今「分譲超え賃貸」マンションが首都圏に増加中。その3つの理由と気になる家賃は?
建物1階には居住者が24時間使用できるコワーキングスペースがあり、14席のオープンスペースのほか個別ブースも6室設置。ブース内にはハーマンミラーのセイルチェアが設けられ、内1室には湾曲ディスプレイにゲーミングチェアまで備えられている。
居住者はコワーキングスペース、個別ブースが利用自由となる(家賃とは別に月額1100~2200円の使用料が設定されている)。
建物屋上にはイス、テーブルと共にコンセント、Wi-Fi設備があり、気分転換にオープンエアの風を感じながら仕事をすることもできる。
共用のトイレに入ったら、最新式のハンドドライヤーも備えられ、デザインのよさと強烈な風量に圧倒された。
このマンションは、「The Parkhabio SOHO(パークハビオ・ソーホー) 祐天寺」。The Parkhabio SOHOは三菱地所レジデンスが展開する職住一体型賃貸マンションシリーズで、その第3弾として目黒区内に完成したばかりの物件だ。
三菱地所レジデンスといえば、「ザ・パークハウス」シリーズで代表される分譲マンションを全国で展開するデベロッパー。高級マンションを多く開発し、日本の代表的不動産会社のひとつだ。
その高級分譲マンションのつくり手が近年力を入れ始めたのが、賃貸マンション「The Parkhabio」の展開。「The Parkhabio SOHO」は、自宅兼仕事場となるマンションを提供する意欲的な企画となる。
今、首都圏では不動産会社が分譲マンションの一歩先を行く賃貸マンション=「分譲超え賃貸」をつくるケースが増えている。
その理由と、気になる家賃相場をレポートしたい。
コロナ禍で、増えだした「分譲超え賃貸」
最初に「これは、分譲を超える賃貸だ」と感心した物件に出会ったのは、2021年の2月。NTT都市開発がつくった「ウエリスアーバン中野坂上」を取材したときだった。
同マンションでは、エントランスのオートロックに顔認証システムを導入。各住戸の玄関錠はスマートホンのBluetooth接続で施錠・解錠され、サービス業者や来訪者にオートロック解錠と玄関の錠を開ける暗号キーをスマホで送ることも可能。いずれも、その後、新築分譲マンションでも採用されるようになったが、当時は画期的だった。
続けて、2021年12月には三井ホームによって日本最大級の地上5階建て木造マンション「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」が完成。全51戸が賃貸として貸し出された。
2022年3月には、長谷工グループによって、一部の棟を学生向けとする大規模賃貸マンションの「コムレジ赤羽」が誕生。同じ長谷工グループは、今年2月、バルコニーが反り返って見え、最上階に木造住戸を配置した賃貸マンション「ブランシエスタ浦安」を完成させている。
分譲マンションではまだ実現していない工夫が、賃貸マンションで次々に実現している。そのタイミングは、コロナ禍が起きた時期、そして新築分譲マンションが大きく値上がりした時期と重なる。
賃貸で「分譲超え」が続出する3つの理由
不動産会社がつくる賃貸マンションに分譲マンションでも採用されていない工夫がいち早く採用される理由は3つある。
まず、画期的な試みのマンションは会社のコントロール下に置いておきたい、と考えられるから。もちろん、生命に危険を及ぼすような建物を賃貸に出すことはないのだが、生活を続けると小さな支障が出る可能性はある。そのことを考えて、支障を把握し、対応しやすい賃貸にしておきたい、というのが不動産会社の本音となる。
賃貸マンションで「分譲超え」が続出する2つめの理由は、「賃貸ならば、住む人も新しい工夫に飛びつきやすい」ということがある。
分譲マンション、分譲一戸建ての場合、購入者は慎重に物件を吟味する。この先、何十年も住むことになる家なので、奇をてらわない家、基本に忠実な家を求める。つまり、冒険をしないものだ。
その点、賃貸住宅を探す人は、「住んで嫌になったら、住み替えればよい」と思うので、冒険を厭わない。むしろ画期的な工夫を喜ぶ傾向があるため、まずは賃貸で、という動きが生じるわけだ。
「賃貸であれば、画期的な工夫が喜ばれる」ため、工夫を凝らした物件は家賃設定を高くしやすい。それが3つめの理由となる。
コロナ禍が始まった2020年以降、首都圏では土地の値段と建設費が大きく上昇。それに伴って、新築分譲マンションの価格も上がった。都心部の大規模マンションであれば、高くても売りやすい。しかし、都心から離れ、小規模のマンションでは、「この値段で本当に売れるのか」と不安が出るケースも出てきた。
そのとき、工夫を凝らした賃貸マンションであれば、家賃を高くしても需要があると考えられた。
一般的な賃貸マンションは、分譲マンションよりつくりが劣るもの。その状況があるなか、分譲マンションよりも魅力の多い賃貸をつくり、家賃を高めに設定したわけだ。
事実、都心部で家賃が毎月300万円を超えるような超高級賃貸マンションはしっかりとした需要がある。そこまで高額ではなく、一般の賃貸より少し高い家賃で魅力の多い賃貸マンションも「借りてみたい」という人が少なからず存在する。
これは、「分譲超え」の工夫があれば、家賃設定を上げやすいことに通じる。
家賃設定を上げることができれば、建物にお金をかけて、魅力と安全性を上げることもしやすい。つまり、会社の誇りとなる賃貸マンションをつくりやすいわけだ。
以上3つが、不動産会社がつくる賃貸マンションに「分譲超え」が増えてきた理由と考えられる。
最後に、気になる賃料は?
不動産会社がつくる「分譲超え」賃貸マンションは、家賃設定が高めだ。といっても、びっくりするほど高額ということはない。
というのも、今増えている不動産会社の「分譲超え」賃貸マンションはそれほど広くないためだ。
完成したばかりの「The Parkhabio SOHO 祐天寺」の場合、全53戸はワンルームから4LDKとなり、ワンルームの住戸で25平米程度。4LDKでも70平米を切る。面積を抑えているため、月額家賃はワンルームタイプで14万円台からの設定となっている(別途管理費がワンルームで2万円必要)。
前述した木造の「MOCXION INAGI」は、東京都稲城市ということもあり、約50平米の2LDKが12万2000円からだった。
いずれも、エリアの相場家賃と比べると1割から2割高めの範囲に収まっている。
「The Parkhabio SOHO 祐天寺」の場合、東急東横線祐天寺駅から徒歩2分という好立地であるため、分譲マンションにしたら、50平米台の2LDKで8000万円以上という価格設定になってしまうのではないか。
分譲マンションの場合、ある程度の広さが必要になるので、どうしたって1戸の価格が高くなる。建物にお金をかけたら、1億円を超えかねない。
その金額になると、全戸を売り切るのは容易ではない。しかし、賃貸ならば、入居者を集めやすい。住戸を小さく区切り、少しだけ高い家賃設定にすることで、「そんな住まいを探していた」という借り手がいるからだ。
そう考えていくと、「約25平米で家賃14万円とか15万円の高品質賃貸マンション」をつくるのは、不動産会社にとっても、マンションを借りる人にとってもよい話となる。
東京の中心部や周辺部でマンション用地を仕入れたとき、不動産会社は分譲にしようか、賃貸にしようかと考え、賃貸マンションの企画も積極的に進める。そういう時代になったため、「分譲超え賃貸」が次々につくられているのである。