ジャパンCで鼎峙する3強の指揮官が、自らの馬、そしてライバルについても語った
3強それぞれの前走後から現状まで
現状の日本競馬のチャンピオンロードに於ける3強が鼎峙するジャパンC。最も紛れが少ないとも言われる東京競馬場、芝2400メートルのG1に出走する3頭それぞれの指揮官に話を伺った。
「秋華賞の後、京都の宇治田原優駿ステーブルに放牧に出しました」
JRA史上初めて無敗の3冠牝馬となったデアリングタクト(牝3歳)を管理する杉山晴紀調教師はこう口を開くと更に続けた。
「ただ、すぐに帰厩して普通キャンターで調整。ジャパンCから逆算して2週前には時計を出しています。追った後もテンションが上がる事なく落ち着いていて、馬体も前走から減らず480キロ台。ここまでは順調そのものです」
「菊花賞後は大山ヒルズに放牧しました。5日に牧場まで馬を見に行き、ジャパンCへの出走を決めました」
そう語るのはコントレイル(牡3歳)の矢作芳人調教師だ。無敗の3冠馬のトレーナーは続けて言う。
「12日に帰厩して15日には坂路で54秒9。脚元を含め筋肉面での疲れは全くありません」
「天皇賞が終わってノーザンファーム天栄に放牧しました。中間、そこまで見に行ったところ疲れもすっかりとれている様子でした」
JRA史上初となる8度目のG1を制したアーモンドアイ(牝5歳)を育てた国枝栄調教師。そう言うと、続ける。
「その後も調教画像、体重と追い切り時計などデータを送ってもらい、順調だと感じました。その上で香港も考えたけど、情勢を考慮してジャパンC出走を決め、18日に帰厩させました」
3強各馬の不安要素とは……
三者三様ながらいずれも順調さをアピールする言葉が並ぶ。そこで重箱の隅を楊枝でほじくるように“不安要素”を伺うと次のような答えが返ってきた。
まずは杉山。
「3強の一角に数えていただけるのはありがたいです。でもうちのは3歳牝馬限定戦のみの実績で、今回はレースの格そのものが1つも2つも上。他の2強以外の相手も皆、年長者ですからね。個人的にはあくまでチャレンジャーだと考えています」
続いて矢作。
「中間の計量で468キロ(前走の菊花賞では458キロ)。あくまで個人的にですが、東京までの輸送を考えるとシルエット的にもう少しボリュームがあっても良いかな……と思っています。また、ベストの適性は左回りで1ターンのレースかとも考えています。もっともダービーも強い競馬をしているので2ターンがダメという意味ではありませんけど……」
最後に国枝。
「練習では問題なく出てくれるので、天皇賞のようにスタートを決められれば良いけど、安田記念みたいに出遅れると苦しいでしょうね。強い馬が相手なので好位で上手に立ち回ってほしい。変な位置で競馬はしたくありません。また、一昨年に2分20秒6のレコードで勝った時みたいな競馬が出来れば誰にも負けないと思うけど、今年は馬場の傾向が違います。そのあたりで過去に勝っている事もアドバンテージにはならなさそうです」
3人の指揮官が相手について語る
ではそれぞれの調教師は他の2強について、どのようなイメージを持っているのだろう。まずはコントレイルについて杉山の弁から。
「無敗でクラシック3冠を制覇したわけですからね。すでに歴史に名を残す強い馬だと思います。東スポ杯やダービーも素晴らしかったけど、個人的に強さを感じたのは菊花賞です。差は僅かだったけど、いつまで経っても抜かれる気配はなかった。ああいう形で接戦をモノにするのは本当に強い馬の証拠だと思います」
国枝は次のように評する。
「うちのサトノフラッグと一緒に使っていて、見た目では負けていないと思ったけど、競馬では全く歯が立ちませんでした。サトノフラッグだって決して弱い馬じゃないけど、コントレイルは軽さといいスピードといい、ディープインパクトに最も似た馬なんじゃないかなぁ。菊花賞で掛かったところまで似ていましたからね」
次にデアリングタクトについて矢作の持つイメージから。
「“勝負強い”の一語に尽きます。牝馬3冠、全ての勝ちっぷりがそう感じさせるモノでした」
国枝は言う。
「マジックキャッスルをモノサシに考えてレベルの高さを感じました。アーモンドアイが3歳で勝ち、カレンブーケドールも3歳の昨年2着ですからね。3歳牝馬のトップクラスが53キロで出られるのは大きいと思います」
最後にアーモンドアイについて、杉山から。
「言わずとしれた現在の日本のチャンピオンホースでしょう。正直、能力の絶対値という意味ではデアリングタクトをしてもまだ大きな差をつけられていると思います。そんな名馬のラストランに挑めるのは調教師冥利に尽きると考えています」
また、矢作は次のように語る。
「常に一所懸命に走って本当に偉い馬だと思います。たいがいの牝馬は強くても意味不明な凡走をする事があるけど、彼女にはそれがない。負けたレースはどれも敗因がはっきりしていて、ムラがない。現状、日本一の馬だと思います」
三者三様、それぞれのプライド
皆、ライバルに敬意を表し、一目置く言葉が並んだ。しかし、当然ながらそれはイコール白旗を挙げたという意味ではない。別々に出走すれば誰もが1番人気になるであろう実績馬。送り込む側にはそれなりに矜持がある。
デアリングタクトの若き指揮官・杉山は意気込む。
「斤量とレース間隔という意味ではうちにアドバンテージがあると思っています。相手は強いけど、まずはデアリングタクトが全能力を発揮出来るように仕上げて松山(弘平)騎手にバトンを渡して臨むだけです!!」
コントレイルを送り込む世界の伯楽・矢作も負けていない。
「馬場状態とか枠順の並びでどういう競馬をするかジョッキーと話すつもりですが、指示を出す事はしません。福永君を信頼しているし、無敗で3冠を制した馬の力を信じています。菊花賞と比べるとだいぶ楽な立場で挑めるのもよいので、なんとか“牡”馬の意地をお見せ出来るようにしたいです!!」
最後にアーモンドアイを育てた大ベテラン・国枝の言葉を記そう。
「エリザベス女王杯でラッキーライラックを大外枠から全く危な気ない騎乗で勝たせた手綱捌きを見ると、やはり最後はクリストフ(ルメール)にお任せするだけです。つまり、厩舎としてはアーモンドアイを良い状態でクリストフに渡すだけ。満足出来る状態でバトンをつなぎ、ラストランを飾らせてあげたいですね!!」
決戦までは1週間を切った。誰が勝っても不思議ではないと思える彼等が無事にゲートインを終え、歴史に残る名勝負を繰り広げてくれる事を願いたい。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)