明治天皇へ二度献上された「君寄せ」通年販売は一店舗のみ、卵黄の旨味と歴史が凝縮された銘菓です
長年愛されている御菓子に欠かせない要素のひとつとして、背景やストーリーが大きくかかわっているという点もあるかと思います。
素材、色や形、菓銘め込められた思いは、棹物から手の平に納まってしまう小さな上生菓子といった大きさ問わず非常に深いものがあることも。
広島県広島市にお店を構える「風雅堂」さんにて販売されている和菓子もそのなかのひとつ。
日清戦争の際、軍事や政の機能が全て集結した大本営とよばれる機関が広島に設けられ、当時は明治天皇も大本営に移られておりました。その大本営が広島に設置され解散されるまでの227日間指揮を執った明治天皇へ二度も献上された和菓子があるのです。現在広島にてその御菓子をお作りになっている店舗は3店舗程あるといわれていますが、通年販売なさっているお店はひとつだけ且つ都内へ出回ることが無い銘菓を、幸運なことにいただくことができました。
今回は「風雅堂」さんの「君寄せ」をご紹介。
ほんのり色付けはしてありますが、したたかな卵黄の色を宿した一見焼き目のないカステラのような蒸し菓子。すらり、とした切り口は確かにカステラや浮島のようでもありますね。
しかし驚くべきことに、こちらに使用されている食材は卵・お砂糖・手亡餡(白餡)のみ!
薄力粉や米粉などの粉類は一切使用されていないのです…それでいてこの佇まい、生地感。
驚きは続き食感もまたふんわり、それでいてしっとりとした繊細な口当たり。この三つの材料で、どうやったらこの空気感を表現できるのか…泡立てすぎてもそうでなくても成り立たない絶妙なバランスです。
贅沢に配合されているであろう卵黄の生臭さなどは一切感じられず、浮島とも軽羹とも例えきれない不思議な食感。卵の旨味がぎゅっと凝縮されているものの、決して押しつけがましくなくふくよかな白餡の余韻へとスムーズに切り替わる味わいは絶妙です。
実はこちらの御菓子、かつて明治天皇へ二度献上なさったのは「風月堂」さんという和菓子屋さん。残念ながら原爆投下の際に風月堂さんは無くなってしまいましたが、そちらで修行なさっていた風雅堂さんの初代が御菓子を引き継ぎ、令和の世までしっかりと紡いでいらっしゃいます。
幾たびもの大きな決断に直面してきたであろう明治天皇も、君寄せを召し上がるひと時は肩の力を抜いていらしたのでしょうか。
最後までご覧いただきありがとうございました。
<風雅堂>
広島県広島市中区富士見町6-12
082-241-2325
9時~18時
定休日 日曜