原発はハイテクで将来なくせる
National Instrumentsが開催するNIWeek 2016にやってきて、米国のオークリッジ国立研究所が、再生可能エネルギーだけで電力を賄えるようにする研究を行っていることを知った。発表の壇上に上がった研究者の一人は、原発はなくせる、と確信を持って語った。
オークリッジ国立研のデモには、きれいな正弦波の交流電力波形を発生(発電)させる風力、ソーラーのシステムと、蓄電するためのバッテリ管理システム、系統連携といった送電グリッドシステムからなる5つのシステムを見せた。このシステムの内、発生・供給する交流電力波形をトップデータでは±10ns以内で揃えられるというのである。
これだけの精度で発電した交流電力の位相を合わせられれば、再生可能エネルギーの変動があっても交流電力はしっかりと固定できる。逆潮流が起きる心配は少なくなる。これはタイミング技術を導入したことで達成できた。つまりエレクトロニクスの最先端テクノロジーを知っていることがカギを握ったといえる。
テクノロジーを知らない者同士が原発再稼働反対、賛成を呼び掛けても説得力がなく、対立するだけである。原子力発電は将来、減らすことのできることが見えてきた。今のローテクの原発では、再稼働せざるを得ないが、ハイテクを使えば原発は要らないことが可能になりそうだ。長い目で見ると、再生可能エネルギーだけでエネルギー事情を賄える。どうやらテクノロジーが電力事情に追いついたようだ。
もちろん現在の原発はまだローテクであるため、すぐに原発を廃止することはできないが、少なくとも10年後、20年後には廃止するという目標は設定できそうだ。再生可能エネルギーだけで電力事情を賄おうとすると、風力は風任せ、ソーラーは夜間には発電できない、といった事情のために変動が大きく、大規模な再生可能エネルギーの発電は難しい。九州電力は1~2年前、九州地域内の再生可能エネルギーが増えていった時にもうこれ以上は受け入れられない、という宣言を発したが、それは変動に対応できるテクノロジーが今スグ使えなかったからである。
今の原発は、変動の少ない電力を供給できる。しかし、数十年~百数十年に渡る放射能の危険性は間違いなく存在する。かつて政府が原発は安全と叫んだ時に、だったら東京に作ればいい、という声が上がっても実現はできなかった。危険だからである。福島の第1・第2原発の事故で明らかになったように、原子炉は暴走してしまえば人間がコントロールできなくなる。危険であることには変わりない。
だからこそ、いつかは原子力を廃止して再生可能エネルギーだけで電力を得るようにすべきではある。そのためのテクノロジーは出てきているからだ。この同期をきっちり合わせるTSN(Time synchronized network)技術は電力のマイクログリッドだけではなく、第5世代の携帯通信(5G)での遅延を抑えるための技術にも使える。これからの技術であるため、原発廃止の道筋、ロードマップを立てて廃止に向けた技術も開発していかなければならない。これなしでは日本は世界から遅れる恐れもある。
逆に、再生可能エネルギーだけで電力を賄えるテクノロジーを日本が世界に先駆けて確立していくことこそ、ハイテク立国日本復活への道ではないだろうか。
(2016/08/05)