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日本で知られていない騒動ほかにも…開票前なのに米TV局が激戦州で「ハリス勝利」と誤報

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
9月にABC局が主催したテレビ討論会。(写真:ロイター/アフロ)

投開票日まであとわずか。年々増える期日前投票

アメリカはいよいよ今月5日、大統領選挙の投開票日を迎える。

全米各地ではすでに期日前投票が開始している。ニューヨーク州でも投票を早めに済ます人の姿が見られる。

投開票日を目前に控え、筆者はニューヨーク市選挙管理委員会の事務局を訪れた。4年に一度のこの選挙は大切な大統領を選出するだけあり、中間選挙と比べても人々の注目度は特に高い。「その盛り上がりはまるでスーパーボウルのよう」とマイケル・J・ライアン事務局長はそう表現する。それだけ一人ひとりの思い入れがある選挙。日本人としてちょっぴり羨ましくも感じる瞬間だ。

平日にあたる投開票日は多忙な人も多く、市内では2019年(大統領選では2020年)から始まった期日前投票制度を利用する人は年々増加の一途をたどっているという。

今年は期日前投票の初日にあたる先月26日の時点ですでに14万145人が市内で投票を済ませており、また週末を挟んだこともあり31日には70万1402人に膨らんだ。投開票日の前日までこの数字は伸びていくことが予想される。

西部2州では投票箱が燃える騒ぎ。ペンシルベニアでハリス氏勝利?(←誤報)

投開票日直前の今、アメリカではいくつか混乱も見られる。

米西部のワシントン州とオレゴン州の3ヵ所では期日前投票の投票箱が燃やされ、投票済みの投票用紙数百枚が消失する騒ぎが起こった。

ワシントン州に設置された期日前投票の投票箱。
ワシントン州に設置された期日前投票の投票箱。写真:ロイター/アフロ

日本ではそれほど報道を見ないが、アメリカではほかにも奇妙なことが起こっている。

米大手テレビ局ABCの系列局が、誤って激戦州ペンシルベニアでの選挙結果を「ハリス氏勝利」と報じたことが明らかとなった。

第一報で伝えたデイリーメールによれば、ペンシルベニア州北部を管轄するWNEP-TVが先月27日、F1メキシコグランプリを放送中に誤ったテロップを表示した。その誤報によると「ハリス氏が329万3712票、トランプ氏が299万7793票を獲得」。得票率は「ハリス氏52%、トランプ氏47%」で、ハリス氏が勝ったというのだ。まだ投票も終わっておらず、開票も始まっていないのに。

(同州の法律では、5日の午前7時まで郵送投票用紙を取り出すことや、投票所が閉まる午後8時まで投票用紙が集計されることは禁じられている)

WNEP-TVは誤りを認め謝罪し、原因については「5日の選挙前にテストの一環としてランダムに生成されたもの」と弁明したと、ニューヨークポストなども報じた。

しかしテストの一環として作られたものにしてはなかなかリアル感のある数字だ。このABC系列局の誤報により、ソーシャルメディアでは陰謀論が浮上し、不正選挙だとする騒ぎとなった。

ペンシルベニア州は例年通り、大統領選の行方を大きく左右する重要な激戦州の一つだ。前回(2020年)の選挙ではバイデン氏が1.17%の僅差でトランプ氏を破り、大統領選の勝利へと大きく導かれた。

今年の最新の世論調査によると、同州でのトランプ氏の支持率は48.2%で、ハリス氏の47.5%を0.7%上回っているという報告もある。世論調査はあくまでも選挙の行方を探る一つの指標に過ぎないが、いずれにせよここでも両者は拮抗していると言えよう。

テレビの誤報と言えば、アメリカではたまにある話だ。速報性を重視するメディアが前もって原稿を用意していることはよくあるようで、それが誤って流れてしまうことがある。

例えば、同じくABC系列でニューヨーク市を拠点とするWABC-TVは、2016年の大統領選の際、候補者だったヒラリー・クリントン氏が死亡したという誤報を流したこともある(著名人の年配者の死亡の原稿はすでに用意されていることが多いようで、この手の誤報はほかにも)。

ABCとハリス氏の関係

ABCと言えば9月、ハリス&トランプ両者の火花が散ったテレビ討論会を行なった局でもある。この討論会では、有罪評決を突かれたり「移民がペットを食べる」と問題発言をしたりしたトランプ氏がやや不利となり、ハリス氏に軍配が上がったとする見方が主流だ。

ただ、保守派の批評家からは「この時の2人の司会者はハリス氏が有利になるように導いた」とか「ファクトチェックがトランプ氏にとってフェアではなかった」などの非難も上がった。

ちなみに、ABCの親会社はウォルト・ディズニー・カンパニーであり、ウォルト・ディズニー社の女性幹部で次期CEO候補の一人とされるダナ・ウォルデン氏がハリス氏と非常に親しい関係にあることは、これまで大手紙ウォール・ストリートジャーナルやニューヨークタイムズが報じてきた通り。アメリカで注意深く選挙の行方を見守る熱心な有権者の間では周知の事実だ。

まるでスーパーボウルのごとくアメリカの人々が熱くなる4年に一度の大統領選。5日の開票後、その結果によって大混乱が起こらないことを祈るばかり。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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