シリーズ(今年1月)では『ステージド』の米国版を作る提案のもとで、豪華ゲストが出演した。一見、その場で即興的に話しているように見えるが、実は脚本家・監督のサイモン・エバンズが書いた台本通りにしゃべっている。

 見どころは英国の人気俳優の「素」を視聴者が目にできる点だ。テナントは自宅の数か所からズームに参加し、シーンはレンガ造りの居間から話す。それぞれのカップルの会話もリアルだった。

 最初のシーズンでは、2人のファンではないと15分と言えど視聴し続けるのはややきついと思える時もあった。しかし、最新のシーズンは複数のゲストを迎え、ドキュメント風ドラマとして内容が充実した。俳優業について回るエゴを鋭く描き、かつ笑わせてくれる、唯一無二のシリーズとなった。ロックダウンの設定を利用した成功例である。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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